年3回の調達を禁じる法律は必要なものだろうか?

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター「The TechCrunch Exchange」へようこそ。準備OK?ここではお金の話、スタートアップの話、IPOの噂話などをお伝えする。

私たちは四半期ごとに、ベンチャーキャピタル市場の米国外米国内、そしてセクター別の内容を調査し、その時点での非公開市場の温度を把握している。こうしたざっくりしたスナップショットは役に立つ。しかし、時には1つのストーリーに集中した方が、本当の姿を見ることができる。

AgentSync(エージェントシンク)のストーリーを見てみよう。私が、APIに特化したインシュアテックプレイヤーであるAgentSyncを初めて取り上げたのは 2020年8月のことだった。このとき同社が440万ドル(約4億8000万円)のシードラウンド調達を行った。同社は、市場における個々のブローカーの適格性を第三者が追跡するのに役立つすばらしい企業だ。これは大きな分野であり、AgentSyncは急速に初期の牽引力を発揮して、その結果は190万ドル(約2億1000万円)の年間経常収益(ARR)という形で現れていた。

しかし、AgentSyncは12月に再び資金調達を行い、640万ドル(約6億9700万円)のラウンドを行った。このときは前回のラウンドから評価額が4倍になったことを公表している。そして、パンデミックが始まって以来、同社は4倍の収益増を達成た。

急成長しているソフトウェア会社が2回資金調達したなんて、ありきたりに聞こえるだろう。景気の良い話だ。

だが、AgentSyncは先週、新たな結果とともに再び調達を行ったのだ。Becca Szkutak(ベッカ・スクータック)氏とAlex Konrad(アレックス・コンラッド)氏が発行するニュースレター「Midas Touch」(マイダス・タッチ)が一連のデータを報告したので、The ExchangeはAgentSyncのCEOであるNiji Sabharwal(ニジ・サバーワル)氏にその数字について確認した。その内容は以下のとおりだ。

  • 現在の収益はまだ1000万ドル(約10億9000万円)未満だが、ARRは2019年に10倍に拡大した後、2020年には6倍に拡大した。
  • これまでに解約した顧客はいない。
  • 今回の2500万ドル(約27億2000万円)のシリーズAの評価額は2億2000万ドル(約239億8000万円)で、コンラッド氏とスクータック氏はそれを「8カ月前のAgentSyncの評価額のちょうど10倍」と表現している。

つまり、AgentSync社が以前440万ドル(約4億8000万円)を調達したときの評価額は2200万ドル(約24億円)だったということだ、また2020年12月のラウンドは約8000万ドル(約87億2000万円)の評価額で行われた。おもしろい。

最初の話に戻ると、大規模なデータは業界内での「現在地」を示すのに役立つが、AgentSyncのような話は、注目のスタートアップにとって現在の市場がどのようなものであるかをよりよく示すものだと思う。それは非常に速く、さらに、しばしば実質をともなう成長に裏打ちされている。

また、サバーワル氏はThe Exchangeに対し、最後の条件規定書以降、さらに100万ドル(約1億1000万円)分のARRを獲得したと語っている。ということで、そのニュースを公表する前にすでに数字は大きくなっている。

これが2021年だ。

Conscience.vcについて

また先週私は 、ベンチャーキャピタルファンドを構築中のAriana Thacker(アリアナ・サッカー)氏と会った。自身のVCを設立するまでに彼女は、Rhapsody Venture Partnersや、Predictive VCなどを経てきている。そして現在彼女が取り組んでいるのが Conscience.vc(コンシャス.vc)、あるいは単にConscience(コンシャス)と呼ばれるVCだ。

彼女の新しいファンドは、評価額1500万ドル(約16億3000万円)以下の企業に投資する。その企業は、何らかのかたちで消費者向けのビジネスモデルを持ち(B2B、B2B2Cどちらの形態でも構わないそうだ)、科学に関連する特許化可能な技術やその他の知的財産権(IP)などを対象としていることが条件だ。なぜ科学に注目するのか?それはサッカー氏のバックグラウンドから来ている。彼女は化学工学の知識を持ち、Exxon(エクソン)とShell(シェル)の共同プロジェクトでは設備エンジニアを務めていたこともある。

それはそれでおもしろい話なのだが、これまでThe Exchangeでは新しいファンドの発表を取り上げたことはなく、小規模なVCもほとんど取り上げては来なかった。では、なぜ今回はそのパターンを打ち破るのだろうか。というのも同業他社のほとんどとは異なり、サッカー氏がデータや測定基準を非常に重視していたからだ。

なんと、彼女の最初のメールには、さまざまな投資対象への自身の投資リストと、その取引に関する実際の情報の一覧が記載されていた。そして、さまざまな投資関連の資料をさらに共有してきた。もしも、もっと多くのVCが自分たちの情報を共有していたらと想像してみよう。それはすばらしいことだ。

Conscienceは、2021年1月中旬に最初のクローズを行ったが、彼女がその資金調達プロセスを終える前に、さらに多くの資金が集まる可能性があった。ファンドの上限は1000万ドル(約10億9000万円)だったが、彼女が集めた資金は400万ドル(約4億4000万円)から500万ドル(約5億4000万円)に達した。また、彼女はThe Exchangeに対して、2020年の夏までは1人のLP(リミテッドパートナー)も知らず、アンカー投資家を確保したのは2020年の10月だったと語った。

サッカー氏が何をするか見てみよう。しかし、最初のファンドから投資する際には、彼女は最低限ある程度の透明性を確保したいと考えているだろう。その点だけでも、ほとんどのマイクロファンドがこれまで受けた以上の注目を、このページで集めることになるだろう。

さて、他にも重要なことがたくさん

先週は超多忙だったので、本来ならば書きたいと思っていたことの数々を逃してしまった。以下、順不同で並べておこう。

  • プラットフォーム上で仮想通貨取引を支援するスタートアップのFalconX (ファルコンX)が5000万ドル(約54億5000万円)を調達した。今回のラウンドは、同社が2020年5月行った1700万ドルの調達以来のものだ。そのことについては報告済だ。このラウンドを主導したのは例によってTiger Globalだ、同社は2021年2月に、多くのラウンドに関わっている
  • そのFalconXのラウンドは、同社がささやかなものと考えられていた取引と収益ベースから、より大きなものへと成長するに従って存在感を増している。同社によれば「1年足らず」の間に「取引量」は12倍「純利益」は46倍になったという。大したものだ。
  • Privacera(プリバセラ)も先週5000万ドル(約54億5000万円)を調達した。このラウンドを主導したのはInsight Partnersだ。この案件が私の目を引いたのは「クラウドベースのデータガバナンスおよびセキュリティソリューション」を約束するものだったからだ。それは私に Skyflow(スカイフロー)のことを思い出させた。この急速に成長中のスタートアップも似たような製品を持っていたはずだと思ったからだ。PrivaceraのCEO であるBalaji Ganesan(バラジ・ガネッサ)氏は、私の思い違いを丁寧に修正する次のようなメールを送ってくれた「Skyflowはお客様のデータを保管する金庫のようなものです。顧客データをトークンに置き換えます。これに対して、私たちはデータガバナンスに焦点を当てていますので、より広い範囲をカバーしています。私たちのソリューションの中では、お客様のデータを保存していません」。大変結構。やはりまだまだおもしろい分野だ。
  • そして、 Woflow(ウォフロー)の件もあった。これは VentureBeatが私たちより先に記事にしている。先週、Woflowと話をしたが、残念ながら今日ここに書いた文字数よりもメモが長くなってしまった。ということで、構造化された販売データを売る同社のモデルは、非常にクールであるということを書くことで、今回は勘弁して欲しい。また、最初の業界(レストラン)で、すでにDoorDashのような顧客と連携している点もすばらしい。
  • 今回のラウンドは、Craft Venturesが主導した。同ファームは、ここ数カ月、APIを活用したスタートアップを相手にかなり積極的に活動している企業だ。Woflowについては続報を用意中だ。

その他のことなど

最後に、ソフトウェアの評価についてはこちらで大いに学び、すばらしいRoblox(ロブロックス)の直接上場についてはこちらで考察し、フィンテックのベンチャーの成功と弱点について調べ、Global-e(グローバルe)のIPO申請についても調査した。ああそれから、M1 Finance(M1ファイナンス)が再び調達を行い、Clara(クララ)とArist(アリスト)も小規模ながら楽しいラウンドを行った。

カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:The TechCrunch Exchange

画像クレジット:Nigel Sussman

原文へ
(文:Alex Wilhelm、翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

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