昨年10月の決算発表時にアナウンスされたNTTドコモのスタートアップ支援の詳細が本日明らかになった。すでに発表のあった通り新たな投資ファンドとインキュベーションが設立され、NTTドコモはスタートアップとの連携を強化していくようだ。
この2つの新事業はドコモ・イノベーションファンド、ドコモ・イノベーションビレッジと名付けられ、ドコモ内のリソースはもちろん他のインキュベーションなどとの提携を行いスタートアップを支援する。これらを運営するためにドコモ・イノベーションベンチャーズという会社が新たに設立された。
イノベーションファンドの運用金額は100億円で、運用期間は10年だ。主にモバイルに関連するベンチャー企業に出資し、資金的な支援をするとともにドコモのサービス開発を強化するために提携なども視野に入れているという。
出資する規模に関してはシードステージからミドルステージが中心になるという。もちろん、レイターステージでも投資を検討するが、かなり大きな金額になる場合はNTTドコモ本体からの出資となるだろうとNTTドコモ執行役員の中山俊樹氏はいう。
投資対象には当然だが、インキュベーションであるイノベーションビレッジの卒業生も含まれる。このインキュベーションは5カ月間のプログラムで、その間にサービスのβ版を完成させる。オフィススペースの提供、社内・社外のメンターによるアドバイス、開発環境の提供などが用意されている。
この他、ドコモのユニークな点として、ドコモのAPI(音声認識、アプリ検索、翻訳など)の解放、プログラム参加企業に200万円を開発助成金という名目でコンバーチブルノートによる資金を提供する。プログラム終了後、サービスによってはドコモのサービスとの提携、dマーケットなどによるプロモーションの支援などが実施される。
5カ月間のプログラムというのは日本にある他のインキュベーションに比べるとやや長いが、サービスの開発だけでなくビジネスモデルなども含めてメンタリングするため、少し長めの期間を設定したそうだ。
イノベーションビレッジは本日から応募が開始され、第一回では5、6社を採択する予定だ。テーマは「グローバル・スタンダードになりうる、モバイルを活用したサービス」とかなり大雑把だが、全体を通して中山氏はグローバルに通用するサービスを支援したいと語っていた。
グローバルに通用するかどうかの判断をするのは極めて難しい。実際にサービスを世界の人に見てもらわないと判断はできない。しかし、インキュベーションビレッジはシリコンバレーでも有数のインキュベーションである500 Startupsと提携しているため、シリコンバレーのメンターが付くことによりシリコンバレーの感覚というものはある程度感じれることだろう。
提携は海外だけでなく日本国内のインキュベーションとも積極的に行う意向で、B Dash Venturesとも提携しており、メンタリングプログラムの提供やインキュベーションのノウハウの共有をしてもらうそうだ。
ここまで新事業の紹介をしてきたが読者が気になるのは同じキャリア企業としてすでにインキュベーションを始めているKDDI∞Laboとの違いだろう。
∞LaboはまだKDDIが現段階で利益を出そうとしているようには思えないし(田中社長もそう言っていた)、スマートパス以外ではプログラム参加チームのプロダクトをKDDIのサービスに連携するといった事例はそれほど無い。スタートアップに環境を提供する変わりに、KDDIにスタートアップの発想、スピード感、熱意といったものを吸収している感じだ。
一方、NTTドコモは自社サービスとの連携や、機能強化といった点を意識している印象を受けた。モバイルにフォーカスし、はっきりと「新たな事業領域におけるサービス開発力を強化したい」と言っている。もちろん無理矢理提携するわけではないので、悪い意味ではなく他のインキュベーションとの差別化とも考えられる。スタートアップ側からしても早くマネタイズ、イグジットできる可能性が増すメリットも大いにある。自分たちのアイデアに合うインキュベーションの選択肢がまたひとつ増えたわけだ。
ひとつ注意しておきたい点は、第一回の募集要項に「ドコモが提供する製品もしくはサービスで利用できるもの」という項目がある点だろう。ご存知の通り、ドコモはiOSデバイスの提供をしていない。Androidまたはフィーチャーフォン(はさすがに今から参入しないとは思うが)、ブラウザから開発することになる。ただ、中山氏は100%、iOSがダメということではないと質疑応答で答えたので、可能性はゼロではないとことは付け加えておこう。