月面に永続的な構造物を建造するということは、何度も月面着陸を繰り返すことが必要だということを意味している。そこでNASAの研究者たちは、そうした着陸を、できる限り信頼性高く安価に実現したいと考えている。この「パレット式着陸船」ロボットのコンセプトは、月着陸船と同時に月面に最大300kgまでのローバーや貨物を着陸させるための極めて単純な方法だ。
米国時間11月25日に発表された技術論文で詳述されているように、この着陸船はスペースパレット(荷台)の一種だ。将来のミッションで基本ユニットとして使用できる強力で基本的なフレームワークである。これはまだコンセプト段階であり、実際の名前が付いていないため、とりあえずこの記事の中では「スペースパレット」と呼ぶことにする。
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これは、「コストとスケジュールを最小限に抑え」つつ、ローバーをただ安全に月面に運ぶことだけを目的としたVIPERミッションの関連研究で生み出された、デザイン的進化である。普段なら(少なくとも理屈の上では)コストをパフォーマンスに優先させることは滅多にないのだが、論文の序文にはこう書かれている。
この着陸船のデザインは、従来のようなリスク、質量、および性能のトレードパラメータが、コストよりも低く評価される最小レベルの要件セットに基づいている。言い換えれば、チームは「より良い」または「最高に良い」にこだわって「とりあえず十分」を諦めることはしなかったのだ。
もちろん月着陸船の話をしているときには、「とりあえず十分」という表現を使っても、ぞんざいな仕事を意味しているということはあり得ない。それは単に5%強い引っ張り強度を持つが50倍高価な素材を調達することが、価値あるトレードオフとは判断されなかったといった程度の意味なのだ。まったく同じ理由で私達は通常の貨物パレットに黒檀やニレを使用したりはしない。代わりに、地上でテストされた、いわば堅い松の板に相当する宇宙飛行素材を使っている(チームは内容に少し推定が混ざっていることを認めているが、これは何よりもまず現実的なアプローチであることを強調している)。
このスペースパレットは、Falcon 9ロケットの上に載るDragonなどの商用打上ロケットを使って、宇宙に送り出される。打上ロケットはパレットとその積載物のローバーを、月に向かう軌道へと投入する。数日後、スペースパレットは必要な着陸操作を遂行する。姿勢制御、着陸場所選定、減速、そしてローバーのソーラーパネルを太陽に向けた形でソフトタッチダウンを行うのだ。
着陸したあとは、ローバーは(パレットから降りて)数時間のうちに目的に向かってまっしぐらに進んでいく。着陸船そのものはいくつかの月面写真を撮影し、地球上にいるチームのために周囲の情報を送り出したあと、8時間程後には永久にシャットダウンする。
「そのとおり、残念ながらスペースパレットは月の夜を生き延びる能力は持たされていない」と研究者は指摘する。月面に存在するものはどれも強力な資源となるが、月の数週間におよぶ寒くて空気のない夜を着陸機が乗り切れるような、電力と熱のインフラを提供するには費用がかかる。
それでも、この船には、後から他の人に役立つ可能性のある、控えめで自律動作できる科学実験装置やハードウェアを装備しておくことはできる。おそらくナビゲーション用のパッシブビーコンや、近隣の隕石衝突を検知するための間欠的地震センサーなどだ。
搭載される可能性のある科学機器や、このスペースパレットがコンセプト段階よりも先に進めない場合の代替策について、私はもう少し質問してみた。しかし、仮に先に進めなかったとしても、チームは論文の中で「これらの技術や他の派生技術は、他の着陸船の設計やミッションに拡張可能であることに注意しておくことが重要だ」と書いている。
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(翻訳:sako)