現在のゲームはネット接続を前提として後に修正パッチが配布できるため、開発者はバグを取り切れていなくともリリースに踏み切りやすくなっています。しかし、インターネット以前のゲームはそんなことはなく、まして「プログラミング雑誌に掲載されたプログラムリスト」(70年代末~80年代にはよくありました)は修正しようがありません。
そうしたゲームを作った元プログラマーが、実に40年ぶりに不具合を修正し、新要素を加えた上でウェブ上で誰でも遊べるかたちで再公開しています。
現Fast Company誌の技術編集者ハリー・マックラケン(Harry McCracken)氏作のテキストアドベンチャー「Arctic Adventure(北極の冒険)」は、1981年出版の「The Captain 80 Book of Basic Adventures」に掲載されました。
当時17歳だったマックラケン氏が手がけた本作は、懐かしのマイコンTRS-80(1970年代末~80年代初めにタンディ・コーポレーションが製造・販売)のキーボードで直接、手打ちでコードを入力しなければ遊べなかったものです。そのコードは5ページ半にも及んでおり、当時としては大作でした。
In high school, I wrote and sold a buggy TRS-80 adventure game set in the Arctic. Forty years later, I’ve debugged it (at least a little), expanded it, and made it run in your web browser. And I’ve written about the whole experience. https://t.co/gJ28vTUG6y
— Harry McCracken (@harrymccracken) August 28, 2021
マックラケン氏は報酬は受け取ったものの、掲載誌がもらえることもなく、ゲームに対するフィードバックも出版社の人から「バグでクリアできない」と辛らつに言われただけだったそうです。
その数十年後、マックラケン氏はこの本をようやく入手し、iPadのTRSエミュレータに自分のコードを苦労して入力してみたところ「ゲームがクリアできないどころか、プレイもできない」ことに気づいたと語っています。
その原因は、文字列の中にゼロが1つ欠けていたこと。これは小さなバグのようで致命的な影響を及ぼしており「冒険を終えることはおろか、”ショベル “を手に入れること」もできないほどでした。そこでマックラケン氏は40年ぶりにデバッグし、いちいちコードを打ち込まなくてもすぐWebブラウザで遊べるように公開したしだいです。
今回の修正バージョンでは、いくつかのパズルの難易度が調整されており、原典そのものよりもディレクターズカットに近い出来となっています。またコマンドラインで「GO NORTH」(すべて大文字で入力しないと受け付けられない)を打ち込まなくともよく、小文字での入力に対応したり、「GO WEST」と入力しなくても「W」だけで移動できるようになったり、1990年代以降はほぼ標準になった機能が追加されています。
ほか、ゲームをクリアするのに必須の犬も追加されているとのことです。裏返せば「これまでは絶対クリアできなかった」わけであり、それを編集者が分かっていて出版した当時の大らかさに胸を打たれる感もあります。
そうした変更点もありつつ、マックラケン氏は「潜水服の上に防寒具を着る」のが当たり前だという不条理な論理もそのままにしたことや「すべての場所をマッピングした場合に、その方向が完全に論理的であるかどうかもわかりません」とも断言。80年代の理不尽に満ちたゲーム体験は損なわれることなく、限りなく純度100%で楽しめそうです。
マックラケン氏はTRS-80のBASICコーディングの記憶を呼び起こすのにさほど時間はかからず「必要なときに、ほとんどのコマンドをすぐに思い出せることに驚きました」と語っています。このニュースをきっかけに、日本でもPC-8001やMZ-700の元プログラマーらが過去作をデバッグしたり、数十年ぶりの続編を作るブームが巻き起こるのかもしれません。
(Source:PCGamer、Arctic Adventure。Via Tom’s Hardware。Engadget日本版より転載)