昨年年商が約3億円だったものが、2016年3月締めの今期は30億円ほどと一気に10倍になる見込み―。そんな数字を聞いてぼくは驚いたのだけど、テラモーターズが次に取り組むのはドローンなのだった。
電動バイク市場をアジアで開拓してきたテラモーターズは先ほど都内で記者会見を行い、ドローンビジネスを行う新会社「テラドローン」を設立したことを発表した。設立は2016年3月で資本金は3300万円。TechCrunch Japanでは会見に先立って代表の徳重徹氏に話を聞いた。
今回の新会社は、山形県を拠点に土木向け測量などをドローンで行ってきた実績のある企業、リカノスからドローン関連事業の譲渡を受けて開始するものでゼロからハードやソフトを作る話ではない(事業譲渡の金額は非公開)。徳重氏によれば、リカノスは過去1年半ほどゼネコンから受注して測量を自動化するビジネスを行ってきたという。
「本当に必要なのは自動化じゃないんです。この業界は保守的で、ドローンを持ってきて自動化しますといってもダメなんです」
例えば大手ゼネコンの建設現場というのはプロマネのような人がいて、最初に測量のための基準点を打つ。それから平面図と断面図を作るが、現在ドローン関連に取り組む企業は、そうした基本的な現場理解に欠けているのではないか、というのが徳重氏の見立てだ。
ハードウェアはDJIやParrotなど個人やハイアマチュア向けのベンダーがしのぎを削っていて、ここで勝負するのは難しい。しかし、個別用途ごとにソリューションを作りこむビッグプレイヤーは、まだこれから5年くらいで出てくるだろうと見ていて、テラドローンはその地位を狙う。
「パソコンと同じ展開になると考えています。ドローンのハードウェアはコモディティ化して、IBMやHPのように各産業向けソリューションを販売する業務用サービスが伸びる」
欧米でドローン関連スタートアップが多く立ちがっていることはTechCrunchでも日々お伝えしている通りだが、徳重氏の目にはプロダクトアウトすぎて、マーケットニーズを掴む重要性を軽視しているように見えているようだ。まだ北米のドローンベンチャーも売上が上がっているわけではないし、無人宅配についても、都市部、特に日本だと下に人がいないことが重要なので、まだビジネスとしての成立は、だいぶ先のことだろうという。
ビジネスの立ち上がりに重要なのは現場ニーズを掴むことだという。
「ハードウェアは、そんなに関係がないんです。カメラにカスタム入れたりというのは特許も含めてありますが、それよりも、対空標識の置き方をどうするか、どういう飛ばし方をするか、後処理はどうするかという総合的なファクターの調整が大事です。現場は別にドローンの写真が欲しいわけではないですから」
リカノスは1年半の実地の経験から土木測量に使える精度を出せるノウハウを蓄積しているという。一般的なドローン空撮による測量で誤差がメートル単位となるところが、5センチ単位になっているという。ほかにも、コスト管理のために切土・盛土から土量を数センチ単位で把握することが大事だが、ドローンを使う既存の方法では全体の面積のうち80%以上のち天で20センチ以上の誤差となる、というよう課題を解決している。この結果、測量時間は10分の1、コストは5分の1になる。
「建築だとミリ単位ですが、土木なら5センチで使えるんです。でも逆に、いくら無人化します、自動化してコストを抑えますといっても誤差が2メートルでは意味がありません」
ドローンというと無人化や自動化の面が注目されているが、そうではなく実際のビジネスとしてマネタイズができるところを狙うのは、テラモーターズがアジア市場で取り組んできた経験もあってのことだと徳重氏はいう。
「そもそも市場を見つけるのが大変なんです。EVが注目されていますが、イーロン・マスクのテスラですら、たかだか年間5万台です。GMは1000万台程度なので0.5%に過ぎません」
テラモーターズはバングラデシュやベトナム、インドで2輪電動バイクや、3輪タクシー用の電動バイクといった市場を開拓してきたという。例えば、村の間の移動という「ラスト1マイル」でサイクルリキシャと呼ばれる人力の乗り物が使われている地域に向けて出す電動バイクを開発したり、3輪タクシーを作ったりといった具合に、それぞれのニーズや市場は全然違うという。
「まずそれぞれの地域で市場を見つけて、作りこんでいくんです。高すぎるとか、あれがダメ、これがダメと言われながらプロトタイピングを2度、3度とやっていく。今期の売上が30億円と10倍なのは、準備期間が2年ぐらいあって売上は昨秋ぐらいから上がり始めているということです」
年商30億というのは上場には十分にも見えるが、徳重氏は上場よりも当面はメガンベンチャーになることを目指すという。
「半年前から新規事業としてAI、VR、ロボットなどいろいろ検討してきました。これから業務用ドローンサービスが伸びる、いまはDJIかもしれないけど、5年後10年後だと違うでしょう。そのときのプレイヤーはまだ見えていません。今はまだ途上。お客さんがお金を払っていません。今後、われわれがソフトウェアの会社を買収することもあり得ます」
テラドローンでは、土木測量のほかに、農薬散布や点検維持管理などが応用としてみえていて、ドローン宅配はいちばん最後と考えているそうだ。
「ともかく市場を見つけること。キラーアプリを見つければ解決すべき問題は出てくるはずです。そのとき電気だけじゃなくてハイブリッドを使うかもしれないし、飛行機型のドローンを使うかもしれません」