近年、若者のベンチャーキャピタリストへの関心が増しているのだろうか。現役の有力ベンチャーキャピタリスト6人が集い、学生向けに講演を行う「VC SCHOOL」が3月12日に慶應大学日吉キャンパスで開催された。イベントには160名もの応募があったといい、同日開催のスタートアップカンファレンスとは異なり、VC SCHOOLは選抜された60名の学生がイベントに参加した。
登壇したのはEast Venturesパートナーの松山太河氏、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ パートナーの河野純一郎氏、インキュベイトファンド代表パートナー和田圭祐氏、CyberAgent Venturesジャカルタオフィス代表の鈴木隆宏氏、ANRI代表パートナーの佐俣アンリ氏、Skyland Ventures代表パートナーの木下慶彦氏の6人だ。
イベントでは6人が5分間のプレゼンが行い、経歴や投資先の紹介のほか、ベンチャーキャピタリストという仕事についての思いが熱く語った。
松山氏はAppleやMicrosoftやGoogleなどアメリカで急成長したIT企業の時価総額(240兆円)が日本の全上場企業の時価総額の約半分であることを指摘。これらの企業が設立当初にVCから資金調達をしており、VCとは「世界的経済を代表する企業を作り上げる格好いい仕事」と話した。しかし、「日本のスタートアップはまだまだ小さく、日本でVCが格好いい仕事になるには、このような規模を生み出す必要がある」とも伝えた。和田氏もAmazonへの出資で有名なKleiner Perkinsのジョン・ドーア氏を例に挙げ、「このくらいのインパクトを残したい」と語った。世界レベルでの実績が生まれれば、確かに日本でもVCへの注目はさらに増すのだろう。
成功した起業家が脚光を浴びる一方で、ベンチャーキャピタリストというのは陰で起業家を支える存在であることも多い。そうした黒子としての仕事の魅力について河野氏は「惚れた起業家の夢の実現を一番近くでサポートすることができる。惚れた起業家のために自分の人生を使えること」と熱い思いを述べた。よくコンサル志望の学生が「クライアントに寄り添って問題解決がしたい」と言っているのを耳にするが、ベンチャーキャピタリストを目指す学生は少ない。本当にそう思うのなら、ベンチャーキャピタリストも選択肢として含まれるるのではないだろうか。
世界の有力VCとともにインドネシアで出資を行っている鈴木氏は、このような世界レベルのVCの中で自分の価値を出すためには、「多様性を受け入れる柔軟性」「自分の強みを持ち、それを活かすこと」「大きな野望をもつこと」が重要であると学生に伝えた。その一方、佐俣氏はベンチャーキャピタリストがまだまだ少ない日本においては、チャンスであること、また9年前に木下氏とともに、この「VC SCHOOL」に参加者として参加していたことを振り返り、「この中から10人のベンチャーキャピタリストが生まれてほしい」とメッセージを送った。会場の参加者は高校生から、すでにVCでインターン経験をしている学生、ビジネススクールの学生など幅広かったが、この言葉はベンチャーキャピタリストを志すすべての学生の心に響いただろう。また、木下氏はスタートアップで働く若者を増やすための「3年で1000人スタートアップ計画」という自身の取り組みを紹介し、またこれから動き出したいという思いを抱く学生に向けて「大学生はプログラミングとTwitterを始めるべきだ」とアドバイスした。
質疑応答コーナーでは多くの学生が積極的に質疑に参加していた。シード出資とは起業家という人への投資ということにもなるが、その場合に「どのような点を重視しているか?」という質問に対して各ベンチャーキャピタリストそれぞれ少し違うものが感じられた。
「ベクトルが自分自身ではなく、社会に向いているかに注目する」という鈴木氏、「休日に出会っても話しかけたくなるような人がいい」という佐俣氏、これらに加えて「しんどい経験を乗り越えたことのある人」という和田氏、「変なプライドがなく、可愛げがある人」という河野氏、「かしこい、且つガッツのある人」という松山氏、「新しいことを考えていて、エンジニアチームがあることが重要」という木下氏。
起業家は不確実性の極めて高い状況を、リスクをとりながらも進み続ける必要がある。強い原体験からくる課題感などの強い思いや辛い時に踏ん張れる力、そしてまっすぐな姿勢は大切である。これらが合わさってはじめて、「一緒にやっていきたい」と感じられるのだろう。
ベンチャー投資というと与えるインパクトは大きく、華やかに見える側面もあるが、佐俣氏は「VCは太陽ではなくて月。起業家から受けた光で、初めて輝く」と、その役割を表現する。日本ではまだまだメジャーな職業とは言えないベンチャーキャピタリストであるが、60名もの学生が参加し、真剣に耳を傾けていたのは興味深い。未来を担う起業家を発掘するようなVCが生まれるかもしれないと感じられるイベントだった。来年の開催も期待したい。
写真提供:飯塚良貴