500 Startups JapanからCoral Capitalへ、ジェームズ&澤山氏の新しい挑戦

2号ファンドは50億円超を組成

「いつかは自分たちのファンドを作りたかった」とFounding Partnerの澤山陽平氏。澤山氏はJames Riney(ジェームズ・ライニー)氏とともに、米国発祥のベンチャーキャピタル(VC)の日本向けファンド「500 Startups Japan」を3年前に立ち上げた。

左から、小林恭子氏(Executive Assistant)、澤山陽平氏(Founding Partner)、James Riney氏(Founding Partner/CEO)、吉澤美弥子氏(Senior Associate)、津田遼氏(Talent Manager)

その両名と500 Startups Japanのメンバーは3月5日、新VCファンドとしてCoral Capital(コーラル・キャピタル)を設立し、Coral Capital II, L.P.(Coral Capital 2号ファンド)を組成。約2カ月半の一次募集で、ファンド総額(出資約束金額の総額)が当初目標である50億円に達したという。同ファンドは、シードステージの日本のスタートアップ企業を投資対象とする。

主な出資者は、みずほ銀行、三菱地所、電源開発(J-POWER)、新生銀行などの事業会社、日本や米国シリコンバレー、香港、シンガポールの個人投資家またはその運用ファンド、機関投資家となっている。ジェームズ氏によると「シリコンバレーのVCは機関投資家から資金を集めることが多いですが、日本ではほとんと事業会社からの調達でした。しかしCoral Capital 2号ファンドでは、ほぼ半分が機関投資家からの出資です。起業やイグジットを経験したエンジェル投資家なども含まれており、機関投資家が純投資として出資しているのが特徴です」と語る。

Coralとはサンゴ礁のことで、海の生物を下支えするサンゴ礁のように、スタートアップ業界で起業家を支える存在を目指すという意味が込められている。ジェームス氏は500 Startups Japanの設立当時を振り返り、「当時、日本に興味を持っているシリコンバレーのVCはほとんどなく、中国などを見ていました。しかし、日本にも有望なスタートアップが多数存在していたので、シリコンバレーの手法を日本に持ち込めば活性化するのではと考えました」という。

これまでの500 Startups Japanの活動を振り返ると、JKISSと呼ばれるシード資金調達のための投資契約書をオープンソースで無償公開。

人工衛星向けアンテナシェアリングプラットフォームを開発するインフォステラの総額8億円のシリーズAラウンドの資金調達をまとめた。このラウンドではエアバスの投資部門であるAirbus Venturesがリード投資家として参加するなど国内では相当珍しい資金調達となった。

クラウドで労務管理サービスを提供するSmartHRのシリーズBでの15億円の調達を、SPV(Special Purpose Vehicle)という日本では珍しい手法で組成したこともある。SPVは、特定の企業やプロジェクトなどに資金を投資する目的で専用のファンドなどを組成する手法で米国では一般的なもの。500 Startups Japanはこの手法を日本に持ち込んだわけだ。

そのほか、500 Startups Japanが最初に投資したレストランの予約・決済サービスを提供するポケットコンシェルジュが、2019年1月にアメリカン・エキスプレスに買収されたのも記憶に新しい。

投資以外の活動としては、500 Startups Japanで専任の採用担当を置き、合同の採用イベントを開催。設立間もないスタートアップは人材集めに苦労することを多いが、こういったイベントでの出会いで優秀スタッフを採用できた企業もある。来場者は30代が中心でエンジニアは2割ほど。「コミュニティーの強さには自信がある」と澤山氏。「500 Startups Japanでイベントの写真などをアップするのですが、参加者は子供連れの人も多い」と続ける。500 Startups Japanでは若手起業家はもちろんだが、30代、40代のキャリアを積んだ人材の起業を積極的に支援していることもあり、コミュニティのイベントには家族連れが多くなるそうだ。

500 Startups Japanがこれまで手がけてきたこれらの活動が、そのままCoral Capitalに引き継がれる。「500 Startups Japanのままではいけないのか?」という問いには「自分たちでやってみたい気持ちが強く、既存LP(リミテッドパートナー)からの支援もあったので、Coral Capitalを立ち上げることにした」と澤山氏。続けて、「米国の500 Startups本体はどちらかというとアクセラレーター的な傾向が強く、Japanとは支援方法が異なると感じていた」とも話す。また「とはいえ、500 Startupsとは袂を分かつわけでなく、これからも良好な関係を続けていく。もちろん、500 Startups Japanで組成したファンドについては今後もしっかりサポートしていく」とのこと。ジェームズ氏は「500 Startups JapanがリブランドしたのがCoral Capitalと考えてほしい」と答えてくれた。

なお神戸市が500 Startupsを共同で進めている「500 KOBE ACCELERATOR」については、「500 Startups Japanの設立前から神戸市と500 Startupsが進めていた取り組みなので、500 Startups Japanはこれまでサポートとして関わってきました」と澤山氏。詳細は決まっていないとのことだが、500 KOBE ACCELERATORへの影響は特にないとのこと。

シリコンバレーのVCの手法を日本に持ち込みつつ、日本に根ざしたスタートアップ支援活動を進めるCoral Capital。Coral Capital 2号ファンドも順調に推移しているので、今後どのようなスタートアップが輩出されるのか楽しみだ。

投稿者:

TechCrunch Japan

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