2018年のノーベル物理学賞はレーザー研究で大きな業績を残した3人の研究者が受賞した。この研究はその後実験から医療までありとあらゆる応用が発見されている。レーザーを利用した「光学ピンセット」の発明に対してアーサー・アシュキンが受賞し、ジェラール・ムルー、ドナ・ストリックランドは強力なパルスレーザーを開発した功績で受賞した。ストリックランドはノーベル物理学賞を受賞する女性研究者としては1963年以来初めてで、物理学賞の歴史上3人目の女性となった。
スウェーデンのカロリンスカ研究所は発表に当たって「今年の物理学賞は光を扱う新しいツールの発明が対象となった」と述べた。
対象となった研究の期間は数十年に及ぶ。最年長の受賞者であるアシュキンはベル研究所の常勤研究者として60年代から70年代にかけて微細レーザービームが顕微鏡的な微粒子や細胞を捕まえて処理できることを発見した。
1987年にアシュキンはこの「光学ピンセット」を使って損傷を与えることなくバクテリアをつかむことができることを示した。これにより医療や生化学におけるさまざまな応用の道が開かれた。
一方、ムルーとストリックランドもレーザー・テクノロジーに飛躍をもたらした。2人のアプローチは1985年の論文で示されたが、レーザーをきわめて短く強力なパルスに圧縮する方法を示すものだった。
この「チャープ・パルス増幅」は持続時間は極めて短いが出力は低いレーザーパルスを時間的に引き伸ばし、高出力のレーザーに増幅した上で逆に圧縮をかけるというテクノロジーだ。上に図示されたような仕組みでフェムト秒クラスでそれまでより格段に強力なレーザーパルスが生成できるようになった。ムルーとストリックランドは現在広範囲で実用化されているチャープ・レーザー・テクノロジーのパイオニアだ。レーザーによる網膜光凝固手術を受けたことがあるなら、知らず知らずのうちにCPAの恩恵に浴しているわけだ。ノーベル賞のプレスリリースは以下のように述べている。
このテクノロジーの応用範囲は極めて広く、まだすべてが研究され尽くしているわけではない。しかしながら、ミクロの世界を処理可能としたこの驚くべき発明は、アルフレッド・ノーベルが望んだであろう精神をもって人類の福祉の増進への偉大な貢献となっている。
ドナ・ストリックランドはノーベル物理学賞の数少ない女性受賞者となった(ノーベル賞全体では多くの女性が受賞している)。ストリックランド以前に受賞したのは1963年のマリア・ゲパート・マイヤーで原子核の構造を明らかにするモデルを作り、「魔法数」に理論的根拠を与えた。それ以前の受賞者は1903年のマリー・キュリーただ一人だ。マリー・キュリーは放射線の発見により物理学賞を受賞した(8年後にはラジウムの発見によりノーベル化学賞を得ており、女性としてニつのノーベル賞を得た唯一の女性であり、異なる分野で受賞した最初の人物となった)。
NPRの取材に答えて、ストリックランドは驚くと同時に女性の受賞者が少なすぎること感じていると述べた。「本当ですか? (優れた女性科学者)はもっとたくさんいます。女性の科学者に栄誉を与えることは必要です…大勢存在しているのですから。なんと表現したらいいかわかりませんが、その少数の女性の一人に選ばれたことは名誉に思います」とストリックランドは述べた。
今日の研究の内容についてさらに詳しく知りたければノーベル財団による要約が発表されている。
〔日本版〕受賞者の氏名のカナ表記はノーベル財団による英語での発表の発音に近いものとした(3:20)。
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