Z世代からシリコンバレーへのメッセージ「 👁👄👁」が意味するものとは

編集部注:本稿を執筆したRavi Mehta(ラヴィ・メータ)は、消費者向けテック企業のリーダーで最近までTinder(ティンダー)の最高製品責任者を務めていた。その前は、Facebook(フェイスブック)、TripAdvisor(トリップアドバイザー)、Xbox(ゼロックス)で製品担当リーダーを務めた経験を持つ。

多様性に富む若い起業家や技術者で構成されるあるグループが、有色人種やLGBTQコミュニティを支援する3つの慈善団体―Okra Project(オクラ・プロジェクト)Innocence Project(イノセンス・プロジェクト)Loveland Foundation(ラブランド・ファウンデーション)―への寄付金として20万ドル(約2151万円)をわずか36時間で調達した。

どうやって、そして何の目的で、そんなことができたのだろうか。

この質問に対する答えは、テック業界の未来を理解する上で重要である。今回の出来事はZ世代が起業する方法とその理由を示す最初の実例だからだ。「 .fm」とその仕掛け人たちは、今の若者文化に広く見られるトレンドを反映している。

VCは注目すべきだ。なぜなら、この若者たちこそ次のFacebook(フェイスブック)を創り出す者たちだからだ。

VCでなくとも、誰もがこうした動きを喜ぶべきだろう。若い技術者たちが、新しい価値観のもとに新しい未来を創り出そうとしているのだ。彼らの価値観は、過去のソーシャルメディアにあふれる屈折した動機とオンラインでもオフラインでもより良い世界を作りたいという純粋な欲求が交錯する中で成長してきた経験によって培われたものだ。

今回の一連の出来事は米国時間6月25日木曜日の夜、あるグループが仲間内でとあるTikTok(ティックトック)ミーム動画を繰り返したところから始まった。今の世界では、言葉は常に変化している。「 」は「これが現実(It is what it is)」というフレーズの特殊な解釈として出現した。 「 は自分たちの周りに広がる混沌した現実の中で何もできず、逃げ道もない状況を表している」とJosh Constine(ジョッシュ・コンスティン)氏は説明する。

このグループは次に、「 」をTwitter(ツイッター)のハンドルに追加して、架空の招待制ソーシャルアプリ「 .fm」についてツイートし始めた。これが意外にもどんどん拡散し、内輪ネタのジョークが次々と投稿されて制御不能の状態となった。さらに、グループのDiscordサーバーでは次に何をやるかという話題で盛り上がった。そこで、瞬発的に生み出されたこのエネルギーを社会貢献につながる方向に向かわせることはできないだろうか、と皆が考え始めたのだ。

同期型ソーシャルアプリRealtime(リアルタイム)の創設者で「 .fm」の「筆頭仕掛け人」でもあるVernon Coleman(バーノン・コールマン)氏は次のように話してくれた。「ミームとして始まったことが、あっという間に盛り上がった。これはチャンスだと思った。この勢いを社会貢献に変えていく責任があると感じたんだ。スキルのある創造的な人たちが集まって、リアルタイムにコラボレーションしたときのパワーは本当にすごいと思う」。

何にフォーカスすべきか、という問いに対する答えは明白だった。6月26日金曜日にこのグループは次のように投稿した。「難しく考える必要はなかった。今、ようやく多くの人たちが構造的な人種差別主義や黒人差別主義に気づき始めている。この火を消さないようにもっと大きなうねりを起こしていく必要がある」。

6月25日木曜日以来、このグループは2万件のメール登録と1万を超えるツイッターのフォロワーを獲得し、20万ドル(約2151万円)の寄付金を集めた。

これを「うまく考えられたマーケティングキャンペーンだ」と皮肉る者もいる。悪意のあるいたずらだという意見もある。すべてが完璧に運んだわけではないし、失敗した部分もあったことはチームも認めている。しかし、彼らが行ったこととその理由を矮小化したり過小評価したりすべきではない。

このチームは、排他性をマーケティング戦略として使うシリコンバレーのやり方を非難し、次の新しい波にいつも一番乗りしようとしているVCをうまく釣り上げ、ツイッターが持つ爆発的な拡散力を巧みに利用して世間の意識を高め、それを、しばしば見過ごされがちな慈善団体に本当の意味で役立つ寄付金という形に変えたのだ。しかも、これらすべてを一瞬で成し遂げてみせた。

60人の若いテックだ系リーダーで構成されるこのグループは、自分たちのメッセージを伝える際に大手プラットフォームのツールを巧みに使って大きなインパクトを残した。

彼らは決してツイッターのヘビーユーザーではない。大半のメンバーはフォロワー数も数百人程度で、フォロワー数が数十万人の有名アカウントの所有者ではない。しかし、テックエリートと同じくらいこれらのツールを熟知している。

今回の動きはZ世代のリーダーや活動家たちによる一連の動きの中で最新のものだ。Z世代は、ミレニアル世代やX世代の生息領域と考えられているツイッターやフェイスブックといったプラットフォーム上でも、自分たちの発言を増幅させることができる。

このような動きが最初に目撃されたのは、フロリダ州パークランドの高校で銃乱射事件が発生したときだった。高校の生徒がツイッターやフェイスブック、さらにはケーブルニュースさえも乗っ取って銃規制に関する理性的な意見を発信したのだ。そしてそれが、銃規制を求める動きへと発展していった。

この3年間、筆者は若いユーザーや製品開発者との対話に何十時間も費やしたが、これはTinder(ティンダー)の最高製品責任者、フェイスブックのユース・チーム製品ディレクターを務め、エンジェル投資家でもある筆者の仕事の重要な部分となってきた。 .fmチームによって表現される感情の多くは、Z世代全般が持つ感情を反映していると思う。

Z世代は、より良い形で次世代に渡すことなど考えもせずに現世界から最後の1滴まで利益を搾り取ることばかり考えているように見えるベビーブーム世代にうんざりしている。

Z世代は、排他的な集団や仮想的な立ち入り禁止ロープに嫌気が差している。最近の例では、招待制のソーシャルアプリClubhouse(クラブハウス)がある。クラブハウスは創業からわずか数か月で評価額1億ドル(約107億円)で資金を調達し、黒人の著名人であるOprah(オプラ・ウィンフリー)氏やKevin Hart(ケヴィン・ハート)氏をはじめとする数千人の限られたユーザーにのみサービスを提供している。

テック業界内部の人間から見ると、クラブハウスはまさに最高の場所である。しかし、部外者であるZ世代から見ると、白人ばかりの創業者や投資家たちを金持ちにするために黒人の著名人が利用された最新の例にすぎない。

Z世代の起業家やテック業界のリーダーたちは、テック業界がインクルーシブ(包含的)であることの重要性を主張しながら、その実、それをマーケティングの策略として使っている事実にうんざりしている。このやり方を最初に行ったのはGmail(Gメール)だ。Gメールは招待制を大規模に利用した最初のアプリで、その後、招待制は戦略として広く利用されるようになっていった。

今、シリコンバレー内部の人間は、2文字か3文字のメールアドレスを法外な料金(2文字のアドレスは年間999ドル、3文字のアドレスは375ドル)で提供するHEY(ヘイ)という最近リリースされたメールアプリからの招待を受けたくて仕方がないらしい 。テクノロジーに対してより公平で共感を呼ぶアプローチを取ると主張しているJason Fried(ジェイソン・フリード)氏とDavid Heinemeier Hansson(デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン)氏が創業した会社が、このような短い名前で高い料金を取るという収益スキームを採用しているのは皮肉なことだ。同社のビジネスは、意図的ではないにせよ短い名前をつける伝統を持つ民族をターゲットにした不公平なものだという批判的な声もある。

最後に、Z世代はダイバーシティを説きながらそれを実践しないテック業界にも嫌気が差している。黒人やヒスパニック系の社員は相変わらず大手テック企業(とりわけリーダーレベル)で過小評価されている。こうした過小評価は起業家になるとさらにひどくなる、ベンチャーの支援を受けた創業者のうち黒人が占める割合はわずか1%にすぎない。

シリコンバレーは努力が足りない。

「テック業界のVCと雇用者数には、パイプライン問題があるという話をよく聞くが、まったくのでたらめだ。我々はプロフィールにミームを入れた人からまったくランダムに選択するという方法で、年齢、文化的背景、スキル、性別、居住地区などが異なる人たちを集めることができた。シリコンバレーの企業は、まったくランダムに採用すればそれでダイバーシティは実現できることを理解すべきだ。テック業界がアクションを起こす気なら、我々が力を合わせたら実現できるであろう魔法のような変化について想像してみてほしい」とコールマン氏は語る。

.fmのストーリーは重要な真実を語っている。たとえZ世代が望むような未来を創造する気がテック業界になくても、Z世代が自分たちで創っていくだろうから心配には及ばないということだ。

彼らに支援を。

Make the hire. Send the wire.(もっと雇用を。もっと投資を。)- The Human Utility(ザ・ヒューマン・ユティリティ)創業者兼エグゼクティブディレクター、Tiffani Ashley Bell(ティファニー・アシュレイ・ベル)氏

「 .fm」を仕掛けたチームが支援している団体:

  • Okra Project – 黒人のトランジェンダーが直面している世界的な危機に対処することを目的とする慈善団体。黒人トランスポートジェンダーの人たちにその文化独自の健康的な家庭料理と支援金を提供している。
  • Innocence Project – 無実の罪で収監されたままでいる驚くほど多くの人たち(黒人が圧倒的に多い)を解放し、そうした不当な収監の原因となっている制度を改革することをミッションとする慈善団体。
  • Loveland Foundation – 黒人の女性と少女が米国全体でセラピー療法を受けられるようにすることを目的とする慈善団体。黒人の女性と少女はセラピー治療を受ける資格があり、その治療はすべての世代にインパクトを与える。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ

タグ:差別 コラム

投稿者:

TechCrunch Japan

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