植物ECサイト「HitoHana」を運営するBeer and Techは10月4日、グローバルブレインと既存株主のANRIを引受先とする第三者割当増資により総額1億円を調達したことを明らかにした。
今後同社では生産やデザイン、販売まで自ら手がけるD2C(Direct to Consumer)モデルを展開していくとともに、法人向けの卸売・委託直送サービス「HitoHana for Business」を本格化させていく。
Beer and Techは2014年にANRI、プライマルキャピタル、East Venturesから資金調達を実施。当時は「スマート予約」という飲食店予約サービスを展開していたが、2015年末に現在のHitoHanaへとピボット。今回が2回目の資金調達となる。
6000点の商品と泥臭いオペレーションを武器に成長
HitoHanaは2016年から開始した植物ECサイトだ。「個人の観賞用」領域に特化していて、現在は鉢物だけで約6000種類の商品を扱う。インテリア需要などが中心となるが、顧客の趣味趣向に合わせて豊富なバリエーションから商品を選べるのが特徴。Beer and Tech代表取締役の森田憲久氏の話では、すでに単月で黒字化を達成しているという。
「リアルな生花店やホームセンターでは店舗面積の関係で扱える商品数に限りがあり、商品数ではECに分がある。同業の通販サイトでは多いところでも品数は800点くらいだが、HitoHanaでは6000点をそろえることで細かいニーズにも応えられている」(森田氏)
この6000点というのは植物と鉢を組み合わせた総数だ(植物が6000種類あるわけではない)。他社は鉢物に加え、切花も扱っているため植物の品種自体は「おそらく他社の方が多い」(森田氏)という。
商品数の差は、サイズの違いや鉢との組み合わせなど細かいパターンの数から生まれているのだが、なぜこのような結果になっているのだろうか? この理由について森田氏に聞くと「動機の不在」「店舗をベースにしたEC」という2つが考えられるという。
まず動機の不在については、そこまで品数がいらないのではないかという考えが浸透しているそうだ。特に法人向けに胡蝶蘭など植物を販売する場合は、品数よりも値段や早さが要求されるため、品数を増やす必要性は少ない。
実はHitoHana自体も当初はラクスルをモデルに法人向けECからスタートしたものの、差別化の難しさもあり個人向けに変更したという経緯がある。また店舗ありきでECを始めた企業については在庫スペースの問題などから品数を増やしづらいが、HitoHanaの場合はスタートがECだったためこのような問題はなく、消費者のニーズに応えるべく商品数を増やし続けることができた。
このHitoHanaを裏で支えるのが、これまで時間をかけて作り上げてきたというオペレーション体制だ。2017年3月には自社のフルフィルメントセンターを埼玉に開設し、商品の撮影など細かい業務も含め一連の工程をこの場所で行っている。本社機能も同じ場所にあり、事業が拡大したため渋谷から埼玉にオフィスを移転したという珍しいスタートアップだ(ちなみに今後本社機能は都内へ移転を検討しているとのこと)。
蓄積データを活用したD2Cモデルの展開へ
一見シンプルな植物のECに見えるが実は裏の泥臭いオペレーションが大変で、この体制を構築してきたからこそ今後テクノロジーを活用した新たな展開ができるという。その1つが自社で商品の生産からデザイン、販売までを手がけるD2Cモデルだ。
「同じような商品でもデザインパターンが違うだけで売り上げが変わるなど、生の購買データが蓄積されてきた。このデータを分析し提携農家ともタッグを組みながら、顧客に支持される仕立てや品種を企画する。加えてまずは鉢からになるがプライベートブランドも立ち上げる。『どこの花屋から商品を買ってもあまり違いはない』という顧客の常識を変えていくチャレンジができれば」(森田氏)
直近では現在扱っていない切花部門を立ち上げ商品数を拡大する予定だが、そこからはデータを活用しながら新たな取り組みを行っていく。
またBeer and Techでは2017年1月から法人からのニーズを受け、卸売・委託直送サービスHitoHana for Businessも始めた。近年インテリアショップやリノベーション事業者などが植物を扱うようになっているが、専業ではない企業が在庫リスクを背負ったり、手厚いサポート体制を整えるのは難しい。
そこでHitohanaの持つ在庫や配送網を活用して、豊富な商品のタイムリーな納品や店頭での委託販売を実現。すでに複数の事業者から問い合わせがあり今後は大阪や名古屋、福岡など地方都市への展開も進めていくという。
飲食店予約サービス「スマート予約」は大きな注目を集めたが…
Beer and Techの創業は2014年の8月。当初は「スマート予約」という飲食店予約サービスを運営していた。スマート予約は日付や人数、利用目的などを入力すると10分以内に空席かつ人気のお店を3店舗紹介。利用者は好きなお店を選べば、運営側で予約してくれるというサービスだ。
便利さが受けて話題になり、VCから資金調達も行った。ところが実際にサービスを運用していくと、ユーザーは増えるもののリピートされないという課題に直面。そこで店舗を提案するのではなく、指名された店をダイレクトで予約できるシステムに方向転換したという。
外部に飲食店の空席データベースを解放したところ、googleの検索順位も上がり多くの人の目に触れるようになったが、今度は人気店を中心に混乱を招き飲食店からクレームが入る。
「送客自体はできていて営業もとれていたので、たとえばキュレーションメディアのような形でユーザーを集め店舗に送客するビジネスもできなくはなかった。ただそれは他の会社でもできることだし、別の形で社会に必要とされるビジネスをやりたいと思い2015年10月にクローズを決めた」(森田氏)
あらためてゼロから事業アイデアを練る中で行き着いたのは、森田氏にとって“なじみ”のある花卉業界だった。実は森田氏の実家は花の生産者。野菜や魚に比べても卸売市場を経由する割合が高く、顧客の声が作り手に届いていないという課題をテクノロジーで解決するべく、HitoHanaを立ち上げた。
「これまでの約1年は実際に花卉(かき)業界に入って学習してきたフェーズ。その中で現場のニーズにも気づき、HitoHanaやHitoHana for Businessをリリースしてきた。これからは学んできたことや蓄積してきたものとテクノロジーを掛け合わせて新しいモデルを作っていきたい」(森田氏)