編集部記:Andrew Clelandは、Crunch Networkのコントリビューターである。Andrew Clelandは、Comcast Venturesのマネージング・ディレクターを務めている。
現在のマーケティングは、個別のオーディエンスに対して最適な瞬間に、最も望ましい媒体で完璧なクリエイティブを届けるという理想的なシステムからは程遠い。
このビジョンの実現に向け業界は、インプレッションを中心とする形態(メディア掲載はいくらで、どの程度のインプレッションを獲得でき、オーディエンスがどのような人だろうか?)から、ユーザーを中心とする形態(この時点で自社のブランドと接触している個別ユーザーの特徴はどのようなものだろうか?)に進化しつつある。
2つの基本となる潮流がシフトをもたらすだろう。一つは、オムニチャネルのデータ、そしてもう一つは、マルチタッチアトリビューション(複数回に渡るユーザーとの接触から得られる情報)だ。
オムニチャネルとは、複数のチャネルのデータを統合し、個別ユーザーのアイデンティティを判別することを指している。最終的な目標は、別々のマーケティング・チャネルのデータを統合するのではなく、企業の全てのカスタマーと接触するポイントのデータを統合することだ。それには、カスタマーサービス、物流及び配送、そして修繕やメンテンナンスも含まれる。
これを実現するには、自社データ(ファーストパーティー)とマーケティングのパートナー(サードパーティー)のデータを統合する必要がある。異なるデータを統合し、整えることで、ユーザー個人個人の充実したプロフィールを生成することができる。
パーソナライズしたクリエイティブを大勢に届けることができるプラットフォームは、次世代のマーケティングシステムにとって必要不可欠な要素だ。
これはマーケティング業界の革命だ。マーケターは、メディア、チャンネル、オーディエンスを推測することから、個別ユーザーに最適なメッセージを送ることに考え方が変わる。個別ユーザーの好み、個人とブランドとのこれまでの関わりを鑑み、ブランド独自の価値をどのように伝えるかということに焦点を当てるようになる。
マルチタッチアトリビューション(MTA)は、オムニチャンネルのデータを必要とする。マルチタッチアトリビューションとは、ブランドとユーザーの接点がそれぞれどの程度、販売に貢献したかを詳細に分析することを指す。例えば、あるユーザーがテレビコマーシャルを50回視聴した後、初めて見たネット広告にアクセスして購買に結び付いたのなら、MTAは「テレビ」が販売に貢献したチャンネルとして評価する。
これらのことが可能になれば、マーケターは更に洗練したコンシューマー向けマーケティング施策を考えることができるようになる。例えば、以下のような質問について考えることができる。
- ブランドとカスタマーとの全ての接点において、カスタマーとのコミュニケーションの内容の整合性を取るにはどうしたら良いか?例えば、カスタマーへのプロダクトの配送に問題があった場合、次にそのカスタマーとの接点を迎えた時、友人にサービスの紹介を依頼するような内容を届けないようにするにはどうしたら良いかということだ。
- 時間の経過と共にカスタマーのコミュニケーションを進化させ、ブランドとの関係を深めて価値を増やすにはどうすべきか?例えば、個別ユーザーに対して「ご参照ください」のメッセージから購入を促すメッセージに切り替える最適なタイミングをどのように見極めるかということだ。
オムニチャンネルとマルチタッチアトリビューションの革新は何をもたらすか
マーケターは、自社ブランドとカスタマーの接点についてより広い視点から考えることができるようになる。メディアに固執することなく、マーケターはカスタマーサポート、販売までの過程、ウェブ上やモバイルでのプロダクトのプレゼンテーションの仕方にまで気を配ることになるだろう。チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)の役割は、広範なものとなる。
各チャネルのデータを正確に結びつけるソリューションは、このシステムにとって必要不可欠なものだ。例えば、Drawbrid.geはデバイス間の情報を一つのユーザープロフィールにまとめようとしている。LiveIntent は、Eメールのプロフィールとウェブ上の行動を結びつけるサービスだ。
CMOは、自社のシステムを用いてカスタマーサービスや、返品、店内での接客といったカスタマーとの接点から有益なファーストパーティーのデータが得られるように注力するようになるだろう。カスタマーサービスのソリューションを提供するStellaServiceや、店内でのトラッキングを行うRetailNextといったサービスがこの分野のソリューションを開発している。
次世代のカスタマーデータプラットフォームは、次のような特徴を持つことが考えられる。
- 異なるカスタマーのデータ・セットを集めて正確に結びつける
- ユーザープロフィールとしてデータを構築、整理する
- 類似した特徴を持つユーザーのセグメントを自動で発見する
- リアルタイムでオーディエンスやデータを管理する
- イベントトリガーに対応
- 全てのユーザーデータとオーディエンスのセグメントをAPIで利用できる
- IT部門を経由せずともマーケターが直接利用できる
Lytics やSegment.ioといった企業が、このビジョンを達成するためにイノベーションを起こしている。
マーケティング判断は、チャネル内のことから、全てのチャネルを統括した判断に変わる。マーケティング判断を行うエンジン(どのユーザーにどのクリエイティブをいつ、どこから、どのように表示するかを判断する)は合理的に考えて、判断材料として用いる集約データに隣接して設置すべきだろう。オムニチャネルは、その名の通り、個別チャネルの上位に位置する。
単一チャネル用に洗練された判断システム、例えばEメールのResponsysの重要性は低くなり、より安価で実行型の代替サービスであるSendGridのようなサービスに取って変わるだろう。
パーソナライズしたクリエイティブを大勢に届けることができるプラットフォームは、次世代のマーケティングシステムにとって必要不可欠な要素だ。これは投資家にとってはあまり歓迎されてないことではある。上手く成し遂げるのは困難な上、投資家は既に痛い目に合っているのも原因の一つだ。
マーケティングのメッセージをユーザーの特徴とブランドとの接点における状況に合わせることで、パフォーマンスを最も高めることができる。例えば、このユーザーは自社ブランドを今回初めて見たのだろうか?最近カスタマーサービスで不満を訴えただろうか?商品の到着を待っているのだろうか?自社ブランドの重要なカスタマーになりうるだろうか?動画のSundaySkyやコピーライテイングのPersadoは、この分野の開発に注力している。
業界の主要プレイヤーが示す未来
Googleと Facebookは、市場の流れを良く捉えている。Facebookは特に良い立ち位置にいる。彼らは、これからマーケティングの基本単位となるユーザープロフィールを中心にサービスを構築しているからだ。
両社は、マーケティング判断を下すエンジンをどちらが所有するかを巡って競っている。GoogleとFacebookは、サードパーティーデータを最も多く保有していて、他企業が保有するファーストパーティーデータを自社のプラットフォームにアップロードさせたい考えだ。そうすることで各社のデータと彼らの保有する大量のサードパーティーデータと統合できる。
最近両社ともに「カスタムオーディエンス」プロダクトをローンチした。企業がファーストパーティーのデータをアップロードできる機能だ。これは、他のマーケティング会社ではなく、GoogleとFacebookに、実質的にマーケティング判断を委ねることを意味する。コントロールを多く得るほど、両社は利益を生み出すことができるだろう。
業界は、インプレッションを中心とする形態から、ユーザーを中心とする形態に進化しつつある。
小さい企業は、GoogleやFacebookがマルチチャンネルのマーケティングを実質的に支配することを歓迎するかもしれないが、より規模の大きい、価値あるデータを多く保有する企業は、自社でマーケティン判断を把握したいと考えるだろう。
これらの自社でマーケテイングを行う大企業は、Oracle、Adobe、Salesforce のターゲット市場の代表格だ。あるいは、法人向けマーケティングテクノロジーを提供する企業を構築しようとする者のターゲット市場となるだろう。
中でもOracleは間違いなく、 Eloqua、BlueKai、CompendiumとResponsysの買収により、価値の高い資産を獲得したと言えるだろう。しかし、同社がITやマーケティングを提供するための大規模な導入に重きを置くことは、彼らの成長を阻害する要因になるかもしれない。
大企業と並行して、スタートアップが生き延びる余地も残されている。他の大きい企業が他社を買収し、機能を拡充することも十分に考えられる。
ユーザーにとってこの革新が意味すること
ユーザーは、企業とのコミュニケーションが良くなったと感じるだろう。例えば、プロダクトの販売方法、そしてサービスやサポートの提供方法などが賢くなったと感じる。ユーザーは、お気に入りのコーヒーを補充することが簡単になり、旅行の時に必要な保険の加入を忘れることもなく、欲しかった特定の車種のテストドライブが適宜提供される。更には、銀行にモーゲージの質問をすれば、自動的にモーゲージのコンサルタントとつながり、回答が遅滞なく得られるだろう。
これを気味が悪いと感じる人もいて、プライバシーに関して多くの議論が必要だ。しかし、大多数の人は気にしないかもしれない。サービスの改善と効果的な広告は、彼らの習慣を機械に教えるコストに見合うものだと感じることも考えられる。
これはある意味、何世紀か前の時代の店主のようなのかもしれない。彼らは、顧客のお気に入りのブランド、買い物習慣、来客があること、あるいは病歴や他の個人情報を持ち、適切なサービスを提供していたことに似ている。このような個人に合ったサービスを歓迎する人もいるが、中には店主が自分のことを知らない方が良いと思う人もいる。
現代の場合、インターネット企業がユーザーに関して知っていることを他の企業に再販売できるという違いがある。これはまだ未知の状況で、また違う議論が必要な題材だ。
開示情報:私はこのテーマに関連するいくつかの企業に投資している。この記事に登場している企業もある。SundaySky, Windsor Circle and Lyticsだ。 Comcast Ventures は、StellaServiceに投資している。
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