「ミリ単位の精度求めた」ZOZOSUITの体型計測データが生み出すスタートトゥデイの新展開

スタートトゥデイ代表取締役社長の前澤友作氏(左)とVASILY代表取締役の金山裕樹氏(右)

2017年10月の決算説明会でプライベートブランドの立ち上げを発表し、同年11月にはそのブランド名「ZOZO」と、全身1万5000箇所のデータを取得できる採寸ボディースーツ「ZOZOSUIT」の無料配布を発表したスタートトゥデイ。ZOZOSUITは発表後10時間で23万着という大量のオーダーが入り、準備の問題から二度にわたってZOZOの展開自体が延期されることになったが、いよいよその詳細が明らかになった。

スタートトゥデイは1月31日、プライベートブランド「ZOZO」としてTシャツとデニムパンツの販売を開始。あわせてファッション通販サイト「ZOZOTOWN」のアプリにおいて、ZOZOSUITでの採寸データをもとに最適なサイズのファッションアイテムを検索できる機能「自分サイズ検索」を導入。さらにスーツで得られるデータに加えて、グループで保有する商品データやコーディネートデータ、ユーザー情報などの活用を目指す「スタートトゥデイ研究所」を発足すると発表した(発表の詳細はこちら)。なおZOZOSUITは1月31日から随時配送。11月中の予約で最大6カ月、12月以降の予約では最大8カ月程度待つ可能性があるという。

ZOZOSUITは「ミリ単位の精度を求めた」

「プライベートブランド自体は7年前からの構想だった」――スタートトゥデイ代表取締役社長の前澤友作氏はZOZOについてこう振り返る。

「ベーシックなものをやろう、かつ大量なサイズを用意してあらゆる人に対応しよう、ということは決まっていました。ですがサイズを用意するにも、人の姿形が分からないと、どれだけ用意をすればいいかも分からない。なんとかボディサイズを把握することができないかと考えたところから、このスーツ(ZOZOSUIT)の開発に着手しました。そこからは2年くらいかかりました」(前澤氏)

アパレルのサイズはブランドによっても基準が違う。ZOZOTOWNは自社で独自の採寸規格を導入したり、過去に購入した商品との比較機能などを提供したりとユーザーのサイズ選びを支援していたが、つまるところ「この人はMサイズばかりを買う」というところまでは分かっても、真の意味でフィットするサイズをデータとして取ることはできていなかったという。

「今回は1cm、2cmというピッチで商品を作っています。商品がそうなので、お客さんの体もミリ単位でとれないと整合性がとれないし、意味がありません」(前澤氏)

すでに発表されているとおり、ZOZOSUITはニュージーランドのスタートアップ、StretchSense(スタートトゥデイが出資)との共同開発だ。前澤氏は、彼らと出会うまでにも電子メジャーやスマートフォンアプリ、ブース型の3Dスキャンなどあらゆる採寸手段を検討したというが、精度とコストの両面で納得できるがなかったという。ZOZOSUITは現在、StretchSenseがあるニュージーランドともう1カ国(非公開)で開発。ソフト面についてはニュージーランドと日本のスタートトゥデイのチームが連携して開発しているという。

冒頭でも触れたとおり、2回の延期を経てスタートするプライベートブランド。前澤氏は「大分遅れておいてこんなことを言うのは何だが」と前置きした上で、精度に関しての強いこだわりを語る。「想定と違ってしまったのは生産のスピード。やはりミリ単位の精度を求めると、ただ作ればいいと言うものではありません。製品のチェック、品質基準が高いのです。センサーの精度の低いものは出荷できません。そういう意味で結構な試行錯誤があって、やっと出せるようになりました」(前澤氏)

気になるスーツの原価については、「想像にお任せします」(前澤氏)とのこと。ただし、「プライベートブランドの商品の価格も安いが、そのくらいの価格で売ってもいずれは回収できるもの」だとしている。なお体型計測データはZOZOTOWNの会員IDに紐付くかたちになっており、採寸して初めてZOZOの商品が購入できるというわけだ。

今回発表されたのはTシャツとデニムの2アイテム。もちろんスーツが届いてからの話にはなるが、採寸さえしていれば注文から2週間ほどで商品が届くという。すでに数千というパターンを事前に用意しており、オーダーが来る度に縫い上げるだけでなく、需要を予測し、人気のサイズについては在庫を持つという。プライベートブランドと言いつつ、その実はオーダーメイドと大差がない。「(デニムを)履いたら感動しますよ。こんなにぴったりなモノがあるんだって。裾上げもしないでいいですし」(前澤氏)

人類の歴史上例のない膨大なデータ、どう扱う?

また、今回の発表に合わせてスタートトゥデイは自社データの活用にも乗り出す。2017年10月に買収したVASILY代表取締役の金山裕樹氏がスタートトゥデイ研究所のプロジェクトリーダーとなり、自社グループで持つデータやZOZOSUITで得られるデータを元に、パートナーと研究・プロダクト開発までを進めるという。

「スタートトゥデイグループはZOZOSUITで大量の人体データを手に入れられる。これは人類の歴史上例がないもの。だが、この資産を我々だけで扱うのはいかんともしがたい。 このデータを使って、人類の進化、世の中のためになるようなパートナーを探していきたい」(金山氏)

研究所のリリースでは機械学習にAI、VR、ARといった領域のパートナーを募集しているが、金山氏が推すのは「ファッションをサイエンスする」ということだという。「ファッションはセンス、人間の感覚に頼ってきたところが大きいですが、それは過去の話。センスというぼんやりしたモノを解明していき、それを定理にしていきたい。例えば『水は100度になれば気体になる』というのは分かっているが、『今年は何が流行る』は科学的に解明されていない」(金山氏)

膨大なデータを開放するという話を聞けば、ウェブの世界においてプラットフォーマーが、APIを開放し、外部の開発者が利用することでサービスを拡大してきたという歴史を思い出す。金山氏にそれを問うと「まさにAPI。だがだけあってもサービスは作れない。例えばデニムだって1つの(データを使った)サービスだと思う。ネットの世界に閉じたのでは無く、データを使ってネットの外に出るサービスをやっていきたい」とした。「宝の持ち腐れにはなりたくないですね。活用しきれないんじゃしょうがないんで、外部の方もどんどん参加して下さいという呼びかけをしたいです」(前澤氏)。今後はスーツにバイタルデータを計測する装置が付く、なんて世界が来るのかも知れない。すでに海外に研究パートナーの企業もいるのだという。

では、すでにZOZOTOWNに出展するブランドはプライベートブランドとしてのZOZO、そして彼らのデータをどう見ているのだろうか。前澤氏はまずプライベートブランドについて「同じ『服』を作る以上、100%競合しないとは言えないし、影響もまだ何とも言えないが、(ZOZOTOWNは)なるだけブランドさんの世界観や確立されたイメージをお邪魔しないようにしたい。いつまで経ってもいいモノがたくさんそろうサイトでいたい、サイズも、これより安いモノも、奇抜なモノがあってもいいし、いろいろ幅を広げていきたい」と説明。

一方でデータの利用については、現時点で特にブランドからの問い合わせがほとんどないのだという。「売れたら来るかも知れないですね(笑)」(前澤氏)。現状そんなデータを元にした服の製造自体が難しいようだ。

ZOZOでは今後、シャツやロングスリーブTシャツなどの商品も計画中だ。また研究所ではすでに具体的な取り組みも進んでいるという。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。