シリコンバレーは「ドロップアウト(中退)」を礼賛するのが大好きだ。伝統的な教育では、関連性のないことを教えられ、なかなか進歩できず、そして情報が簡単に手に入る世界では、もはやかつてのように学習リソースを提供できないため、自分には向いていないと判断した起業家が、着想を得ると考えられているからだ。
ドロップアウト礼賛の伝説的な支持者は、Thiel Fellows(ティール・フェローズ)プログラムで1年間大学を休学する学生に資金を提供するPeter Thiel(ピーター・ティール)氏から、Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏やBill Gates(ビル・ゲイツ)氏といった非公式のマスコットまで、大学は卒業しなかったが実際には高度な教育を精力的に擁護する人々である。
私の大学入試に対する考え方は、世界最高峰の大学への入学を目指す何千人もの野心的な学生を国際的に支援し、彼らのキャリアが次にどうなるかを見てきたことから得られたものだ。
相当な資産を持ち、恵まれたコネクションのある家庭に生まれたのでなければ(ドロップアウト礼賛の擁護者の多くはそのような立場だ)、一流大学の学位は、既存の社会経済的環境における機会で、最も強力な武器になる。
シリコンバレーを代表するスタートアップアクセラレーターといえば、言わずと知れたY Combinator(Yコンビネーター)だ。Coinbase(コインベース)、Brex(ブレックス)、DoorDash(ドアダッシュ)、Airbnb(エアビーアンドビー)など、さまざまな分野で数多くのユニコーン企業を輩出することに成功している。若くて野心に溢れた起業家は、新たなユニコーンを生み出すための支援として、シード資金、メンターシップ、ネットワーキングの機会を得たいと望み、Y Combinatorに応募する。
ドロップアウト礼賛を理解するために、私はY Combinatorで実際に成功している人たちを調べてみた。その結果、私はイスから転げ落ちそうになった。私はすでに学位取得の大推薦者だったのだが。
まず、人口統計を見てみよう。ユニコーン企業を生み出したY Combinator出身の創業者は、平均年齢28.1歳で会社を起ち上げた。しかし、消費者向けテクノロジーのユニコーン企業の場合、平均年齢は22.5歳(つまり大学を卒業したばかり)だった。このような企業の創業者は非常に若く、多くの場合未経験者である。となると「なぜ、Y Combinatorはこのような優秀な若者に自信をもって賭けることができるのか?」と疑問に思わざるを得ない。彼らの能力を見分けるシグナルは何なのだろうか?
その答えは、学位に依るところが大きい。このような共同創業者たちの中で、大学に進学していない人はわずか7.1%。中退者はわずか3.9%で、しかも全員がハーバード、スタンフォード、MITなどの有名校を中退している。つまり、入学資格を得たというだけで、学力の高さを示す強力なシグナルを発しているわけだ。これらの中退者たちは、普通の脱落者ではない。彼らは、世界で最も有名な大学への入学資格を獲得し、高校生活を極めて真剣に過ごしていたのだ。
では、大多数は?ご想像のとおり。創業者の35%がハーバード、スタンフォード、イェール、プリンストン、MIT、カリフォルニア大学バークレー校に進学し、共同創業者の45%がアイビーリーグ、オックスブリッジ、MIT、スタンフォード、カーネギーメロン、USCに進学している。25歳以前に起業した共同創業者のうち、3分の2以上がアイビーリーグ、オックスブリッジ、MIT、スタンフォード、CMU、USCのいずれかに進学している。共同創業者の出身大学はMITが最も多く、次いでスタンフォード、カリフォルニア大学バークレー校となっている。
他の人たちはどこへ進学したのか?インドのユニコーン創業者の大多数は、インドのアイビーリーグであるインド工科大学に進学している。創業者たちは学部卒に留まらない。共同創業者の35.7%が何らかの大学院を修了している。
私はこの現象を説明するために、著書の中で「シグナリング」という言葉を提唱している。これは、ノーベル経済学賞を受賞したGary Becker(ゲイリー・ベッカー)が作った造語だ。本質的に、労働力市場は競争が激しいので、すべての人に実際にどの程度の才能があるのかを把握するにはコストがかかりすぎる。そのため、ベンチャーキャピタルは誰に賭けるべきかを判断するために、簡潔な経験則を用いる必要がある。
エリート大学の学位は、若者が長期間にわたって学業、課外活動、リーダーシップの追求に何千時間も費やし、入学審査委員会から一定の水準にあると見做されたことを意味する。これは、Y Combinatorのようなアクセラレーターにとって、候補者がどれだけ有望であるかを迅速に選別するために必要なシグナルとして機能する。
スタンフォード大学の学部生なら全員がY Combinatorに受かるわけではないが、スタンフォード、MIT、ハーバード出身者の合格率は、一般的な大学やこのレベルの教育を受けずに応募した人たちを圧倒する。
私は、世界トップクラスの投資家から成長資金を調達する際、投資家たちが、ある創業者には「投資できる」、ある創業者には「投資できない」と言っているのをよく耳にした。この定義について調べてみると、創業者の学歴がどれだけ説得力があるかということに関わっていることが多いのだ。この人物は投資対象になりそうか?ファンドの機関投資家は首をかしげるだろうか、それとも支援してくれるだろうか?
ピーター・ティール氏は、おそらく中退ヒステリーの最も声が大きな擁護者の1人だ。だが、彼自身、スタンフォード大学で学士号と法学博士号を取得している。私の調査では、大学中退の道を支持する人の中で、自分自身がエリート教育機関のバッファを持っていない人を見つけることは難しい。
ピーター・ティール氏の個人的なベンチャーファンドであるFounders Fund(ファウンダーズ・ファンド)は、エリート大学教育を受けずに投資家を志す人のためのものであるかのように聞こえる。だが、よく見てみると、その逆であることがわかる。Founders Fundで働く18人の中には、スタンフォード大学学部卒6人、ハーバード大学法学博士1人、スタンフォード大学MBA2人、スタンフォード大学法学博士1人、コーネル大学学部卒、イェール大学学部卒、MIT学部卒、デューク大学学部卒など、18人のエリート学歴者がいるのだ。ある投資家はそれに近い。彼らは「最も中退しそうな学生」という賞を受賞したが、それでもちゃんとMBAを取得した。
最高のアドバイスは、それを与える人がそうやってきたということだ。もし、あなたがユニコーンの創業者になって起業家精神で世界を揺るがしたいと望むなら、最も有効な発射台は一流大学の学位である。
編集部注:本稿の執筆者Jamie Beaton(ジェイミー・ビートン)は「Accepted! Secrets to Gaining Admission to the World’s Topic Universities(合格!世界で話題の大学に入学許可を得るための秘密)」の著者であり、大学入試コンサルティング会社であるCrimson Education(クリムゾン・エデュケーション)のCEO。
画像クレジット:SEAN GLADWELL / Getty Images
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(文:Jamie Beaton、翻訳:Hirokazu Kusakabe)