異なる仮想世界を結び商取引できる──AR/VR&ブロックチェーンのVERSES財団が東京拠点を開設、Telexistenceが参画

AR/VR(拡張現実/仮想現実)、ブロックチェーン/決済、位置情報を組み合わせた技術である「Spatial Web(空間Web)」を開発するVERSES財団が東京に拠点を開設した。同時に、テレイグジスタンス(遠隔存在)に取り組む日本のスタートアップTelexistenceがVERSES財団の取り組みに参画することを明らかにした。

Spatial Webプトロコルは、AR/VRで実現する仮想世界の相互接続、V-commerce(仮想世界での商取引)、スマートシティのインフラなどの用途を想定する技術だ。仮想世界上のモノ、場所、アセット(資産)のアドレスや位置情報を「複数のブロックチェーンに発行、流通、管理する」ことを可能にするとしている。後述するように、AR/VR上の仮想世界に経済圏を構築する仕組みとしても機能する。

Spatial Webプロトコルは、AR/VRアプリケーションの上で、複数の仮想世界を結び、商取引などの応用を可能とする。例えば、サプライチェーンの仮想化で、仮想世界の原材料を購入し、加工して製品にし、それを仮想世界の店舗に陳列して販売するような応用が可能となる。また、仮想世界の中で1人のキャラクターが、経営主体が異なる複数の異なるブランドの店舗で購入した複数の服飾品アイテムをコーディネートして身につけるような世界観を実現できる。

後述するように、Spatial Webの世界にはブロックチェーンを応用した経済圏、いわゆるトークンエコノミーが機能するようになる模様だ。仮想世界上の商取引や、利用料モデルによるB2Bでの仮想世界上のアイテムの提供などで、仮想世界の経済圏を回すような応用が出てくるのではないかという期待を持っている。

現実世界の遠隔存在と、「もう一つの地球」を行き来する

Spatial Webの取り組みへの参画を表明したTelexistence社は、テレイクジスタンス(遠隔存在)の技術をビジネスに結びつけるスタートアップである(関連記事1関連記事2)。同社の技術は、人とロボットを結び、身体能力を遠隔地のロボットに伝送するというもの。ロボットは上半身だけで49の関節を備え人間の動きを高い精度で写し取り、また力を加えたときの負荷を人間にフィードバックができる。ロボットの手が検知した振動、圧力、温度を検知して人間に伝えるグローブの技術もある。「触覚を伝送できる。例えばジーンズの手触りも伝えられる」とTelexistence社代表取締役 富岡仁氏は説明する。

Telexistence社がVERSES財団が推進するSpatial Web(空間Web)に関心をもったきっかけは、まずSpatial Webの技術が「3次元のWebのアドレス」の概念を持っていること。またそのユーザーインタフェースを「3次元ブラウザ」のように利用できることだ。Spatial Webに関しては、「仮想世界に『もう一つの地球』を作れる可能性がある。現実世界のテレイクジスタンスと、仮想世界を行き来できれば、面白い世界を構築できそうだ」(富岡氏)と見ている。今後はVERSES財団の協力のもとSpatial Webを活用したパイロットプロジェクトに取り組む。もちろん事業化も視野に入れている。Spatial Webが決済機能を備えていることは、ビジネス展開の上でも有利といえる。

Spatial Webプロトコルのアプリケーション開発では、VR/AR分野のアプリケーション開発プラットフォームとしてよく使われるUnityとUnreal engineを用いることができる。現状のAR/VRアプリケーション開発者が使い慣れたツールでSpatial Webプロトコルを利用できるようにする。

東京に拠点を開設する目的は、アジア地域でのパートナーシップの開拓のためだ。VERSES財団のWebサイトには、アドバイザーとして著名人が名を連ねている。その顔ぶれはXPRIZE CEOのPeter Diamandis、AppleのiTunes事業の功労者で現在Appleアドバイザーの Denzyl Feigelson、Unity のVR/AR部門ヘッドのTony Parisi、VRのパイオニアとして知られるThomas A. Furnessなど。こうした人的ネットワークを背景に「パートナー開拓を強力に進めていく」と東京オフィス カントリーマネージャーの齋藤ラッセル (Russell Saito)氏は強調する。「NintendoやSonyのゲームコンソールや『攻殻機動隊』を生んだ日本で、Web3.0にいち早く取りかかって欲しい」(ラッセル氏)。

ここで同団体のICO(新規仮想通貨トークン発行による資金法調達)の計画に関して注記をしておく。VERSES財団は2017年11月にテックビューロが開発するCOMSAプラットフォームによりICOを実施予定と発表していた。Spatial Webは複数のブロックチェーンに対応するとしているが、2017年11月の時点で仮想通貨NEMのブロックチェーンにも対応する方向性も明かしていた。

ただし、その後日本での仮想通貨への規制強化で新規ICOにストップがかかるなど情勢の変化があり、COMSAによるVERSES財団のICOの実施は見送られている。VERSES財団は、ICOや資金調達の予定に関しては「公式発表まではコメントしない」としている。ただし、ヒントとなる情報はある。

VERSES財団の公式サイトでは、「TSS Token」と呼ぶトークンをSpatial Webプロトコルの重要な要素として挙げている。このトークンの用途として、(1)「Smart accounts、Smart spaces、Smart assets」をセキュアに登録、検証する、(2) Spatial Webプトロコルの上での決済に使う、(3) 仮想世界での資産移転に利用できる、と説明している。つまりこのTSS Tokenは仮想世界上で経済活動を行うための仮想通貨の一種と考えていいだろう。このTSS Tokenに価値を移転する手段として、ICOのような何らかの取り組みが今後出てくる可能性はあるだろう。

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TechCrunch Japan

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