芸術をもっと身近に、1万円から共同保有できる「アートシェア」でマーケットに変革を

世界のアート市場は7.5兆円に上るが、一般的にアートは「お金に余裕のある人の嗜好品」というイメージが強く、なじみの薄い人が多いだろう。

「アート展に足を運んだり、ピンとくる作品を見つけたりしても、金銭的な問題や飾る場所がないからと購入は諦めてしまう人が多い。そんな人がもっとアートを気軽に、かつ深く触れられるサービスを作れたら」と考え、2018年に起業したのがANDARTで、松園詩織氏がCEOを務める。

ANDARTは「オーナー権」を1万円から得られるアートの共同保有サービス。オーナー権を持った人には作品オーナーとして名前を残し関係者限定の鑑賞イベント参加やマーケット情報の配信といった優待が与えられる。また、小口化された権利を後に売却することも可能だ。

大学生4年生でアート系プロダクトに携わる

写真に向かって左から、CEOの松園詩織氏、事業開発責任者の市川真理子氏

松園さんがアートと出会ったのは大学4年生のとき。

「もともとアートは好きでしたが、ビジネスの観点からも興味を持ち始めたのは、アートのキュレーションサイト『アトコレ』でインターンをしたときです。経営陣は成田修造さん(現クラウドワークスCOO)、中川綾太郎さん(現newnCEO)、石田健さん(現マイナースタジオCEO)というそうそうたるメンバー。彼らと一緒に働いているうちに、アート業界のようなアナログでブラックボックスも多い領域にこそ、IT人材が交わることで大きなインパクトを残せる可能性のでは、と考えるようになりました」。

「その後、就職や職種を変えながらも、仕事でアートフェアに関わるなど複数の縁があり『どうしたら多くの人がアートにもっと興味を持つだろう』と自然とのめりこんでいきました。また、リアルな実態としてアートを購入してマーケットを支えるのは富裕層や熱心なコレクターですが、もっと多くの人に機会が開かれてもいいはず。その手段としてアートの分散保有というアイデアで起業することにしました」。

起業は想定外の困難の連続。それでも前進できる理由

2018年に会社を退職しANDART(当時ARTGATE)を起業。藤田ファンドやエンジェル投資家から2600万円を調達しサービス開発を始めた。経営者となり最初の課題は強固なメンバー集めだったという。

「アートというドメインは少し特殊で仲間集めも難易度が高いほうだと思います。ビジネス人材の中で最初からアート界を熟知している人間はほぼいないし、イメージ湧きづらいですよね。なので特に創業メンバーはすでに十分な信頼関係がある人と決めていていました」。

「仕事の精度やテンポ、自分にないスキルを持っているかという点はもちろんですが、結局は信頼できてマインドが同じ方向むいているかが大切だなと。そこでまずはサイバーエージェント時代の先輩である高木(現COO)が浮かびました。その後メンバーの入れ替わりも経験し、実際に1年以上会社を続けてきて改めてチームワークの大切さを痛感しています」。

「困難に直面した時にこそ人間性と信頼関係が試されるし、いわゆる過去の知見とか正直意味ない(笑)というくらいに全員が自分の幅を拡げて初めての領域で初めてのチャレンジもしてくれています。逆に言えば『柔軟で一体感のあるチームができればどんな事業だってできる』ともいえるのかなと。まだまだ少数ですが隣にいる市川(事業開発責任者)をはじめ、それぞれ尊敬できるいい仲間が集まってきています」。

取扱高1.2億円、会員数約4000人、リリース9カ月で見えてきた真の価値

現在の会員数は約4000名。「アートは好きだけどわからない」という苦手意識を持った層へのリーチに成功しているという。

事業開発とデジタル広告も担う市川真理子氏は「ユーザーアンケートで約7割はANDARTがきっかけで初めてアートにお金を投じた人たちです。つまりこれまで鑑賞体験だけに留まっていた人たちに対しハードルを下げることで購入という一歩を踏み出すきっかけを提供できている。これはアートマーケット全体に対して大きな価値となっていくと思います」。

「現にANDARTプラットフォームをきっかけに共同保有と並行して『個人所有の購入サポート』のリクエストやお問合せをいただくことも増えていて、新たな経済圏を創る足がかりになっています」と話す。

今後はさらにコミュニケーションを強化し、アートへの理解を深めるオウンドメディアやメールマガジンなどで、アートを生活に取れ入れたら日常がどう変わるか、作品の解釈の仕方などアートビギナーにとって有益な情報を配信しその延長線上でアートと会員の上質なマッチングを創出していくという。

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TechCrunch Japan

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