編集部注:本稿執筆者のKevin SkobacはSS+KのDigital Strategy and Innovation部門のシニアバイスプレジデントであり、またインハウスでインキュベーションを担当するSS+K Labsの共同ファウンダーでもある。
私たちは、何年にもわたって「デジタルメディア革命」とでもいうべきものの波に乗っかって過ごしてきた。多くのイノベーションが生まれたし、かつてはできなかったことができるようになった。消費の楽しみや創造の楽しみも味わうことができた。面白いことが次々に生まれ、テック時代の楽しさがさまざまに提示されてきた。私たちは、こうした流れがいったいどういう現実に繋がるのかを考えることもなく、敢えて言えば流されつつ過ごしてきた。そして、いつの間にか思いもよらなかった現実を受け入れざるを得ないような時代になってしまいつつあるようなのだ。
たとえば「写真」が被った変化を考えてみよう。カメラがデジタル化することにより、私たちの撮る写真は十枚単位から百枚単位に増えることとなった。さらにスマートフォンに高性能カメラが搭載されるようになり、撮影枚数は年間で千枚単位にも増加した。
毎日写真を撮り続け、そしてGoogleに自動でバックアップしたり、あるいはInstagramやFacebookのタイムラインに投稿したりもする。但し投稿した写真を振り返るような機会は減りつつあるように思う。そして写真は千枚単位から万枚単位で溜まっていくこととなる。私についてみても、Google+には今日までに68000枚の写真がアーカイブされている。
自動でバックアップできることにより、写真を「整理」したり「印刷」しておくような必要性もなくなった。但し、昔に撮影した写真(お気に入りの家族スナップなど)を探しだすのが、とてもむずかしくなってしまったように思うのだ。デジタル時代になり、「干し草の山の中から針を探す」(look for a needle in a haystack)ことが一層難しくなったのではなかろうか。
確かに「どこか」に保存してあるはずなのだ。しかしそれを見つけ出すための手段がない。整理のためのメタデータを付しておいたにしても、そもそもどこにその情報を保管しているのかがわからなくなってしまうのだ。Google+や、その他のすばらしい自動バックアップサービスの便利さはあるにしても、あるいはそれがためにむしろ、自分の判断による、意図的な取り扱いというものが重要になってきているのではなかろうか。
写真以外のものについても、さらにひどい状況に陥りつつあるように思う。多くの人は日々の日記やメモをジオシティーズやLive Journal、あるいはブログないしTwitter/Facebookに移管した。そのおかげでより細かい事象を記録に残すようにもなった。ただ、そうした記録がいろいろな場所/記事に分割されることとなり、自らの情報であるにも関わらず、制御不能といった状況になっている面もあるようなのだ。
さらにFacebookやTwitterで、これまでに投稿した記事の全体的な検索ができるようになったのもつい最近のことだ。それまではそこにあることがわかっていながらも探しだすことが難しかった。さらに、いろいろな情報を記録しておいたサイトが消滅したりすることも、「チャレンジ」を旨とするスタートアップカルチャーの中では日常茶飯事だ。
もちろんそうした状況をなんとかしようとするサービスも生まれてきている。たとえばInternet Archiveなどは非常に面白いサービスを提供していると言えるだろう。いったんウェブ上に公開されたものの、いつの間にか停止されてしまったようなサイトの情報などを、利益度外視でライブラリ化しようとするサービスだ。
あるいはTimehopなども、過去に投稿したコンテンツを掘り起こして、既に記憶のかなたに去ってしまった出来事を思い出させてくれるサービスとして人気を集めている。1年前から5年前までにソーシャルネットワークに投稿したコンテンツを、テキスト版のダイジェストとして通知っしてくれるのだ。
しかし、さまざまなサービスに投稿したコンテンツは、それぞれサービス運営企業の今後次第によってどうなるかはわからないわけで、特定のサービスにコンテンツ管理を任せるというのはあり得ない選択肢だ。自ら投稿したコンテンツについては自ら管理していくことが必要だ。それがすなわち自らのアイデンティティを守ることにつながる。
まず必要なのは、十分に信頼できるサービスにコンテンツをバックアップしておくというのが、最初の第一歩だ。そのためには、たとえばIFTTTが大いに役立つことだろう。ソーシャルネットワークに何か投稿するたびに、そのコンテンツをどこかにバックアップするというシステムを構築することができる。
MediumやQuoraといったサービスが流行していて多くの人が使っているが、そうした場合も自らホスティングするサーバーにコンテンツをバックアップしておくというのが、商用サービスの運命に依存しないためのひとつの方法だろう。
デジタル革命は、私たちに多くのメリットをもたらしてくれた。過去とは比較にならないレベルで、さまざまなコンテンツを作成したり消費したりすることができるようになった。あるいは、そのコンテンツに対して双方向で働きかけることも容易になっている。さらに、デジタルなデータが「永遠」に残るような感じを持っている人も多いことと思う。しかし徐々に欠点も見えつつある。デジタルを信頼するあまり、大切なデータがあっという間に消え去ってしまうような悲劇にも遭遇するようになった。私たちは、私たちの記録を自身で管理するための、何らかの手法を確立すべきときにきていると思うのだ。
[原文へ]
(翻訳:Maeda, H)