テック企業と政府の官民恊働プロジェクトの行く末


編集部記Nicole Cookは、Dwollaの戦略的パートナーシップ部門のディレクターであり、そこで同社の政府向けプログラムを率いている。

テック業界と政府は水と油のようだ。前者は、強引で、強気でリスクを恐れない。後者は、思慮深く、動きは遅いが慎重だ。しかし、スタンフォード大学で開催されたホワイトハウス主催のサイバーセキュリティーサミットを始め、この両者の協力関係は、公衆衛生の向上や金融の分野で見られ始めている。双方は、お互いから学ぶべきことがたくさんある。重要なのは、お互いを避けるのではなく、それぞれの違いを認識することだ。

協力すべき理由

テクノロジー業界に身を置いていると、私たちが世界を変えていると思いがちだが、テック企業が一年を通して人々に与える影響より、公的機関の方がより市民の毎日の生活に大きな影響を与えている。

彼らが大規模な政策を実行できるのはすごいことだ。(テクノロジー業界とは違い、間違うことは許されないが)なぜなら、難しい問題に対してもコンセンサスを築き上げる力があるからだ。最近行われたネットワーク中立性に関するディベートが良い事例だ。賛否両論あふれるこの議題に対し、公開討論の場を設けることで連邦通信委員会(FCC)は結論を探った。ここでFCCは、様々な立場からのそれぞれの意見を汲み取り、個人的にはアメリカにとって最も有益となる結論を出すことにつながったと考えている。

政府が素晴らしい仕事ができるのは事実だが、彼らには、フットワークの軽いテクノロジー企業のように、素早く、力強いイノベーションを起こすようには作られていない。政府が何か新しいことを開発するサイクルは何年もかかるものだが、例えばそれがシリコンバレーの企業だったら4週間ごとに見直すことができるのだ。

お互いの強みを活かす

政府が民間企業のようにテクノロジーをすぐに取り入れるのは現実的ではないが、政府は物事を俯瞰し、テクノロジーが解決すべき重要な課題を認識できる立ち位置にある。特に州や自治体レベルでは、予算が厳しく、イノベーションが必要だと感じる問題は多々ある。私が住むアイオワ州の例にとってみよう。ここでは、興味深いコラボレーションが行われている。

彼らが大規模な政策を実行できるのはすごいことだ。なぜなら、難しい問題に対してもコンセンサスを築き上げる力があるからだ。

例えばアイオワ州は、昨年から、運転免許証をデジタル化する試みを始めた。これは全米でも取り入れるのが早かった。この試みにより州は、プロセスを簡潔にすることでコストを削減できるといった有益な点とプライバシーやロジスティックスについての課題を検討し、納税者に提案する。これを実現させるためには、民間企業をパートナーとして迎える必要があることをアイオワ州議会は認識した。まだ、試みが始まってから日は浅いが、その努力は少なからず結果に結びついている。

アイオワ州は他にも電子決済の分野で先陣を切ってきた。市民は公的機関を利用する際の料金の支払い方法がもっと簡単になることを望んでいることに州は3年前から理解していた。今では、資産などの機密情報を守りながら、何千もの支払いを処理できるようになり、納税者の節約にもなった。更に、このような比較的小さい市場での成功事例を受けて、連邦政府も 全国規模でこのアプローチを取り入れることについて検討を始めた。

大きな計画を実現するためのコラボレーション

テクノロジーは、政治そのものを変えてしまう程の力を秘めている。機能レベルの話では、政府の情報を保管したり、アクセスしたりする作業を現代の用途に則するために MicrosoftのAzureが導入された。Azureは、安全なクラウドプラットフォームとして初めて自治体、州政府、連邦政府に採用された。

インフラにおいても、シアトルやニューヨークの自治体は、超高速ブロードバンドを街に導入するために、大手テクノロジー企業と組んでいる。このような取り組みには、公的機関と民間企業の双方の協力が必要不可欠だ。

連邦政府も官民協働に力を入れている。 Cooperative Research and Development Agreements、 通称CRADAsは、民間企業に投資し、イノベーションを加速させる取り組みだ。CRADAsは、公共において有益なものだが、ビジネスとして成り立つには長い期間を必要とするテクノロジーを開発する民間企業が、国立保健研究機構や国防省のサポートを得られるようにする。

CRADAsは現在、がん治療、衛星からのデータ解析、電気自動車を一日走行させる軽量で効率の高いバッテリーの開発を行っている。これもまた、両者の限界を知り、お互いの助けを求めたことで実現したことだ。

金融セクターで起きていること

金融セクターでのコラボレーションほど、象徴的な官民協働はないかもしれない。連邦準備銀行は、取引の処理のスピードを向上させようとしている。これを現実のものとするためには、今日のテクノロジーと、40年にも渡ってこの機関が信頼を得てきた保守的なアプローチを融合させ、適切に実行していくことが重要である。

今のこの金融ネットワークは、1970年代のテクノロジーを元にしている。悪意のある者を退ける対策も、現代のものより洗練されてはいないし、実際に使用している人から見ても手続きが不条理だと感じる。設立から何十年も経った今、初めて公的機関と民間企業のトップが今後どのように変えていくかについて話し合いをしているのだ。

テクノロジーは、政治そのものを変えてしまう程の力を秘めている。

これを実現するためには、真のリーダーシップとコラボレーションが必要だ。毎日何万人ものアメリカ国民がこの機関の滞りない運用を頼りにしているのだから。アメリカの金融ネットワークを簡潔にすることは、中小企業から多国籍企業まで、そしてそこに関わる、全ての人、全ての物に影響を及ぼす。直接的に影響がある人だけに関わらず、このことは、国内の最も優秀で賢い人の知見を必要とする。

公的機関、民間企業、有識者や、国際コミュニティーのパートナーと協力し、連邦政府は、それぞれの良いところを活かして最良の物を作ろうとしている。Dwollaもこのエコシステムを一部を担うことを目指している。政府が構造的な変革を起こすには、それぞれのヴィジョンやテクノロジーの専門知識、そしてスキルを統合し、このような大規模な実装を担う専門家と最低限のリスクで実行に移すことが求められる。

他のいかなる関係性と同様、テクノロジー業界と政府がこのような課題やその他の問題で上手く協力関係を築いて、取り組んでいけるかは、時間が教えてくれることだろう。しかし、このチャンスは大きい。お互いが価値を最大限発揮できる強みのある分野に集中するとともに、それぞれができないことに関しては、互いの協力が得られるのだ。とても良いことだとは思わないか?

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ facebook


投稿者:

TechCrunch Japan

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