アメリカで増加するシェアハウススタートアップーー住宅不足解消への一手となるか

【編集部注】筆者のJoanna GlasnerCrunchbaseのレポーター。

実家から巣立った若者の行動はある程度パターン化している。まずルームメートを見つけてどこかに一緒に住み、次は一人暮らしもしくはパートナーとの同居。その後、家族で住むための家を購入し、もしかしたら芝刈り機にも手を伸ばすかもしれない。

新設住宅市場の様子を見てみると、この常識が未だにしっかりと成り立っているとわかる。今年に入ってからアメリカで新たに建てられた住宅のうち、約3分の2がこぎれいな庭と大きな駐車スペースのある核家族向けのものだったのだ

しかしスタートアップ界では、住宅の未来について少し違った意見を持つ人が多いようだ。というのも、現在ハウスシェアリングが徐々に盛り上がりを見せているほか、短期契約物件や人との触れ合いを重視したサービス、人気エリアにある小さな部屋などが人気を呼んでいるのだ。

ルームメートとベンチャーキャピタルを求めて

住宅に特化した不動産スタートアップに関するCrunchbase Newsの分析の結果、シェア物件や短期賃貸物件を運営し、ここ1年前後で資金調達を行った企業が多数存在することがわかった。

これはアメリカだけの現象ではない。中国やヨーロッパ、東南アジアなど、世界中でシェア・短期賃貸物件を扱い、資金調達に成功したスタートアップの数が増加している。しかし本稿ではアメリカのスタートアップに絞って話を続けていく。下の表は、最近資金調達を行った企業をまとめたもの。

何か気づくことはないだろうか? そう、上の表に含まれる企業すべてがニューヨークかサンフランシスコのベイエリアに拠点を置いているのだ。両都市は住宅不足、そして家賃の高さでよく知られている。ただし、彼らは主要都市で住居スペースを提供しつつも、ロサンゼルスやシアトル、ピッツバーグといった街へも進出し始めている。

白いピケットフェンスからパーテーションへ

1950〜1960年代にかけ、アメリカ郊外の開発にあたったディベロッパーは、単に家を売っていたわけではない。彼らは芝で覆われたクォーターエーカー(約1000平方メートル)の庭や食器洗濯機、そして広いガレージのある家ーーつまりアメリカンドリームという名のビジョンーーを売っていたのだ。

同様に、シェア物件を扱うスタートアップもアメリカンドリームとは違うビジョンを販売していると言える。そしてそのビジョンには、部屋を借りるだけでなくコミュニティに参加し、友達を作り、街を知りたいという若者の想いが反映されている。

HubHausのスローガンのひとつに「rent one of our rooms and find your tribe(部屋を借りてあなたの仲間を見つけよう)」というものがある。たった3年ほど前に設立された同社は、現在ロサンゼルスとサンフランシスコのベイエリアにある合計約80件もの物件を管理しながら、ルームメートのマッチアップサービスやグループで参加できるイベントの企画を行っている。

別のスタートアップStarcityは、自分たちのことを”孤独感に対する薬”と呼ぶ。「社会の中で孤独を感じる人は急増している。そこで、私たちは人を集めて意義ある関係性を構築することで、この問題を解決しようしている」と同社のウェブサイトには書かれている。

サンフランシスコを拠点とするStarcityのサービスは、単位面積あたりの居住者を増やすことにつながるため、同地の住宅不足の解決にも寄与していると言われており、Starcityのアパートには通常のアパートの3倍もの人数を収容できるのだという。

コストとメリット

シェアハウススタートアップのサービスは、一般的にアメリカのなかでも一番地価が高いエリアで提供されているため料金は決して安くはない。とはいっても、自力でアパートを借りるよりは安いことが多いようだ。

彼らの狙いは、プライベートな空間が限られていても、ロケーションが良く引っ越しも簡単で、すぐに誰かと知り合えるような物件なら入居したいと考える若者向けに、価格を抑えた住居を提供すること。

Starcityの場合、家賃は滞在期間に応じて月2000〜2300ドル(約22〜25万円)に設定されており、ここには公共料金などの基本コストも含まれている。他方HomeShareは、ツーベッドルームの高級アパートをパーテーションで区切ってスリーベッドルームに改造した部屋を貸し出しており、Starcityよりもスペースは広く、家賃は安い部屋で1000ドル(約11万)程度。

またシェアハウスサービスでは、通常1〜3か月の最短滞在期間が設定されたフレキシブルな賃貸契約が利用できるため、結果的にユーザーは住宅周りのコストを削減できると謳われている。さらにほとんどの物件は家具付きで、Wi-Fiを自分で設定する必要もなければ、別途電気代を支払う必要もない。

今後の動き

シェア・短期賃貸物件を扱うスタートアップは最近登場し始めたばかりなので、どの企業が優勢かを判断するのはまだ難しいが、将来的には同市場が成長し、高バリュエーション企業が多額の資金を調達することがあっても不思議ではない。Airbnbを見れば納得がいくだろう。使われていない部屋や住宅を旅行者や短期滞在者向けに貸し出すビジネスによって、彼らのバリュエーションは300億ドルにまで上昇したのだ。さらに主要都市における住宅不足を考慮すると、Airbnb以外のオプションへのニーズも十分あるだろう。

ここまでは住宅についての話を進めてきたが、短期かつフレキシブルでさまざまサービスを利用できるスペースは、すでに法人ユーザーのあいだで人気を呼んでいる。たとえば賃貸期間がフレキシブルな高級オフィススペースを運営するIndustriousや、カスタマイズ可能なオフィスを提供するKnotel、会議室とオフィスの貸出に特化したBreatherはそれぞれ多額の資金を調達しており、3社の合計調達額は3億ドルにのぼる。

タイミングとしては、今シェアハウススタートアップに人気が集まっているのが不思議に映るかもしれない。1980〜1994年前後に生まれたミレニアル世代は、すでにほとんどが大人の階段を登りきっており、「これから家を探す若者」という彼らのターゲット像とは重ならない。ミレニアル世代の平均年齢は28歳で、上になると30代も半ばにさしかかる。芝刈り機さえ持っている人もたくさんいるだろう。

しかし心配はご無用。その次に控える1995年以後生まれのジェネレーションZも人口全体に占める割合はかなり大きいのだ。そのため人口予測が正しければ、もしもミレニアル世代がシェアハウスから卒業しても、まだまだパーテーションで区切られた部屋を求める20代の若者の波は途切れないだろう。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake

Image Credits: Bryce Durbin

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。