「上場ゴール」という本末転倒な上場案件を憂う声が各方面から聞こえてくる昨今だが、ジャパン・ベンチャー・リサーチ(JVR)が今日発表したレポートによれば、gumiのような一部の事例をのぞくと、2013年、2014年と、IPO企業は数の点でもパフォーマンスの点でも上向きのトレンドにあるようだ。
国内新興市場での2014年のIPO企業の社数は80社と、2013年の58社から37.9%増加。2007年のライブドア事件後に続いた新興企業の不祥事により投資家離れが始まり、2009年のリーマン・ショック時にIPO件数は底を打った。しかし、まだ2004〜2006年の半数のレベルとはいえ過去5年は一貫してIPO件数は増加傾向にある。
2009年の谷の前後にあたる2007年から2012年の6年間では、公募による資金調達額がIPO前の資金調達額を下回っている。つまりIPOするメリットが出にくかったが、この傾向も2013年からは逆転。2013年には1.37倍、2014年には1.44倍と資本市場からの調達額が上回り、IPOすることにメリットが出る傾向が続いている。
IPO時のパフォーマンスということでいえば、初値PER、初値時価総額とも2006年以降で最高値となっていて、2013年でPERは約50倍、2014年で約63倍となっている。
スタートアップ界隈にとって朗報といえるのが、公開後の株価の推移を示す初値騰落率が、一昨年、昨年と高水準にあること。2006年から2012年までは50〜60%と100%割っていたものが、2013年、2014年と125%、126%と推移している。IPO前の時価総額と初値時価総額の比は、4.77倍(2013年)、4.58倍(2014年)となっていて、これは最終ラウンドの資金調達で投資ができていれば、IPOによってVCが4倍や5倍のリターンを得られることを示している。
良い意味で、VCが儲かる構図に
甘い売上予測や上場審査で株価が一時だけ過剰に上がり、結局はその瞬間に売り抜けたVCや証券会社だけが得をして個人投資家が損をするという資本市場の信頼性を損なう動きがあったのだとしたら、「VCが儲かる構図」というのも否定的なニュアンスを帯びてくる。しかし、スタートアップ企業にリスクマネーを投資する主体であるVCが儲からないようでは、エコシステムとして活性化しないのだから、これは歓迎すべき傾向だと言えるだろう。2008年や2009年だとせいぜいIPO前の2倍程度の時価総額にしかならない上に、ロックアップ期間の3カ月を抜けたときにはリターンが残らない状況だった。そういう状況に比べれば、IPO市況は良いと言えそうだ。
ところで、新興市場の浮沈を見てきた証券市場関係者や投資家、経営者に話を聞いていると、その多くが口を揃えるのが上場審査厳格化の必要性だ。といっても上場ハードルを上げろという話ではない。むしろ取引所の審査体制の「正常化」という意見であることが多い。スタートアップ企業や経営者が背伸びをするのはある意味では当然だし、証券会社に新規上場数を増やすインセンティブがあるのも自明だ。となれば、いつでも黒字化できる体制にあるなり、安定したビジネスモデルを築くなりしている企業かどうか、それをゲートキーパーとしていちばん注意して見るべきなのは、上場審査をする取引所ではないのか。いくつか問題が連続して発覚したからといって証券会社や監査法人、まして経営者に注意喚起をするだけでは困る。これでは部下のミスを叱りつけるだけで自分では重たい仕事をやろうしないイケてない上司みたいではないか、ということだ。
ともあれ、一部の企業の業績の「盛りすぎ」や、情報開示方法の問題によってIPO市場や新興市場が冷え込まなければ、と心配するのは、ほとんどの関係者の声であるのは事実。こうした中で考えると、今回のJVRの調査は明るい材料と言える。資本市場、特に新興市場が健全に機能して、社会に必要な変革の力が日本に満ちることをメディアの立場からも願ってやまない。