【編集部注】執筆者のTim Merelは、Eyetouch RealityおよびDigi-Capitalのファウンダー兼CEO.
仮想、拡張、複合現実(それぞれVR、AR、MR)は競争上の問題を抱えている。
ほとんどのAR・VR企業は、1番の競争相手となる企業と自社を比較し、どのくらい自分たちが優れているかについて宣伝しているが、彼らは戦う相手を間違えている。VRについてはOculusやHTC、Sony、Samsung、Google、AR(MRを含む)についてはMicrosoftやMagic Leap、Meta、ODGといった会社間での競争が取り沙汰されているが、これは真の意味での戦いではない。彼らにはもっと巨大で恐ろしい相手がいるのだ。
現状
現状(Status quo)こそがARとVRの最大の競争相手だ(ちなみにStatus quoとはLive Aidのオープニングアクトを務めたイギリスのバンドのことではない)。
現代人は、平均して1日のうち11時間を電子メディアの視聴に使っている。つまり平均寿命である79年のうち、34年以上がメディアに捧げられているのだ。何がそこまで魅力的で、私たちは一生の約半分をメディアに投じているのだろうか。
その内訳としては、テレビ(ライブ・録画の両方)が48%、携帯電話・タブレットが20%、ラジオが18%、オンラインPCが9%、そしてその他が6%となっている。そしてほとんどのメディアにおいて、視聴時間が横ばいか減少傾向にある中、スマートフォンとタブレットに関しては、メディア市場の拡大という、これまで不可能だと思われていたことが起きている。携帯電話・タブレット上でのメディア視聴時間は、過去2年間だけで1日あたり2時間以上へと倍増したのだ。そしてこの傾向は若者に顕著に見られる。年配の人の、最近の若者は携帯電話ばかり見ているという愚痴には、実は現実が反映されている。
ここでの大きな問いは、ARやVRがどのようにテレビや携帯電話、タブレットと戦っていくのかということだ。
メディア以外に費やされる時間
しかもAR・VRが戦わなければならないのは、メディアだけではない。
私たちは一生の半分近くを電子機器に費やしている一方、それ以上の時間を、他のやらなければいけないことに使っている。仕事と睡眠にはそれぞれ1日あたり平均7時間必要で、メディアに費やされる時間と合わせると、それだけで地球の自転一周分にあたる24時間が埋め尽くされてしまう。
睡眠に関しては、ARやVRもどうすることもできず、携帯電話でさえ睡眠の壁をこえられないでいる。しかし仕事(そしてその他の生活の一部)はどうだろうか?これこそ、ARやVRが携帯電話の栄光から学ぶべき点であるともに、ARとVRの差異が表れだすポイントだ。
マルチタスキング
感の鋭い人は、メディアと仕事と睡眠で24時間が埋まってしまうと、食事やスポーツ、家事、家族や友人との交流、通勤といった、その他の活動のための時間が無いということに既にお気づきだろう。もちろんこのような活動を行いたいと考えている人は存在し、ここで携帯電話が成功をおさめる上で大きな要因となった、マルチタスキングが力を発揮する。
マルチタスキング(テレビに限って言えばセカンドスクリーニングとも呼ばれる)とは、同時に2つ以上の作業を行うことを指す。87%の人が、テレビを見ている時のセカンドスクリーンとして、携帯電話やタブレット、(数は減るが)PCを利用している。中には、携帯電話を使う合間にテレビを見る人の存在を指摘し、テレビの方がセカンドスクリーンになったと主張する人もいる。
しかし携帯電話とマルチタスキングには、他にも議論されるべき点がある。人は平均して1日に40回以上(若者の場合には70回以上)携帯電話をチェックしているのだ。つまり食事中や家事をしているとき、家族の面倒を見たり、友人と遊んでいるときや通勤中などにも、携帯電話が常に利用されている。そして携帯電話は、多くの人にとって朝目を覚まして最初に見るものだ(その他にもさまざまな朝の支度中に携帯電話が使用されており、これが最近の携帯電話に防水機能が搭載されている理由でもある)。
VRの性質
VRの売りはその没入感で、これこそVRが人気になるであろう理由のひとつだ。
しかしVRの性質として、全ての注意をコンテンツに向ける必要があり、携帯電話では問題にならなかったマルチタスキング上の課題が生まれてくる。VRヘッドセットをしたまま通りを歩いたり、VRの世界の外にいる人と意味のある会話を試みたりすると、その課題の意味が分かるだろう。また、VRコンテンツを楽しみながらテレビやスマートフォンをセカンドスクリーニングすることもできるが、それでもユーザーはVRの世界の中にとどまったままで、現実世界でセカンドスクリーニングをしているわけではない。
そのため、時間の観点から言えば、VRは既に埋め尽くされている24時間の枠の中にある他の欲求や、それに紐づいた活動と戦わなければいけないのだ。これは大衆消費者(コアなゲーマーではなくお年寄りや親戚の子どもを想像してほしい)を相手にする上でとても大きな問題だ。VRは、マルチタスキングの恩恵を受けずに消費者の時間を獲得するため、別の活動をステージから引きずり下ろす必要がある。これは現状やVR以外のもの全てとの真っ向勝負を意味する。
ARの性質
ARはVRよりも解決するのが難しい技術的な課題を抱えている。それゆえ、現在ARはエンタープライズをターゲットとし、未だ大衆消費者には手を伸ばしていない。しかしAR企業の中には、2017年から2018年にかけて大衆消費者向けのサービスをローンチするという積極的な計画を立てているところもあり、これはもはや時間の問題だ。
ARが消費者市場に登場すれば、携帯電話が持っていたマルチタスキングという利点を使うことができる。実際のところ、この点に関して、ARは携帯電話よりも大きなアドバンテージを持っている。
まずポケットからデバイスを取り出す必要がなく、スクリーンをチェックするためにデバイスを見下ろす必要もない。小さなスクリーンのサイズに制限されることもなければ、仕事中にCandy Crushで遊んでいるところを背中越しに誰かに見られてしまうこともない。さらにWeChatをチェックしながら歩いていて何かにぶつかってしまうこともないのだ。
しかもこれは単なる憶測ではない。これまでに街中でPokémon Goで遊んでいる子どもたちを見たことがあれば、私の言っていることがわかるだろう。Pokémon Goのように必要最小限のAR機能を備えたものでも、そのマルチタスキングのしやすさが既に証明されているのだ。
AR・VR界の内部での競争はどうなっているのか?
業界内での競争はさらに白熱している。というのも、AR・VR業界のどこを見ても、これまで独占的なポジションを獲得できた企業が存在しないのだ。そもそも、市場の成長段階を考えると、どこかの企業が覇権を握るにはまだ早過ぎる。そのため、健全なレベルの競争が起きている中で、全てのプレイヤーにチャンスがあり、市場のルールも現在構築されている。
この業界の実情を内部から観察していて喜ばしいのは、各企業が競合相手を威圧しながらも、コミュニティ全体ではコラボレーションが促進され続けているということだ。どの企業も切磋琢磨の精神を理解しているように感じられる。だからこそ、私たちが毎クォーター開催しているReality CheckというAR・VR業界のCEO向けフォーラムには、競合し合う企業のCEOや幹部、VCのパートナーが何百人も参加して取引やコラボレーションを行っているのだ。
ということでAR・VR業界の競争は大歓迎だ。今後さらにこの業界は面白くなっていくだろう。
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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter)