paperboy&co.(現:GMOペパボ)創業者の家入一真氏、そしてそのpaperboy&co.のブランド戦略を担当した佐野一機氏による新会社キメラ。
8月にはEast Ventures、あすかホールディングス取締役会長の谷家衛氏、メルカリ代表取締役社長の山田進太郎氏、ドリコム代表取締役社長の内藤裕紀氏など複数の個人投資家、リブセンスを引受先とした総額約1億円の第三者割当増資を実施したと発表。自社でタレントマネジメントシステム「LEAN」を開発するとしていたが、新しい動きがあった。同社は9月9日、同じくタレントマネジメントシステムを開発するハッチを買収したことを明らかにした。買収額やスキームは非公開としている。
ハッチは2013年設立のスタートアップ。昨年ANRIおよびサイバーエージェント・ベンチャーズより資金調達した際に紹介したが、タレントマネジメントシステム「Talentio(タレンティオ)」を開発していた。2014年中にはプロトタイプが完成し、複数の企業に試験導入していたものの、代表取締役の二宮明仁氏と他の取締役および従業員で経営や事業の方針が折り合わず、文字通り組織が崩壊してしまったという。僕はこの件については複数関係者を取材しており、2015年春時点で代表を除く十数人の役員・社員がほぼ同時期に会社を去るという危機的な事態に陥っていたことを把握している。
はっきり言ってマネジメントという観点ではどうしようもない状態になってしまったハッチだが、導入企業や元役員・従業員、関係者などに聞く限りTalentioのプロダクト自体の評価は高かった(とは言えさらに開発できるような状況でもなかったが)。今回キメラは同社を買収することで、LEANの開発をストップ。すでにプロトタイプを提供する段階になっていたTalentioを自社サービスとして開発・展開していくという。なおハッチの代表だった二宮氏はキメラの執行役員となり、引き続きTalentioの事業を担当する。
キメラは「スタートアップの再生工房」になる
「マネジメントが弱いがプロダクトがいい、そんなことでビジネスに困っているスタートアップをどんどん買収する。我々はベンチャーの再生工房になる」——キメラの佐野氏はこう語る。
前回の記事でも紹介したが、キメラはその社名の元になったギリシャ神話に登場する怪物「キメラ」が獅子の頭、山羊の体、蛇の尾を持つように、独立した複数のサービスを持つ組織になるとしていた。それは、自らがプロダクトを立ち上げるだけでなく、企業・サービスを買収し(もしくは数カ月でのターンアラウンドを行う)、「経営」と「開発」の機能を提供して成長させるという意味なのだという。
こういうことができるのは、キメラの経営陣やアドバイザー、株主などが、それぞれ起業や経営の経験を持つ“大人”で構成されているからだと佐野氏は語る。
経営という点で言えば、佐野氏はコンサルとして活動した後、美容系スタートアップのファウンデーションズを立ち上げ、事業を売却した実績がある。また家入氏も上場経験のある起業家だ。開発という点では、今後家入氏が中心となり、エンジニアのネットワーク(ないし開発会社)を作り、キメラの傘下のサービスを開発していくのだという。2月にマザーズに上場したイードは、複数のメディアを買収してグロースさせるというビジネスを行っているが、イメージとしてはそれに近いだろうか。
「狭い業界なので『あのスタートアップはもうだめだよね』という話をよく聞くが、そういう話はもう聞きたくない。それをどうにか良くしようと考えたのがこの(再生)構想。起業家に対する敬意を最後まで崩さずにサービスを育て、IPOやバイアウトというイグジットを目指す」(佐野氏)
キメラでは今後、教育や金融、ヘルスケア領域のスタートアップの買収を検討する。またこの事業をさらに進めるため、2016年始にも大型の資金調達を行う計画だという。