日本のネットを騒がせる「マストドン」、その課題と可能性をえふしん氏に聞いた

編集部:ここ数日間で日本でも急激に話題となっているSNS「Mastodon」(マストドン)。ポストTwitterとの呼び声も高い同サービスは、インターネットに慣れ親しんだ(主におじさん)世代でブームとなり、瞬く間に若者など広い層に広がった。

Yahoo!リアルタイム検索で「マストドン」のツイート数の推移を追ってみても、約1ヶ月前の3月21日は11件しかなかったものが、4月1日に100件を突破し11日には1730件、14日には1万820件と急上昇。15日には3万6579件ツイートされている。その後は減少傾向にあるが、この1週間で大きな注目を集めたのは間違いない(ちなみに「マストドン」の方が「Mastodon」より検索ヒット数は多い)。

この1週間、マストドンに関する使い方や解説などは各種メディアや個人ブログで読めるようになったし、pixivの「Pawoo」をはじめとして新しいインスタンス(サーバ)も複数立ち上がった。今回はTwitterが日本で流行り始めた2007年にモバツイを開発するなど、SNSに関する知見が豊富な「えふしん」こと藤川真一氏(現BASE CTO)にマストドンの思想から課題、今後の可能性までを聞いた。

マストドンは運営会社の支配から解放された空間

「Twitterクローン」と紹介されているだけあって機能面はTwitterにかなり近いが、誰でもインスタンス(サーバー)を開設でき、Twitterのように制約や統制がないことが大きな違いだ。

これはマストドンに用いられているOStatusという規格が掲げる「分散型ネットワーク」の思想に基づくもので、簡単にいうと運営会社の支配から解放された自由な空間であるということ。

たとえばTwitterの場合、アカウントの作成や細かいルールなどTwitter社が決めた規約にユーザーは従う必要があるが、マストドンではそこから解放される。どのインスタンスでアカウントを作るかは自分の意思で決定でき、そもそもインスタンス自体を開設することも可能だ。

そしてリモートフォローという機能を用いることで、別のインスタンスのユーザーとも繋がれるという特徴をもつ。

10年前のTwitterを彷彿させる、ネットワークの熱狂

「久しぶりにアーリーアダプター向けのプロダクトが登場したな」というのがマストドンの第一印象だ。ローカルタイムラインや連合タイムライン(そのインスタンスが知る他のインスタンスのユーザーを含んだタイムライン)には目で追い切れないほどの投稿が次々と表示され、ネットワーク全体の熱量を感じることができる。

初期のTwitterも「グローバルタイムライン」で全てのユーザーの投稿が表示されていたが、まさにこれを彷彿させる機能で、他人の息吹を感じる面白さがある。現在のTwitterではフォロワーとの関係を中心とした限られたネットワークになっているため、機能が似ていても体感できるものは違うはずだ。

ここ数日でマストドンが一気に知れ渡ったが、最初に利用し始めた層は「Twitter老人」といわれるような、Twitterを初期から使っているユーザーが多かった。

個人的には日本での第1次Twitterブームは2007年だと考えているが、その時からちょうど10年が立ち2017年4月は国内でのTwitterブーム10周年といえる。そうしたタイミングも重なって、私自身も当時のTwitterの熱狂を思い出しながらマストドンを楽しんでいる。

それは開発サイドでも同じこと。今回22歳の学生が個人で開設したインスタンスにたくさんの人が集まり、注目を集めた。10年ほど前のWeb 2.0の頃には個人が開発したサービスが話題となることも多かったが、「エネルギーを持った誰かがサーバーを立てて、そこに共感した人が集まってくる」というのはインターネットの原点であり、そこに魅力を感じた人もいるだろう。

マストドンの課題と可能性

ただしマストドンが以前のTwitterに似ているとはいえ、現在のTwitterと同じように捉えることはできない。魅力のあるサービスだが、早々に限界が訪れる可能性もある。

「ローカルタイムライン」「連合タイムライン」には該当するユーザーの書き込みが全て流れる仕組みになっており、今後ユーザー数が増えていくとこのままの状態を維持できなくなるだろう。

そもそも開発者はここまで急激な伸びを想定していなかったのかもしれないが、今後大量のデータの扱い方を考えていく必要があるのではないか。まさにTwitterの本質はその技術や仕組みにある。

Tweetのコピー(リツイート)やアカウントのなりすまし問題に対して、公式リツイートや認証済みアカウントという仕組みを考案してきた。今後マストドンでも同様の問題が起こる可能性はあり、その対応が気になるところだ。

とはいえ、マストドンにはTwitterと同じく何かしら日本人の心に刺さるものがあり、ポテンシャルは高い。現時点ではユーザーが特定のインスタンスに集中しており特徴が十分に生かされていないが、多数のインスタンスに分散し始めると面白くなるはずだ。

たとえばKINUGASA(連続起業家でCAMPFIRE代表取締役の家入一真氏が立ち上げたインスタンスだ。ちなみに家入氏は当時papaerboy&co.(現GMOペパボ)で「キヌガサ」というSNSを運営していた)のように個性的なデザインやカルチャーのインスタンスが増え、それぞれの特徴がはっきりしてくるとTwitterにはない魅力がでてくるのではないか。

今のTwitterは影響力を持った人が注目されるコミュニティになってきていて、現代社会を投影しているような印象がある。もともとインターネットはマイノリティーが集まってできた空間だ。小さな村の村長や、大学のミスコンみたいに限られたコミュニティの中で、個々人が個性を出せる場所があってもいいはず。

インスタンス開設のハードルがもう少し下がる必要はあるが、参加者やインスタンスの数が増え、リモートフォローを通じてコミュニティが広がっていくと、盛り上がっていくのではないかと期待している。

藤川真一(えふしん)

FA装置メーカー、Web制作のベンチャーを経て、2006年にGMOペパボへ。

ショッピングモールサービスにプロデューサーとして携わるかたわら、2007年から携帯向けTwitterクライアント「モバツイ」の開発・運営を個人で開始。モバツイ譲渡後、2012年11月6日に想創社設立。

モイ株式会社にてツイキャスのチーフアーキテクトを勤めた後にBASE株式会社 取締役CTOに就任。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 後期博士課程の学生でもある。リモートフォローは「https://mstdn.fm/@fshin2000」。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。