Eコマースとオフラインの買い物体験の共生関係

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編集部記Sanjit Dangは、Crunch Networkのコントリビューターだ。Sanjit DangはIntel Capitalのインベストメント・ディレクターを務めている。

興味深い現象がある。1990年代からEコマースは順調に伸びているものの、私たちはまだショッピングモールや店舗に足を運ぶ。ワンクリックで注文できて、翌日には商品が配送されるようになってもなお、毎日の消耗品やサービスをオフラインで買うのだ。

その大きな理由は、私たちはショッピングで周りの広い世界と関わることができることにある。数人の友達とショッピングモールに行って、試着したり、買いたいものを話し合ったり、ショッピングが終えた後は映画を見たり、ワインを飲んだりする。

「ショッピングで満足感が得られます。価値のあるものです。完全に没入した体験で、濃いソーシャルな体験でもあります」とインドのオンライン小売販売大手、Flipkartのチーフ・プロダクト・オフィサーであるPunit Soniは、TiECON 2015のカンファレンスでそう話した

しかしSoniを始め、他のコンシューマーテクノロジーに着目している人たちは、オフラインの体験とオンラインでの体験が対局に位置しているということを目の当たりにしている。オンラインコマースで買い物客は、画面を見ながらキーボードを使い、一人の状況で疲れるほどたくさんのクリックをしている。

実際はオンラインとオフラインのコマースは共生する関係にある。新しいテレビを購入する時、人はオンラインで商品の情報を調べ、店舗で購入する。そして、友人の家にあったシャンデリアは写真を撮って、ウェブから注文する。

オンラインとオフラインコマースをゼロサム・ゲームに押し込めるのではなく、この関係を強化するには何ができるかに目を向けた方が良さそうだ。

私たちは、オンラインショッピングの体験はよりパーソナライズし、感情的にもソーシャルな体験的にもオフラインの買い物体験に近くなる必要があると考えている。テクノロジー投資家として長年やってきて、現在3つのテーマに注目している。全体のカスタマー体験を向上させること、人工知能技術、そしてユーザーに対してよりパーソナライズ化した体験を提供することだ。

クリックを最小限に

あまりに多くのコマースサイトのデザインが、昔のウェブデザインのままだ。サイトはツリー構造で、ユーザーは特定の商品を探すのに何層ものページを進まなければならない。古めかしい上に、面倒で、ショッピングは忍耐力を試されるものになってしまった。

過剰なクリックを減らす方法はないだろうか。つまり、ユーザーが欲しいと思ってから、購入までの距離を縮めるということだ。特にそれは、瞬時に購入できることが満足度につながるモバイルコマースで重要になってきている。アメリカにおけるショッピング体験の重要な部分にもなってきた。すでにアジアを始めとする他の地域ではそれが定番となっている。

Google Suggest機能は、このコンセプトを素晴らしい形で実現している。ユーザーが検索ワードをいくつか入力すると、すぐに選択肢を提示し、ユーザーはそこから選ぶことができる。商品を探すのためのクリックを省くことができるのだ。

オンラインのコマースサイトでも同様のテクノロジーを採用していないのか?もちろん、使い始めている。中には、さらに進んだ検索を提供しているところもある。例えばAlgoliaは、ユーザーが検索ワードを入力している間も商品を提案する機能を既存の小売店のサイトに追加できるサービスだ。

オンラインとオフラインのコマースは共生する関係にある。

しかし多くの場合、サイト内検索だけでは十分でない。例えば、Googleで「女性用の赤いセーター」と入力した場合、女性用のセーターが大量に表示される。もちろん全て赤い。しかし、アメリカでメジャーなオンライン小売サイトで同じ言葉を検索したのなら、女性用の様々な色合いのセーターが表示されるだろう。

検索は買い物客ほど賢くはないのだ。

オンラインで見つけた赤いセーターを近くの店舗で購入しようとする時も課題がある。まず気に留めておいてほしいのは、人が近くの店舗で買い物をするには様々な理由があることだ。少し遠出をする予定だったり、出かける用事ができたり、旅行で町を離れたり、誰もが商品の配送を待てるわけではない。

そこでオンラインで見つけた赤いセーターを近くの店舗で購入しようとする。火曜日の夜8時にショッピングモールに行ったことがあるなら、そこがどのような状況になっているか知っているだろう。稼働しているレジの数は少なく、最低でも1回はエスカレーターに乗って、香水売り場や10代向けのジーンズ売り場を通り、ようやく欲しい商品をみつけることができる。

ここでの体験を快適にする方法は2つあるだろう。

1つは、タブレットコンピューターを店舗の入り口に設置し、買い物客は検索ワードやプロダクトIDを入力して、セーターの画像を探し、その商品がある場所までの最短の道のりを示すことができる。これは、インタラクティブなウェイ・ファインディング(道のり検索)というコンセプトで知られている。2つ目のアプローチは、このタブレットと店舗での体験をスマートフォンに移すことだ。ユーザーの自宅から、店舗の商品棚までのルートを地図で示すことができるだろう。

クリックの回数をできるかぎり減らすことで、これらの技術はオンライン上のカスタマー体験を良くするだけでなく、オフラインの体験との結びつきをより強いものにすることができる。

過去のことを参照しない

昨今のEコマースの体験で最も不合理だと思うのが、広告がいつも遅れていることだ。私が今この時点で見ているスマホ画面の広告は、先週、私が何かの商品を購入するためにした検索情報を反映している。私はもうその商品を購入しているのだが、広告アルゴリズムだけは過去の情報を見たままだ。

人工知能はこの状況を一変させる可能性を持っている。人工知能は情報を素早く処理するだけでなく、買い物客を包括的に理解しようと積極的に考えている。

人工知能アルゴリズムの開発は始まったばかりだ。次の数年で人工知能は普及し、細かい情報を読んで、包括的に理解することができるようになるだろう。それが、Intel CapitalがReflektionを自社のポートフォリオに加え、追加投資を行った理由だ。Reflektionは機械学習を活用し、Eコマースで買い物客にリアルタイムでぴったりの商品だけをレコメンドする。

機械学習アルゴリズムが本当にブレークスルーを起こすには、もう一つ変わらなければならないことがある。小売店が得るカスタマーの情報は断片的なものから包括的なものにすることだ。

世界はパーソナライズ化の方向に進んでいると私たちは考えている。

例えば、お気に入りの洋服のオンラインストアの場合、そのサイトは私が好きなシャツの種類を知っているが、私がダウンロードした音楽については何も情報を持っていない。私が良く利用している旅行サイトは、私がどこに旅行したいと考えているかは知っているが、私が読んだEブックが何であるかは知らない。そして、これらのオンラインサイトは、私が近いうちに出張でインドとシンガポールに行くと電子カレンダーに入力したことを知らない。オンラインサイトは限られた接点からでしか私が置かれている状況を知ることができず、それに基づいた提案しかすることができない。

私たちの先月の生活や私たちのほんの少しの情報を元にした提案を一旦止めると、オンラインの買い物体験はオフラインの体験と似ていることが分かるだろう。つまり、私たちは私たちがどのような生活をおくっているかという包括的な視点に基づいた、思慮深く、細いレコメンドが必要ということだ。

そして、3つ目の話につながる。

私のことを良く知る

多すぎるクリックは、今日のデジタルコマースの世界における魔物だ。昔ながらの店舗なら、試着室での無駄な時間や商品棚に戻す作業と同じようなものかもしれない。

それは、アパレル自体「すぐに試着できる」できるものに近く、「すぐに着て生活できる」ものとは少し違うからだ。デザインはおおよその想定体型に基いて作られるもので、私たちは入手できるものの中で自分に合った服を選ぼうとしている。

言い換えれば、実際の小売店のパーソナライズ化はまだ進んでいないということだ。

これを解決する興味深い案の1つは、より正確な身体の寸法を測定し、商品選びをカスタマイズすることだ。あるいは、せめて入らない服を検索結果から除外することができるだろう。測定を元に、このシャツは胸部のラインが細身になっているデザインで寸法が足りない、あるいはこのジーンズはヒップが細く作られていて合わないと予め分かったらどうだろうか。

ハイレゾのカメラをを使用することで、正確な測定が可能となる。IntelのRealSenseは、このような3Dで輪郭を正確に測定できる端末の内の1つだ。

検索機能、店舗やスマホが、ユーザーの特定のサイズの寸法にアクセスがあるとしたらどうだろうか。

複数社、この計測市場に飛び込んだ。Body Labsはマンハッタンに拠点を置くスタートアップで、Intel Capitalのポートフォリオに最近加わった。彼らのサービスでは、1分以内に3Dボディースキャンで寸法を測定することができる。 True Fit は、服がそれぞれの買い物客にフィットする度合いを示したり、適切なサイズをレコメンドする。 Intervisualは、詳細な3D画像で異なるジーンズがどのようにユーザーの身体にフィットするかを提示する。

赤いセーターの例に戻って、考えてみてほしい。もし、検索機能、店舗やスマホが、ユーザーの特定のサイズの寸法にアクセスがあるとしたらどうだろうか。その寸法の情報を基いて、大きすぎたり、小さすぎたりするセーターを検索結果から除外することができたらどうだろうか?あるいは、ユーザーの寸法に合ったセーターを製造することができるようになったら?

NikeのCOOは、それが彼らのビジョンであると最近話している。いつの日か、カスタマーはデジタルファイルを受け取り、自分の靴を自宅の3Dプリンターで作る未来が来るだろうと言う。世界最大級の靴の会社が、これまでより少ない数の靴を製造することになる。それがパーソナライズの可能性だ。

この時、パーソナライズ化のためのデータを誰が所有するかという問題が出てくるだろう。どこに情報を保存し、誰がその使用許諾をするかといった問題だ。私たちは、買い物客自身が、小売店が情報を得る方法やどのように使うかに関する全てのコントロールを持つべきだと考えている。

世界はパーソナライズ化に向かって進んでいると私たちは考えている。何故なら小売において、ユーザーの置かれている状況が最重要だからだ。ユーザーが現在何を読んで、何を聞き、来週誰に会って、来月どこに旅行するといった情報が鍵なのだ。

これらの情報を尊重した上でテクノロジーを開発することが、オンラインEコマースの体験をオフラインの買い物体験に近づけるために重要なことである。そしてオンラインとオフラインのどちらもより便利なものとなるだろう。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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