Placemeterは画像処理技術を用いることで、歩道などに設置したIPカメラの映像から、歩行者数、自転車、車の交通量などを算出するサービスだ。計測したデータは、例えば、都市計画や小売店の出店場所の選定などに役立てることができる。今回TechCrunch Japanは、PlacemeterのCEOで連続起業家のAlexandre Winterに話を伺った。
Placemeterは2012年に創業し、ニューヨークに拠点を置いている。CEOのWinterはフランス出身で、Placemeterを立ち上げる前は、LTU Technologiesという画像認識技術の会社を共同ファウンダーとして立ち上げ、2005年にソフトウェア開発企業のジャステックに売却した。これまで培った画像認識の技術を活かし、Placemeterを創業したという。
「ニューヨークは人が多く、とても混雑しています。都市設計を見直すべきなのですが、計画時にも計画後にも交通量のデータが必要です。しかし、それをコストを抑えて実施するのは難しかったのです」とWinterは言い、そこに多くの需要があることに気づいたことがPlacemeterを創業した理由だと説明する。
Placemeterの設定方法は簡単だ。まず、交通量を測定する道が映るようにIPカメラを設置する。Placemeterのアカウントを開設し、設定画面でカメラのIPアドレスを入力すると、カメラとダッシュボードが連携する。後は、カメラの映像に何を計測したいかを指定するだけだ。例えば、歩道の通行人の数が知りたい場合は歩道を選択し、店舗への入店者数を計測したい場合は店舗の入り口を選択する。IPカメラでない通常の監視カメラを使用している場合でも、リアルタイムではないが、交通量の分析が可能だ。
Placemeterは、歩行者数、自転車、バス、自動車の交通量、それぞれが進んでいる方向とスピードを計測する。店舗の場合は、入店者数も分かる。計測結果はダッシュボードから確認でき、また計測データをエクスポートすることも可能だ。
これまで交通量の測定は人が目で追って数えていたが、手間がかかる上にデータも正確でなかった。また既存のソリューションは端末と回線を設置するのに一台数万円かかることもある。Placemeterでは、5000円程度の安価なIPカメラでも数値を計測することができる。Placemeterの料金体系は、測定箇所を一ヶ月計測するごとに149ドルを課金するモデルだ。
Placemeterのデータを活用できる場面をWinterはいくつか説明した。
・小売店の出店場所や賃貸料の交渉
小売店を出店する場合、重要となるのは店舗の前の歩行者数だ。例えば、Dylan’s Candy Barという菓子店は、ニューヨークでの出店場所に2つの候補地があった。それぞれの候補地が面する通りの歩行者数をPlacemeterで計測した結果、一方の店舗の歩行者は9時と5時の時間帯に集中していることが分かった。つまり、ほとんどが通勤の歩行者だった。もう一方の歩行者数の合計人数は一軒目よりは少なかったものの、歩行者は午前11時から午後3時の間に多く見られた。時間に余裕のある人が多く通行していることが予測でき、菓子店は二軒目の候補地に出店を決めたそうだ。また、人気の商店街などではオーナーの不当な賃貸料の引き上げに対し、Placemeterで交通量に変動がないと証明し、賃貸料の交渉材料としてたケースもあるとWinterは言う。
・小売店のディスプレイのコンバージョン率
ウィンドウディスプレイは小売店にとって重要な宣伝媒体だ。店舗の前の通行人の数と入店者数を計測することで、店舗に入店した人の割合が分かる。つまり、現実の店舗のコンバージョン率が分かるのだ。ウィンドウディスプレイを変える前と変えた後を比較することで、ディスプレイの効果測定ができるようになる。
・都市計画と交通網の効果測定
都市は人や自動車の往来を鑑みて、信号や歩道の設置といった交通の設計を行っている。しかし、そのような施策の実行には市民の税金が使われるにも関わらず、実行した施策の効果が分からないことが問題だった。Placemeterを設置することで、交通量が多く事故の危険がある場所を特定したり、施策の効果を計測したりすることができる。現在、ニューヨーク、ボストン、フィラデルフィアといった都市がPlacemeterのサービスを活用しているそうだ。
・イベントのスポンサー誘致
イベントのスポンサーを募る場合、広告などの宣伝効果を示すことが効果的だ。モントリオールでは、街の広場でアートイベントなどを開催している。彼らは、イベントの参加者数や特定の広告看板の前を通る人の数といった数値をスポンサーに示すために、Placemeterを活用しているそうだ。
Placemeterは独自のIPカメラも開発している。99ドルで販売しているこのカメラは、画像解析アルゴリズムを内蔵し、必要な情報のみを出力する仕組みなのだそうだ。またWinterは、プライバシーの取り扱いに細心の注意を払い、Placemeterが顔認識といった個人を特定する機能は無いと強調した。Placemeterは、映像の解析が終わった段階で映像データを破棄しているという。また、アルゴリズムは継続的に、動画の明るさ、角度やその場の状況に影響を受けづらいように改良しているが、検証用のデータも全体の僅か0.01%しか録画していないそうだ。
Placemeterが2013年に実施したシードラウンドには日本のScrum Venturesが参加したこともあり、Winterは日本でのサービスを視野に入れている。銀座などの小売店の集まる街や商店街、百貨店、更には都市計画を検討している自治体などのパートナーを探しているそうだ。