GoogleとMonotypeが全言語対応フォントのNotoを公開

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サービスで世界中をつなぎ合わせようとしているGoogleは、これまでモバイルサービスや検索エンジン、地図、コネクティビティ、デバイスなどさまざまな分野に挑戦してきた。そして本日Googleは、野望を叶える上で欠かせない分野である一方、あまり注目されることのないフォント界での取り組みについてある重要な発表を行った。

そこでは、フォントの専門家であるMonotypeとの協力のもとで生まれた、Notoプロジェクトがお披露目された。5年におよぶ両社のコラボレーションの末に誕生したこのタイプフェイスは、単一のスタイルで800以上の言語と100種類以上の表記に対応している。既にこのフォントはオープンソースのOFL(オープンフォントライセンス)として公開されており、そのまま利用するだけでなく、フォントデザインに改変を加えることもできる。

ユーザーがどの言語でデジタルコンテンツを創作・消費しようと、白いボックス(通称”豆腐”)として表れる”未知”の文字を表示させないようにする、というのが両社の大きな狙いだ(Notoは”No to(fu)”という意味でもある)。さらにGoogleとMonotypeは、全言語のフォントが視覚的に統一されれば見た目にもよいと考えている。

両社がこのプロジェクトに取り掛かりはじめたころ、疑いの目を向ける人がいたのも確かだ。そんな人たちの意見が、パキスタン系アメリカ人ライターAli Eterazの以下の言葉に上手くまとめられていると個人的には思う(2014年にNPRが引用しているが、この頃プロジェクトは既にかなり進行していた)。

「2つの考えの間で揺れているんです」と彼は言った。「このGoogleの普遍主義的なプロジェクトは、無害、もしくは有益でさえあるかもしれない。でもその一方で、技術的帝国主義のようにも感じるんです」

手元にさまざまな種類が揃っていれば、フォント選びはとても楽しく開放的である上、正しいフォントを選ぶことで自分のメッセージが上手く伝わる場合もある。

そういった意味では、Notoプロジェクトの結果生まれたのは、想像力をかき立てるというよりも機能的なフォントだと私は思う。文字ひとつひとつが、考えうる限り最も当たり障りなくニュートラルで(ベーシックな英語のサンセリフ体を下に掲載している)、フォントスタイルには、さまざまなウェイトや台詞・サンセリフ体、数字、絵文字(基本的にはGoogleの絵文字)、記号、楽譜用の記号などが含まれている。

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しかし機能面から考えると、真の意味でのグローバルフォントを作り出すというのは、価値のある素晴らしい取り組みであると同時に、その結果誕生したフォントもすっきりしている。

「Google Notoは、その規模や範囲を考えると気の遠くなるようなプロジェクトでした。それでも、これまで誰も挑戦してこなかった問題を解決できる素晴らしい製品を、5年間のハードワークの末に誕生させることができ、私は誇りに思っています」とGoogle国際化部門のディレクターであるBob Jungは声明の中で語った。

「Notoプロジェクトにおけるゴールは、私たちが販売するデバイス用のフォントを作ることでしたが、同時に情報を保護する活動にも興味がありました。話者数が減っている言語や、学問の世界でしか使われていない言語、さらには既に使われていない言語で残された情報を保護するのは、とても重要なことだと考えています。デジタルフォントのNotoがなければ、そのような文化資源を守っていくのは大変難しいでしょう」

私が面白いと感じたのは、プロジェクト開始当初のGoogleとMonotype間での仕事の割り振りだ。

Monotypeは実際のデザイン業務を主に担当していた。その業務内容は、「文字・表記システム・文字体系に関する研究やそのデジタルデザイン化、個別言語のルールや慣習をフォントに適用する作業、さらには世界中の外部デザイナーや、表記に詳しい言語学者の管理など」だったとMonotypeは言う。

Googleは、その強力なエンジニア陣やその他の力によって、クライアントの役割を務めていたようだ。つまり、Monotypeがやらなければいけない事項のパラメーターを設定したり、その対価を支払ったりというのをGoogleが担当しており、「プロジェクトの要件や範囲を定義し、主要言語のデザインの方向性に関する重要な指示を出していたほか、デザインレビュー、技術テストのリソース提供、さまざまな言語に関する専門的なアドバイスの提供以外にも、このプロジェクトを実現させるための資金を供給していた」。

さらに両社は、「世界中から何百人もの研究者、デザイナー、言語学者、文化学者、プロジェクトマネージャーがGoogle Notoに関わっていた」とも話す。

Googleは、さまざまなサービスをローンチすることで、インターネットに接続されている所であれば、どこにでもその足跡を残そうとしており、Google Notoの開発プロセスはその動きに沿ったものであった。さらにこれは、言語に関するGoogleの他の取り組みとも合致する動きで、話者数を問わずにさまざまな言語をカバーしている翻訳サービスがその筆頭だ(今年Google Translateの対応言語数は100を超えた)。

商業帝国主義的な要素があるのではないかというコメントに関し、2011年のUnicode 6.0(現行は9.0)リリース時からGoogleと提携しているMonotypeは、ある程度このような反応に配慮しながらプロジェクトに取り組んできたようだ。

例えば、チベット語へのアプローチについてMonotypeは「さまざまな文献や資料をしっかりと研究した後、仏教寺院の協力を仰いでフォントを批評してもらい、それをもとに修正を加えました。修道僧はチベット語の原稿を絶えず読み込んでいることから、チベット語版のNotoを評価するには最適な人材で、最終的なフォントのデザインを決定する上で、彼らの助言はとても有益でした」と説明する。

Notoフォントは本日リリースされたが、MonotypeとGoogleはこれが完成形とは考えておらず、Unicodeの進化にあわせて、今後新たな表記やウェイトが追加されていく予定だ。

「私たちは熱意をもって活字というものに取り組んでおり、さまざま文化・言語・地域で活字が利用されるように日々の活動に取り組んでいます」とMonotypeの社長兼CEOのScott Landersは話す。「歴史上最も重要な活字プロジェクトのひとつとなったNotoで、こんなに大切な役割を担うことができて光栄です。Monotypeのフォントに関する専門性とGoogleの革新性が合わさることで、こんなに生産的な関係が生まれることがわかったので、今後もフォントがさまざま場面で利用されるように、このコラボレーションを続けていくのが楽しみです」

Notoフォントの取り組みに関する詳細については、こちらのGoogleとMonotypeのビデオをどうぞ。

Creating Noto for Google from Monotype on Vimeo.

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

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TechCrunch Japan

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