起業家はSF小説を読むべきだ

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編集部注:Ben Narasinは25年のキャリアをもつ起業家だ。これまでに8社に対するシード投資の経験を持ち、現在はCanvas VenturesでGeneral Partnerとして勤務している。

この世界には3つのタイプのSF小説がある(あくまでも私の意見だが):駄作、駄作の続編、そして本格的なSF小説だ。最後のタイプのSF小説には未来の世界像が豊富に描かれている。その未来像のなかには、現在私たちが住んでいる世界ですでに実現しているものも多い。その未来像が多くのテック・スタートアップや世界レベルの起業家たちから参考にされ、彼らに影響を与えている。

1993年にfashionmall.comを創業した当時、生まれたばかりのWebをビジネスにしようとする人々がいて、どのような方法でビジネスにするのか、または、それは本当に可能なのかという議論がいたるところで交わされていた。そんな時、1冊のSF小説が私にWebの進化についての先見の明を与えてくれた。この本がなければ、その6年後に自分の会社を上場することなど不可能だったのかもしれない。

当時の人々の多くは、Webが平等主義者にとって素晴らしいコミュニティになるだろうと考えていた。すべてが平等で、たった1クリックで到達可能なコミュニティだ。Webを構築しさえすれば、人々が集まる。Neal Stephensonが書いたSnow Crashを読んだとき(PayPalの創業者であるReid HoffmanとPeter Thielが、創業前にこの本について議論を交わしながら週末を過ごしたことを後になって知った)、そこにより地理学的にWebを捉えたメタファーが書かれていることに気づいた。入口こそが最も価値のある土地であり、クリックを重ねてその土地から離れれば離れるほど、不毛の大地となっていくというメタファーだ。

その本から得た洞察をもとに、私は今でいうところのポータルサイトとの交渉に2年を費やすこととなった。そして、AOL、Excite、Yahoo、Netscape、Microsoftなどの企業との取引を成立させることになる。結局、私たちは自分たちがフォーカスする分野においてはこれらの企業以上の存在となることができ、自分たち自身がポータルとなり、そして上場企業の一員となることができた。1冊の本に書かれたビジョンが私たちの助けとなったのだ。

企業の創業者たちの間では、SF、ファンタジー、ロールプレイングゲーム、コミックが共通の関心ごとであることも多い。私はその関心を失うべきではないと言いたい。SFやコミックは未来のビジョンを与えてくれるものであり、そのビジョンを起業家が実現し、そのビジョンに投資家が出資するのだ。Charles Strossが書いたゲームについての著作のなかには、私が見る多くのピッチよりも優れたARやVRについてのアイデアが書かれている。StephensonのDiamond Ageに書かれた素晴らしいEdTechのコンセプトは、まだ実現されていない。John Barnesが書いたMother of Stormsは地球温暖化が与えるインパクトを予知しているだけではなく、パテント・トロール、市民ジャーナリズム、個人衛星の打ち上げなどのアイデアが、それらのコンセプトが誕生するはるか以前に描かれている。

中国でさえもSFの重要性に気がづいている。Neil Gaimanは「2007年に行われた中国初の国家主導によるSF大会」で交わされた共産党幹部との会話を詳細に語っている。なぜ中国で大会が開かれたのかという質問について、その幹部は:

この数年間、私たちは製造業で素晴らしい功績を残してきました。iPodを製造し、電話を製造してきたのも私たちです。私たちは世界の誰よりも製品を製造することに長けていますが、製品のアイデアを考え出したのは私たちではありません。そこで、アメリカに訪れ、Microsoft、Google、Appleなどから話を聞くことにしたのです。そこで働く人々に私たちは沢山の質問をしました。それによって分かったのは、彼らが皆SF小説を読んでいるという事でした。だからこそ、SF小説を読むことは良いことなのかもしれないと考えたのです。

それから10年が経ち、単にモノを製造するのではなく、モノを創り出すという中国の試みは著しい成功を納めている。SF小説だけが成功の理由だとは言わないものの、その要因の一部だったと考えられるだろう。

テック分野の起業家、その予備軍、そして企業の創業者たちはSF小説を読む必要がある。なかには若いころに夢中になったSF小説を今でも読み続けている人もいる。過去のSF小説を読むことによって現在を捉えることだけが重要なのではなく、現在出版されている小説も読むことで未来を想像する助けとなってくれるだろう。

私は数週間おきに図書館を訪れ、新しく出版されているSF小説をすべてチェックするようにしている。駄作もある。何章か読んだ後に読まなくなる本もある。暇つぶしに最適なものもある。しかし、ものの見方や考え方を変えてくれる本もある。私の心のなかにある未来への窓を開き、そのビジョンをもつスタートアップを探し求めるのだ。

NASAが宇宙から写真を持ち帰えると、数名のSF小説家などが招かれて写真のレビューが行われると聞いたことがある。SF小説家たちは、NASAが抱える数多くの優秀な人材を差し置いてチームに参加するのだ。SF小説家たちは彼らの人生を科学に捧げ、彼らが描く未来を小説という形で書きおこしている。思うに、彼らと同じく未来を創っていく起業家にとって、彼らの作品から何かを得るために週末の数時間を費やすだけの価値はあるだろう。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

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TechCrunch Japan

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