不動産スタートアップのイタンジがKDDI、いちごと資本業務提携—法人向けサービスで拡大

イタンジ代表取締役の伊藤嘉盛氏(左)とKDDIバリュー事業本部 新規ビジネス推進本部 戦略推進部、KDDI∞Labo長の江幡智広氏(左)

「不動産×IT」の領域にチャレンジするスタートアップは数多いが、そのほとんどは不動産仲介会社、つまりは「物件を紹介してくれる街の不動産屋さん」の置き換えにチャレンジしている。だが今日ご紹介するイタンジは、不動産仲介会社や不動産管理会社向けのソリューション提供に主軸を置いたスタートアップだ。同社は3月8日、KDDIおよび不動産事業を展開するいちごとの資本業務提携を実施したと発表した。資本提携については、2社を割当先とした第三者割当増資を実施している。調達額や出資比率は非公開としているが、イタンジは2月26日付けで資本金を1億7251万円から2億2381万円に変更している。

イタンジは2012年創業の不動産スタートアップ。当初はC向けに不動産仲介サービスから事業をスタートした。C(コンシューマー)向けサービスは現在「nomad(ノマド)」の名称で提供中だ。nomadはスマートフォン向け・ネット完結(無店舗)型の不動産仲介サービスで、チャットUI上で物件に関する希望を送れば、AIおよびオペレーターが条件にマッチする物件の紹介をしてくれるというもの。仲介料は一律3万円となっている。

もちろんC向けの事業も展開しているのだが、同社の中核となっているのはB(法人)向け事業。nomadをベースにした仲介会社向けクラウドサービスの「nomad cloud(ノマドクラウド)」や管理会社と仲介会社向けの物件確認システム「物確くん(ぶっかくん)」などを展開している。

「不動産業界は建築業よりもIT化が遅れている業界。逆に言うとイノベーションがまだまだ起こる可能性がある業界だ」——イタンジ代表取締役の伊藤嘉盛氏は語る。

nomadでは、これまでユーザーからの会話データ20万件を解析してきたという。この解析結果をベースにAIとオペレーターを組み合わせた顧客対応を実現。これによってスタッフ1人あたりの月間対応顧客数が1000人(一般的な店舗型の仲介会社であれば1人あたりの顧客数が40人程度)になった。この実績をもとに展開するnomad cloudは、現在9万件の導入実績がある。

また、仲介会社と顧客を結ぶサービスだけでなく、不動産の管理会社と仲介会社を結ぶサービスも展開している。現状、仲介会社が紹介する物件というのは、管理会社が「REINS(レインズ)」や「ATBB(アットビービー)」といった業者向けデータベースに登録しているものが中心となる。だが業者向けのデータベースとは言っても、リアルタイムに更新されている訳ではないため、仲介会社は入居希望者が現れる度に管理会社に電話をして空室確認をするという手間が発生する。

この電話対応が管理会社には大きな負荷(電話対応の約5割が空室確認というケースもあるそうだ)になっているのだという。この物件確認作業を電話の自動応答で実現したのが物確くんだ。管理会社が空室データをcsvなどのファイルでアップロードすると、それぞれの物件に固有のID(物確くんナンバー)が割り振られる。仲介会社は指定の番号に電話をし、音声ガイダンスにしたがってそのIDを入力すれば、自動応答で即座に空室状況が分かる。管理会社は問い合わせの履歴などを閲覧することも可能だ。現在は大手の管理会社を中心に60社100拠点が利用。登録される空室は26万戸で、月間50万コール・4万5000社以上の仲介会社が利用している。

「もともとはC向けのビジネスが売上の8〜9割だった。だがC向けは競合が多く、またデータベースも外部に依存しているため、手数料を下げるといった『安売り』をせざるを得なくなり、単体でスケールすることは大変だった。そこで2015年1月からB向けに事業の舵を切った」と伊藤氏は振り返る。管理会社、仲介会社の負荷を減らし、仲介会社であれば来店者数増加、管理会社であれば事業効率化といった目的を実現刷るソリューションを提供することで、事業を拡大しているという。

イタンジでは今回調達した資金をもとに、nomad cloudや物確くんのサービス開発を強化する。また3月以降は両サービスの物件情報を統合し、リアルタイムに更新可能な物件データベースの構築を進めるとしている。そのほかKDDI総合研究所の技術を活用した物件提案サービスの展開、KDDIおよびいちごとのソリューション販売協力などを進めていく。

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TechCrunch Japan

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