AngelList(エンジェルリスト)は、新しいプロダクトスイーツ「AngelList Stack(エンジェルリスト・スタック)」を公開した。ファウンダーが会社を立ち上げ、運営し、自分たちの会社の所有を維持するためのサービスを提供するもので、Carta(カータ)と競合する。新ソフトウェアは4つの要素を扱う。エンド・ツー・エンド・インコーポレーション(会社設立の始めから終わりまで)、ビジネス・バンキング、アドバイザーへの株式提供、およびキャップテーブル(資本政策表)管理だ。
「会社を立ち上げる人は誰でも、まず楽観的に始めます」とAngelList CEOのAvlok Kohli(アブロック・コーリ)氏はいう。「自分にはこのアイデアがある、自分には絶対的自信がある、どうしてもそれもやりたい。そしてそこには、何とかしなくてはならない現実的な作業がたくさんあります」。
AngelList Stackのアイデアは、それらの平凡かつ難解な企業立ち上げプロセスの一部を単純化しようとするものだ、とAngelListに参加するまでに連続起業家だったコーリ氏は語る。
エンド・ツー・エンド・インコーポレーションサービスは、会社設立に必要なペーパーワークを、どの州で法人化するかを決めることから、達成しようとする事業区分まで細かく支援する。さらに、ファウンダーが83(b)申請を管理、提出するのも手助けする。これは株式を保有する企業にとっては細かいことだが重要な書類で、正しく行わないと数百万ドル(数億円)の追徴課税を払うことになりかねない。
ファウンダーにわかりやすいUX(ユーザー体験)を提供することで、AngelListは正式な会社立ち上げにおいて弁護士に相談する以上のものを提供したいとコーリ氏は考えている。
「弁護士は概して、法人化をファウンダーとの関係を構築し、将来一緒に仕事をするための客寄せ、あるいはペーパーワークを簡単にするだけの仕事だと思っています」とコーリ氏はいう。「しかし、そこで終わってしまいます」。AngelListはそうではなく、そこでファウンダーを次のツールへと案内する。バンキングサービスだ。
バンキングツールには2種類ある。利息が付く預金口座とデビットカードだ。どちらもファウンダーが投資家からの電信送金を受け取るのを容易にし、その情報はAngelListの新しいキャップテーブルツールに取り込まれる。キャップテーブル・ツールはデジタル株式、SAFE(将来のエクイティに関する簡易同意書)の発行、409Aの報告、従業員オプションの授与などを行う。
「ファウンダーは最初のSAFEラウンドを、投資家にリンクを送ってデジタル署名をもらうことで、すべてStack上で行うことができます」と同社は声明で語った。「資金が銀行口座に届いたら、自動的にキャップテーブルに追加されます」。
Cartaのフルバージョン
AngelList Stackには、Carta(旧称eShares)との類似点がある。AngelListがエンジェル投資家とベンチャーに焦点を当ててスタートしたのに対して、Cartaは従業員とファウンダーをターゲットにして登場した。時間が経つにつれ、両社ともにスケーリングを追求し、Cartaはキャップテーブルの分野を支配し、AngelListはシンジケート投資と資金運用を引き受けた。両社が成長するにつれ、ベンチャーとスタートアップのためのエンド・ツー・エンド・スタックになるというビジョンはオーバーラップしている。
AngelListは、Cartaと比べて小さな組織で、Crunchbase(クランチベース)によると、これまでに獲得した資金は2620万ドル(約29億3000万円)にすぎない。資金調達する能力は必ずしも会社が成功する能力を表さないが、顧客(他のスタートアップ)がボラティリティに直面した時のランウェイ(会社が存続できる猶予期間)を会社に与える。両社とも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの早い時期にレイオフを経験した。それ以来変わったことの指標として、AngelListはプロダクト・ロードマップに遅れないために、95名のスタッフをこの1年間で2倍近くに増やしたと語った。Cartaは最近自社ツールを使って自身のキャップテーブル管理と評価サービスを74億ドル(約8284億3000万円)と評価した。
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「ファウンダー固有のさまざまな問題を解決することに関して、固有の解決法の実験が数多く行われています」とコーリ氏が競合他社を指して語った。「ファウンダーは常に1つにまとまることを好む、というのが私たちの見方です」。
開始時点でAngelList Stackのサービスは無料だが、将来AngelListは、SaaS管理手数料、あるいは同社の財務ツールの手数料を通じて収益化するつもりだ。
まずネットワーク、次にプラットフォーム
プラットフォーム事業はAngelListにとって新しいものではない。2020年、同スタートアップはローリングファンドを開拓した。関心を持つ投資家から四半期サブスクリプションを通じて資金を調達する投資ツールだ。同サービスの初期の勢いは、同社がベンチャーSaaSにより広く、より深く焦点を合わせるべくピボットするきっかけになった。
AngelListはファウンダーに関しても同じような戦略を追求している。ファウンダーがキャップテーブルに1行記載するだけで250の認定投資家から資金調達ができるロールアップツールの先駆者となり、現在多くのサービスへと拡張している。言い換えると、AngelListはベンチャーをバラバラにしてファウンダーサービスをまとめ直しているように見える。
「私たちは2つの事業をまったく異なるやり方で構築しています」とコーリ氏はいう。ファウンダー向けプロダクトはワークフローソフトウェアにより焦点を合わせ、投資家向けのメインプロダクトはワークフローソフトウェアと資本配分に焦点を絞っている、と同氏は説明した。
資金提供者とファウンダーをつなぐことはAngelListが追求すべき自然なシナジーのように感じられるかもしれないが、同社はHum Capital(ハム・キャピタル)やClearCo(クリアコ)のような資金調達マーケットプレイスになるつもりはないとコーリ氏は説明した。
「この市場はかなり効率的だというのが私たちの見方であり、現在起きているものよりずっと良い体験を提供することはできません」と彼はいう。皮肉なことにこの発言は、エンジェル投資家と起業家を結びつけるというAngelListの当初目標からは一歩離れている。サポートSaaSツールへのピボットが進むにつれ、AngelListは10年前、いや5年前と比べても大きく異る会社になっている。
かつてコーリ氏は、AngelListの強みは資金ネットワークだと説明していた。この度の発表は、AngelListを資金とクリエイターのネットワークにしようとする大きな動きを感じさせる。創業10年の同社は再ブランド化を行った。AngelList.comは最近、ブランドを変えてAngelList Venture(エンジェルリスト・ベンチャー)とローリングファンドだけを扱うようになった。Talent(タレント)とProduct Hunt(プロダクトハント)というAngelListの他のサービスは別のウェブサイトに移動し、独立組織として事業を継続している。
画像クレジット:melitas / Getty Images
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(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Nob Takahashi / facebook )