【独占インタビュー】AmazonのJeff Bezos; 自称, 優秀な電話交換手

レンタカーを運転してシアトル郊外を走っていく。まわりはびっしりとしたグレーグリーン、眼下は海、上は太陽だ。道の果てには、まるで長旅の終わりの賞のように都市がそびえ立っている*。木々は乾燥オレガノの色、空気は重く湿っている。ぼくはこれからAmazon国へ行って、その豊穣の国の王Jeff Bezosに会うのだ(シアトルの前の王Bill Gatesは、今では水辺でのんびり過ごしながら世界を救おうとしている)。〔*: 筆者はニューヨーク在住。〕

ニューヨークに住むぼくが、ここへ来るのは初めてだ。これまでAmazonの記事はたくさん書いてきたし、家中の壁紙をAmazonのロゴ入りのダンボール箱で張り替えることすらできただろう。だから、その人と実際に会うことはとても楽しみだ。秘書に案内されて部屋に入ると、そこに彼はいた。ぴったりフィットしたジーンズと、黒のボタンダウンと、Blade RunnerのRick Deckardのクローゼットにありそうなウィングチップを、完璧に着こなしている。ここに来る前にぼくは、ほかの記者やライターたちに、彼とのインタビューで過去に経験したことを聞いてみた。一人が、彼はベルトをしてないことが多い、と言った。でも今回彼は、ベルトをしていた。

“この部屋なら、サプライズのないふつうの感じで始められるね。どうぞおかけください”、と彼は言った。日当たりの良い立派な会議室で、ホワイトボードとテレビがある。その日の彼は、気合が入っていた。彼が、自分も座ってメディアの相手をすることは、珍しい。ふだんはステージに立ってスピーチするのだが、今回は、これまでに本を100万冊以上売った男からじかに話を聞ける、貴重な機会となった。

“うちの戦略とビジョンの三つめの柱は、とくに発表なんかしなくても、やがて誰の目にも見えるようになる”、と彼は言う。

そうか。では聞いてあげよう。彼は立ち上がって、ボードに何か書き始めた。まるで、ぼくは単位を取れなかった劣等生、彼は補習をしてくれる親切な教授だ。彼は、Amazonの成功を支える三本の柱、王国の鍵を、青いマーカーで書いた。

〔以下、「…..」内がBezosの発言〕

「うちは高級品を大衆価格で売る。利益は、人びとがうちの製品を買うときではなく、それを使うときに得られる。5年前のKindleを使っている人を見ても、がっかりはしない。アップグレードという名の面倒な坂道を、登らない人がいたってかまわない」。

「第三の柱はこれからのもので、顧客の満足とすべてのスタックを貫く統合化が交差するところにある。もっとも難しくてもっともクールなものは、まさにそこに起きる。‘すべてのスタック’とは、低レベルのハードウェアから始まって、その上のOS、主なアプリケーション、クラウド、そしてその上のサービスすら含む全体のことだ」。

そのとき、新製品が登場した。彼がぼくに見せたのは、新製品のKindle Fire HDXとKindle Fire HDだ。誇らしげな親のように彼はそれらを革製のバッグから取り出し、ひとつずつぼくの前に置いた。ぼくはそれを数分前にも見ていたが、彼がそれらをうやうやしく扱う様子には、別の意味があるようだ。彼は自分の子どもを、自慢げに人に見せているのだ。ハードウェアが底辺でサービスが最上辺という‘全スタック’の意味を、そうやって彼はぼくに教えようとしている。

彼がKindle HDXを持って上から下へスワイプすると、アイコンのリストが現れた。その中に、小さな救命具のような、見慣れないものがある。

「このボタンをクリックしてみよう。これはメイデイ(Mayday)という名前だ。何だと思う?」

小さなウィンドウがポップアップして、Amazonのサポートが笑顔で現れる。“ハイ、ぼくはDylanです。今Maydayを押されましたよね。何か、お困りですか?”。

それはぜったいに、シナリオどおりのデモだろう。Dylanは、自分のボスから呼ばれることを、事前に知っていたはずだ。しかしそれでもなお、それはすばらしくヒューマンな瞬間だった。Dylanは、終始微笑んでいた。

「ハイDylan、こっちはJeffだ。お客さんに、Maydayをお見せしようとしてるんだ。今度の製品の特長は、とっても洗練されていることと、すごくいろんな設定ができることなんだよ」。

彼はMaydayのことを、“オンデバイステクサポート(on-device tech support, デバイス上の技術サポート)”と呼んだ。

「まずDylan、画面の上で移動してみてくれないか。ちょっとだけ、上の右隅に行ってみて」。

Dylanのウィンドウが隅へ移動した。

「今いちばん売れてる人気ゲームは何かな?」

Dylanは、Angry Birds Star Wars IIを立ち上げた。王として帝国に君臨するBezosも、ゲームは人に選んでもらうのだ。

「なんでも人に教えてもらわないとできない人が多い。だからうちの製品は、教えることができなければならない。このサービスは24/7で無料で、目標はどんな質問にも15秒以内に答えてあげられることだ」。

「ものすごく、たいへんなことの多い仕事だけどね」。

Bezosによると、サポートが混み合うクリスマスの朝でも十分対応できるという。サポートを電話でやるのは難しいし、いずれにしても満足に機能するサポート体制を作るのは難題である、と彼は語る。Maydayでは、デバイス側の設計からパケットレベルでの通信ソフトウェアまで、綿密な取り組みを積み重ねたようだ。

「ユーザがデバイスの世話をすべきなのか? それともデバイスがユーザの世話をすべきか?」…こう語る彼は、Maydayでもってユーザ上位を取り戻したいのだ。

“今のAmazonはハードウェア企業か、それともサービス企業か?”、と尋ねてみた。

「いつも、それを聞かれるね。‘テクノロジ企業か?それとも再販業者か?’とかね。うちはテクノロジ企業であり、テクノロジを使って顧客の役に立つありとあらゆることをしているのだ」。

Amazonには有能な人材が大量にいる、と彼は言う。

「どこにでもいるよ。ビデオ部門にも、音楽チームにも、eブックのチームにも、メンロパークのLab 126にも。いろんなところに、ソフトウェアを書いている人たちがいる」。

「ハードウェアは難しい。重さの目標値がある。電池寿命を短くはできない。そういう、難しい課題がたくさんある。でも、ソフトウェアも、とても難しい」。

彼は笑った。大きな笑い声だ。Amazonの倉庫に鳴り響く声のようだ。その笑い声に、びびる人もいるだろう。Bezosが部屋にいるだけなのに。

「そのスタック全体に、容易な部分は一つもない。ハードウェアは難しい。クラウドの統合は超難しい。その上にサポートのようなレイヤを載せるのは、前人未到の挑戦だ」。

“CDや本を売らなくてもよくなったら、どうしますか?”、と聞いてみた。物理的な<物>を売らなくなったらハッピーか、それを知りたかった。

「そうなるまでには、相当な時間がかかるだろう。今は、Kindleのeブックを毎月大量に買う人たちでも、フィジカルな本を買っている。CDだけでなく、レコードもたくさん売れている」。

「うんと未来のことを言うのなら、それが何年先かはともかく、急速にデジタル化が進むだろう。今現在の方針は、フィジカルなメディア製品とデジタルの両方を揃えて、顧客の要求や選択に対応することだ」。

“今は倉庫がたくさんありますけど、それらが不良資産になりますね?”

「うちはメディア製品だけでなく、靴や紙おむつもたくさん売ってる。デジタル化できない製品の売上比率は、けっこう大きい。ミキサーや靴やおむつは、ダウンロードできないからね。3Dプリンタがあっても、ダウンロードしたデータでタブレットを作ることはできない」。

「でも3Dプリントは、すごくおもしろい。まだ時期尚早だが、Amazonでどう扱うかを考えてみたい。うちには、顧客が本を作るためのCreatespaceがあり、音楽CDでも同じことをしている。3Dプリントも、その線かもしれない」。

“ローカルに関しては、何か変化はありますか?”

「うちはシアトルではAmazon Freshで何年も前から生鮮食品を売っている。最近、ロサンゼルスでも始めた。どちらも、好調だ。でも、全国展開は早すぎる。最後の1マイルがロジスティックの難題だから、まったく新しい業態として考える必要がある。アップストリームに関しても、やはりロジスティックの難題がある。シアトルで長年実験をしているのも、そのためだ」。

“シアトルは寒いから、食品の鮮度が落ちませんね”、とジョークを言ってみた。

また、Bezosの大笑い。

「でも、湿気(しけ)ったらだめな物もあるからね」。

Jeff Bezosとは、何者だろう? おむつの会員制購入で妻が困ったことがある、という話をしてみた。Amazonから毎月一箱買っているのだが、妻は月半ばでなく月初めにほしいと言う。今のAmazonには、そんなきめ細かいカスタマサポートがないのではないか?

「ぼくは優秀な電話交換手だ。誰を呼べばいいか、正確に知っている」。

この、意外なほどシンプルで正確な答には、ぼくもびっくりした。Amazonの社員は97000名、その中心にBezosがいて、各方面に電話をつないでいる。彼の最大の関心事は、顧客とのコンスタントなコンタクトだ。だから、たまたま一度だけ値段を調べたワインでも、ディスカウントの案内が来る。Canon G15なんて、かなり前一度見ただけなのに、えんえんとメールが来る。今では、あまり気にもならないけど。

Amazonはテクノロジ企業でも再販業者でもサービス企業でもない。強大な求心力を持ったeコマースのリポジトリだ。いろんな製品が、摩擦最小限で、入ったり出たりを繰り返している。問題があれば、わずか数行書くだけで返品が処理される。Kindleが壊れたら、ボタンを押すとDylanが画面にポップアップして助けてくれる。何かがスリップすると、ダメージを迂回するルートをBezosが知っている。

帰りにぼくは、Bezosが履いていたようなウィングチップが欲しいな、と思った。それも絶対にAmazonにあり、ぼくのクリックを待ってるはずだ。それが、彼の特技だ。人が、欲しい物を入手できること。

おむつの配達を月初めにしてもらえるか、それはまだ分からないが、Bezosなら、誰に電話を回すべきか知っている、と思いたい。

[画像: AFP/Getty Images]

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))