手がふさがって猫の手も借りたい時、そのうち「ロボットの手」なら増やせるようになるかもしれない。
サイボーグ技術の開発に取り組むメルティン MMI(メルティン)は本日、第三者割当増資と助成金によりシリーズAとして総額2.1億円の資金調達を実施した。引受先はリアルテックファンド、スパークス・グループの運営する未来創世ファンド、日本医療機器開発機構(JOMDD)だ。助成金は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究開発型ベンチャー支援事業/シード期の研究開発型ベンチャーに対する事業化支援(STS)および、東京都の医療機器産業参入促進助成事業から得ている。また、資金調達と同時に内科・循環器科の専門医で元FDA医療機器審査官である内田毅彦氏が同社の取締役に就任したことを発表している。
直感的なロボット操作のための生体信号処理技術
大学発のスタートアップであるメルティンは、生体信号処理技術とロボットハンドの開発を行なっている。まず、生体信号処理については、筋電の正確な読み取りと処理を可能にする技術を開発している。これは腕に貼ったセンサーから生体信号を読み取り、機械学習で分析することで、グー、パー、チョキといった手のアクションを判別できるというものだ。
メルティンでは3つのセンサーを使うだけで正確な読み取りができ、設定の時間も1秒程度しかかからない。生体信号処理の正確性に合わせ、優れたユーザービリティもメルティンの特徴とメルティンの代表取締役を務める粕谷昌宏氏は説明する。将来的には筋電のみならず、神経信号や脳波でもこの生体信号処理技術を応用していく予定だ。
直近では、この生体信号処理技術を医療の現場で役立てていくという。具体的には、医師が患者の診察の際に、診断補助に使えるデバイスを想定している。すでに医療機関と協力して、デバイスの検証を進めている段階と粕谷氏は話す。今回、調達した資金は主にこのデバイスの検証と実用化に充てる予定だという。
ジッパーを開けられるロボットハンド
もう1つ、メルティンでは小型軽量でパワーがあり、高速に動くロボットハンドを開発している。現在、多くの遠隔操作ロボットが開発されているが、実際にロボットで作業を行うとなると、ロボットの手の性能が課題となる。今あるロボットハンドの多くは握力が弱かったり、指の太さから細かい作業がしづらかったりする。例えば、ジッパーを開けたり、パソコンのUSBを引き抜いたりする作業を行うのが難しいと粕谷氏は説明する。メルティンは、ワイヤー駆動のロボットハンドを開発することで、人の手のように卵を掴む柔らかい動きができると同時に、10kgくらいの物なら持ち上げて落とさない力を与えることに成功した。今後半年以内には女性と同程度の握力を実現できるという。
メルティンはこのロボットハンド技術で、例えば宇宙や深海、放射線・化学汚染環境など、人が入るには危険な場所に代わりに入って、修理やメンテナンスまでできるロボットを実現したい考えだ。
生体信号処理とロボットハンド技術を発展させ、彼らが最終的に目指しているのは、義体やサイボーグ技術の実現だ。そして、サイボーグの技術で「人の身体的な不自由をすべて取り払いたい」と粕谷氏は説明する。例えば、筋電や脳波の処理技術とロボットハンドで身体障害者が直感的に義手を扱えたり、健常者でも2本の腕に加えてロボットの腕を操作することで作業を分担できたりするような使い方ができる。さらには、アメリカにある義体に日本からログインして、現地のミーティング参加や作業ができるようになる。ゆくゆくはコミュニケーションに関しても、自分の考えを言語に変換して、声で伝えるのではなく、脳波から全ての情報を読み出して、相手の脳に認識として送信することまでできるようにしたい考えだ。
「自分の創造性に比べて、その創造性を実現できる体を持っていません。人間が持っている創造性というものを、何の不自由もなく発揮できる世界を作りたいと考えています」と粕谷氏はビジョンを語る。
メルティンは2013年7月、CEOの粕谷昌宏氏とCTOの關達也氏、他数名のメンバーで創業した会社だ。2016年1月にリアルテックファンド、グローカリンクより最初の資金調達を実施している。