「ANDPAD」は、工程表や写真・図面資料など、建設現場で必要な情報をクラウド上で一括管理することができる建設・建築現場のプロジェクト管理ソフトウェアだ。職人や現場監督など、建設現場で働く人が使いやすいようスマートフォンアプリも提供されていて、現場での利用が広がっている。
そのANDPADを運営する建設サービスのスタートアップ、オクトは3月6日、Draper Nexus Ventures、Salesforce Ventures、BEENEXT、および個人投資家を引受先とした総額約4億円の第三者割当増資を実施したことを明らかにした。資金調達に合わせて、Draper Nexus Venturesのマネージングディレクター、倉林陽氏が社外取締役に就任する。
オクトは2012年9月、代表取締役社長である稲田武夫氏が前職のリクルート在席時に設立した。2016年11月には個人投資家数名から数千万円規模の資金調達を実施している。
創業当初はリフォーム会社選びのポータルサイト「みんなのリフォーム」を立ち上げて運営してきたオクト。ユーザー企業であるリフォーム施工会社から「現場の工程管理ができるサービスがほしい」という声が多く寄せられ、開発したのが「ReformPad」、ANDPADの前身となるサービスだ。
2015年9月にサービスを開始したReformPadは、リフォームの施工管理に特化していた。その後サービスを新築や商業施設など、さまざまな建設現場に対応するよう機能拡張を行い、2016年3月にANDPADとしてリリース。その時にスマホアプリの提供も始めている。
2017年1月のTechCrunchの取材では、ANDPADの導入社数は350社という話だったが、それから1年後の2018年1月時点では800社を超え、現場管理アプリのシェアNo.1となっているという。稲田氏によれば、この社数は「契約・登録ベースでの数字」だとのこと。「GitHubやBacklogなどのプロジェクト管理ツールと同じで、ANDPADは契約企業が取引先にアカウントを発行すれば他社でも使える。だから利用企業数でいうと10倍の8000社ぐらいになっているはずだ」(稲田氏)
今回の調達により稲田氏は「営業やマーケティングの強化のほか、プロダクト開発によりさらにANDPADを進化させたい」と話す。「施工管理アプリとして認知が広まった今、『現場を管理したい』というニーズに加えて、経営者層から『経営指標を見える化したい』との声が増えている。経営者向けダッシュボードを提供するなど、建設業界の経営プラットフォームとなるようプロダクト強化を図る」(稲田氏)
これは建設業向けにERPシステムを提供したい、ということだが、この分野には大手システム会社をはじめ、既存プレーヤーがひしめいている。それらのサービスと比べたときのANDPADの強みは何だろうか。稲田氏に聞いてみた。
稲田氏はこう説明する。「建設業界は、元請け企業から各種施工を行う取引先へ仕事が委託される多重構造となっている。経営分析を行う基幹システムは元請け企業が利用するもの。しかし既存システムでは、セキュリティに関する不安や取引先企業のIT対応の遅れなどが理由で、取引先も含む複数社でコラボレーションして経営数値を把握できるものはなかった」
例えば予算1000万円の工事があって、800万円が原価として想定されていたとする。複数の取引先のどこにいくらで発注したのか、また各社が担当する施工が終わって最終的にいくらが請求されるのか、従来のシステムではこれらの数字を途中で把握することは困難だった。
「ANDPADは既存ERPと必ずしも競合するものではなく、連携できるのが強みだ」と稲田氏は言う。「ANDPADなら、現場の職人までIDを持っているし、受発注もリアルタイムに把握できる。ERPシステムでコラボ機能がないものでも、ANDPADと連携すれば、指標もリアルタイム化できる。ERPとANDPADは共存・補完できるシステムだと考えている」(稲田氏)
今回株主となった3社のVCは海外に拠点を持ち、SaaSベンチャーにも詳しい。稲田氏は3社について「建設業界の働き方を変え、労働環境も変えるのが我々の目的。ただ、米国でIndustry Cloudと呼ばれているような業界特化型のクラウドサービスを提供するスタートアップは、日本では先行事例があまりない。だからその部分に詳しい投資家を選んだ」と言い、「SaaS三銃士ともいうべき3社に知見をもらいながら、成長を図りたい」と述べている。
オクトでは、ANDPADを早期に1万社へ導入することを目指す。「ANDPADは法人向けサービスではあるが、現場で毎日アクティブに使われているアプリでもある。1日に登録される写真は2万枚にも及ぶ。ユーザーが求めるサービスを今後も提供して、建設業界という巨大市場を担っていきたい」(稲田氏)
【3月6日 10:32】倉林陽氏の肩書きに誤りがありました。お詫びして訂正いたします。