地球上のおよそ40億の人は、インターネットに繋がっていない、あるいはアクセスができない状況にいる。彼らにインターネットを届けるべく人工衛星の打ち上げを始めとする宇宙からの開発競争が始まっている。そこに参戦できるのは億万長者や世界最大のインターネット企業に限ったことではないようだ。
Outernetは独立系の小さなメディア企業だ。彼らはラジオ放送のようにインターネットのコンテンツを配信することを目標に掲げている。彼らは「cubesat」つまり小型人工衛星の製造を行う為、イギリス宇宙機関とスコットランドの衛星の設備を製造するClyde Spaceと組み、資金を出し合って開発に当たっている。
情報を放送するOuternetのCOOを務めるThane Richardは、2016年の初めに3つの超小型人工衛星を打ち上げる予定であると話した。この提携によりOuternetは人工衛星を手に入れることができ、イギリス宇宙機関とClyde Spaceは、よりコスト面で効率の良い小型人工衛星の開発に取り組むことができる。
「私たちの関心は一つです。それは最も低価格で最も効率的な方法で情報を届けることです。」とRichardは話す。現在、彼らはKuバンド上の専用周波数帯においてキュレートしたコンテンツを配信している。
来年打ち上げる人工衛星は地球低軌道に乗せる予定で、この人工衛星から複数の異なる周波数での配信が可能となる。これにより、Outernetは受信機をより一般的な部品から作ることができ、経済的に貧しい彼らのターゲット層に安価にそれを提供することができる。
Outernetは、現代版の短波放送です。世界が知識主導型の経済に移行するほど、コスト、地理、法制の制約により、30億人以上の人がその世界から取り残されてしまいます。
2014年1月の下旬にローンチされたOuternetは、Media Development Investment Fundが投資する最初のプロジェクトだ。Outernetは、Facebookのinternet.orgやGoogle のProject Loonが実現しようとするインターネットと全てがつながるユビキタス世界とはまた別の方法で情報の配信を目指している。
会社の立ち上げ時にファウンダーのSyed Karimは、「Outernetは、現代版の短波放送です。」と話していた。「世界が知識主導型の経済に移行するほど、コスト、地理、法制の制約により、30億人以上の人がその世界から取り残されてしまいます。Outernetは、全ての人にニュースや情報を放送します。今より遥かに多くのチャンスと教育を届けることができるのです。」と語った。
最初の資金はMDIFから受けた金額とIndiegogoで行ったクラウドファンディングのキャンペーンで集めた。このキャンペーンで彼らの最初のプロダクトである受信機の「Lantern」が50万ドルを売り上げた。
一つ169米ドルのこのデバイスは、今まで届かなかったところに知識という名の光を当てることを目標としている。デバイスの名前「Lantern」はその目標を表している。このデバイスは、Outernetの専用衛星ネットワークから配信される電波を継続的に受信することができる。受信した電波は、受信機の中でデジタルファイルに変換される。彼らは、ウェブサイト、電子書籍、記事、動画、音楽といった幅広いコンテンツを配信している。デジタルファイルは内蔵されたドライブに保存され、Lanternのホットスポットと他のWi-Fi対応の端末を繋ぐことで、その情報にアクセスできる。
「私たちは、1日に1ギガビット分の情報を受信でき、20ドル以下で手に入る端末を作りたいと考えています。」とRichardは言う。
Outernetのコンテンツは、集められたものの中から自社の編集者が厳選して配信を行っている。ある特定の情報がほしいといった要望を誰でも、どこからでも受け付けている。現在、北アメリカ、ヨーロッパ、中東、アフリカ北部と、サハラ砂漠より南のサブサハラで配信している。北アメリカ、ヨーロッパ、中東、北アフリカでの配信は2014年8月に始まり、サブサハラでは12月に始まった。
アジア向けのコンテンツ配信も今後3ヶ月以内に開始する予定であるとRichardは話した。「年内には、毎日10ギガバイト分の世界中の情報をカバーすることが目標で、その目標に向かって順調に進んでいます。」と言う。
LoonとNetと次世代ラジオ放送
インターネットへのコネクティビティを改善しようと、ヨーロッパで有力なパートナーを探していたのはOuternetだけではない。プライバシーの懸念をよそに、Googleは展開するProject Loonにおいてフランス国立宇宙研究センター(CNES) の協力を得ることができた。
CNESはこれまでも高層大気への風船の打ち上げを行ってきた。(ジュール・ヴェルヌ著の「八十日間世界一周」の風船も彼らのだったのかもしれない。)彼らは、Googleがニュージーランドの郊外で行った初の実験の成果に胸を踊らせている。
そう、GoogleのLoonプロジェクトは、ついに日の目を見ようとしているのだ。高層大気にルーターを結びつけた無数の風船を上げることで、 ロードアイランド州程の広さの地域 にインターネットを提供することができる。全ての人をインターネットにつなげようとするGoogleの野望は、今まさに大きなビジネスとして立ち上がろうとしている。Googleの役員は、Loonプロジェクトは何百億円規模のビジネスになると言う。それが空想に過ぎないのか、それとも未来を予見した発言なのかは、そのうち分かることになるだろう。
プロジェクトリーダーのMike Cassidyは、The VergeのBen Popperにこのように話していた。
「考えてもみてください。40から50億人はまだインターネットへのアクセスがありません。その5%でも2億5000万人です。」と彼は言った。月々の収入からほんの少し、例えば5ドルを支払ったとしたら、「月に10億ドルが見込めます。年間にしたら100億ドルを超えます。そう考えたら良いビジネスでもあるのです。」
コネクティビティの改善を競う企業から一歩抜きん出ようとするGoogleのLoonプロジェクトはFacebookが力を入れているInternet.orgとよく対比される。先週バルセロナで開催されたMobile World Congress でMark Zuckerbergは、コネクティビティについての彼の見解を話した。
コネクティビティに着目したLoonのハードウェアとは違い、ZuckerbergとFacebookは、インターネット利用者を増やすためのプロモーションにおいて、携帯キャリアが果たすべき役割が重要であると考えている。
私たちのライターの一人、Josh ConstineはZuckerbergの話を以下のように記事に書いて いる。
Zuckerbergは、「世界の90%の人は、インターネットの届く範囲に暮らしています。人工衛星やレーザー、他のハイテクな方法でインターネットを届けることはかっこいい話ではありますが、ここから変わるべきなのです。」と言った。こことは、Mobile World Congressのことを指している。
データ通信料の引き下げとインターネットの重要性を教えていくことが肝心だという主旨だ。Zuckerbergは、本当に投資を行い、インターネット普及に労力をかけているのは、internet.orgのパートナーとして活動する携帯電話会社だと話した。
では、Googleがコネクティビティを目指して空飛ぶデバイスを作り、Facebookが特定の地域でキャリアと組み、コストを削減、あるいは無料でデータ通信ができるように動いているなら、Outernetには何が残されているのだろうか?
Outernetはそもそもメディア企業であったことから、コネクティビティの向上もこの企業の計画にはあるが、コンテンツの配信とそれにアクセスする方法の改善に重きを置いている。彼らのサービスは、オンラインを閲覧するというよりは、次世代のラジオを目指していると言った方が近いだろう。ただし配信するのは音声に限らない。
Richardによると、ラジオのように受動的に情報を受け取る方法が良い場合もあると言う。権威主義の国で、情報へのアクセスが制限されているような地域では、どのような情報に誰がどこからアクセスしたかがトラックされずに有益な情報が得られるこの方法が適していると言う。
コンテンツの質についてはどうだろう?
この会社は、ユーザーからのリクエストを自社でキュレートし、配信している。そのため、誰が情報の重要度を判断するかによって、受け取るコンテンツはユーザーにとって必読のものからそうでないものまで混在することになる。
コンテンツの問題とさらに共通言語の問題もある。Outernetが配信しているコンテンツの多くは英語であることから、誰もが英語を理解できない新興地域では、その情報の影響力は限定的だ。
「私たちは、全ての地域とコミュニケーションを民主化したいと考えています。これからプレーヤーが多ければ市場も活性するでしょう。」とRichardは言う。「放送を止めることはできないのです。とても基本的でシンプルであるからこそ、必要不可欠なものであると考えています。」と語った。
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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook)