Tesla(テスラ)とその世界中の電気自動車群に対する、最も優れたリアルタイムの洞察が、シリコンバレーのテスラ本社以外で得られるとすれば、それはブルックリンの小さなスタートアップ、TezLabのレンズを通してかもしれない。
創業から2年余りが経ったTezLabは、創業者たちがユーザーの転換点であると考えている地点、すなわちついに収益化へと向かうことができるマイルストーンにたどり着こうとしている。そして同社は、その計画を加速することを助けるために、多くの新機能を追加している。
テスラ車を所有していない人にとっては、TezLabという名前はおそらくなじみのないものだろう。だが特定のコミュニティでは、すなわち自分の電気自動車がどのように振る舞っているかを知ることに夢中なテスラ車のオーナーたちの間では、TezLabはおなじみのものだ。
TezLabはテスラ車用の、Fitbitのような無料アプリ。アプリをダウンロードしたテスラ車のオーナーは、自分の車の効率性や総移動距離を追跡することが可能であり、またアプリを使って車両のいくつかの機能を制御することが可能である。例えばドアの施錠や解錠、エアコンの動作などを制御できる。さらにユーザーがマイルストーンを達成したり、タスクを完了すると、バッジを獲得できるといった、ゲーミフィケーションの要素さえ備えている。
同社は、収益化を目的とした長期計画の一環として、新しい機能を追加し始めた
そうした機能の1つとして、Wazeのようにデータをクラウドソーシングを行い、地図上でテスラ・スーパーチャージャーステーション(テスラ車のための充電ステーション)の状況とレーティングを提供するサービスが提供され始めた。以下のビデオは、このスーパーチャージャー機能がどのように機能するかを示したものだ。
スーパーチャージャーのWaze的機能は、同社のより広いクラウドソーシングとソーシャルコミュニティの計画の中では「第1段階」とみなされているものだ。
創業物語
TezLabを開発する6人のチームはHappyFunCorp(HFC)から生まれた。HFCは、モバイル、ウェブ、ウェアラブル、そしてIoTデバイスのためのアプリケーションを顧客から委託されて開発するソフトウェアエンジニアリング企業である。顧客には一連のスタートアップと並んでAmazonやFacebook、そしてTwitterも含まれている。
共同創業者のベン・シッパース(Ben Schippers)氏とウィリアム・シェンク(William Schenk)氏を含むHFCのエンジニアたちは、テスラの技術中心のアプローチと、1つの重要な点に引きつけられた。それはテスラのAPIエンドポイントが外部からアクセス可能だったということだ。
テスラのAPIは技術的には公開されていない。しかしそれは存在していて、テスラ自身が直接提供するアプリケーションが、車と通信して、バッテリ残量を読み取ったり、ドアのロックを行ったりするために使われている。これをリバースエンジニアリングすることで、サードパーティのアプリがこのAPIと直接通信することが可能になる。最近テスラのCEO、イーロン・マスク(Elon Musk)氏が、APIをサードパーティに公開する件に関して発言を行っている。
「基本的に、サーバーに接続するための配管は既に設置済なのです」とシッパース氏はTechCrunchに語っている。「これが私たちに行動を促すきっかけでした」。
テスラの購入ブームがHFC内で巻き起こった。シッパース氏、シェンク氏そしてたくさんのHFCのエンジニアたちや職員たちがModel 3のようなテスラ車を購入して、今でも所有している。そして最初のTezLabを開発するために35万ドル(約3800万円)の初期資金をHFCは用意した。
データリポジトリ
TezLabはすべてのテスラ車オーナーに使われているわけではない。だがシッパース氏は、アプリはユーザー数のクリティカルマスに近付いていると信じている。毎週200人以上のテスラ車オーナーがこのアプリをダウンロードしており、その割合は加速している、と彼は語った。
Sensor Towerによれば、TezLabはApple App StoreとGoogle Play上で、合計1万6000回インストールされている。この数字はユニークで新しいインストール数を示したものだ。同社は同じユーザーが再インストールした場合や、所有する複数のデバイスにインストールした場合には、重複したカウントは行わない。とは言えそのインストール数は1万8000に近い可能性がある。なぜならアプリのテストを行うオンラインサービスであるTestFlightでも多数登録されているからだ。
比較のために数字を挙げると、テスラは2018年に全世界で24万5506台の車両を出荷している。TezLabはすべてのテスラオーナーが彼らのアプリをダウンロードすることは期待していない。その代わりに、シッパース氏はまずオーナーの10%を狙っている(彼はそれが手の届く目標だと考えているのだ)。そして最終的にはより高いシェアを狙おうとしている。
現在の数でさえ、TezLabはテスラデータの大規模なリポジトリ(貯蔵所)となっている。同社は1日に85万から100万個のイベントを保存していて、その量は増え続けている。シッパース氏によれば、これは1日あたり1 GBを超えるデータに相当する。
「私たちは、車両群が何をしていて、何故それをしているのかに対する大規模な予想を始められる位に、十分なデータ量をシステム内に収集しています」と、HappyFunCorpのCEOであり、TezLabの製品責任者であるシッパース氏は語っている。
データは集約され、匿名化されていて、そして公開されていない。また、それらのデータを販売する計画は存在しない。
「データを販売するというビジネスに参入することなく、本当に意味のあるものを開発できると考えています」とシッパース氏はTechCrunchに語った。
もちろん、理論的には、もしテスラがアクセス方法を変えてしまったら、シッパース氏と他のメンバーがTezLabで開発したものは、一夜にして使えなくなってしまう可能性がある。
「テスラは、FacebookがZyngaに対して行った仕打ちを、私たちに対して行うことが可能です。もちろん私たちはそれを望んでいませんが」とシッパース氏は語った。
テスラはこの件に関するコメントは拒否している。
TezLabがそのウェブサイト上で公に提供しているのは、その処理データに基づく知見である。例えば、サイトにアクセスした人はだれでも、所有されているモデルの内訳や、平均走行時間、および充電間の平均時間などを知ることができる。
同社がアプリに機能を追加するにつれて、オーナーたちがどのように自分のテスラ車を使用しているかについての理解が深まるに違いない。
舞台裏ではもちろん、TezLabは自社のウェブサイトに表示されるもの以上のものを知っている。それはファントムドレイン問題(人間が使用していないのに充電残量が早く減っていく現象)や、テスラAPIがオフラインになっているかどうか、もしくは充電量が急増しているのかといった状況を素早く検出することができる。また例えばTezLabは、テスラのスーパーチャージャーステーションへの訪問が、メモリアルデー(戦没将兵追悼記念日。5月の最終月曜日)には、2019年の他の日の平均に比べて84%多かったということを発見することができる。
Stravaモデル
データを補足して保存することが、収益化を目指すTezLabの計画の中核だ。より多くの機能が追加されても、アプリは無料のまま提供される。
同社は、ソーシャルフィットネスネットワークであるStravaのビジネスモデルにならうことを計画している。それは機能ではなく容量に対して課金するモデルだ。新しい機能が追加されるにつれて、オーナーたちにとってデータは遥かに価値のあるものになる可能性がある。TezLabはオートパイロット走行の追跡を検討していて、その他にもテスラ車に現在搭載されているセキュリティ機能であるSentry mode(監視モード)で「面白いこと」を行うことも検討中だ。
この夏には、アプリはコミュニティを形成するためのクラブ(これはシッパース氏が特に望んでいる)機能を導入する予定だ。この機能を使うことで、テスラ車のオーナーたちは、例えばノルウェー、ブルックリン、あるいはサンフランシスコといった特定のクラブに参加することができる。それはオーナーが他のオーナーたちを簡単に見つけて会話を行うことができるようにデザインされる。ただしこのクラブに入ることができるのは、テスラ車を所有する人だけだ、とシッパース氏は付け加えた。
テスラに対しては、TezLabのスタッフは自らを「王国の守護者」と位置付けている。結局、彼らの活動すべてが、テスラの成功を助けることになるのだ、とシッパース氏は語っている。
「私たちが参考にしているのは、Fitbitがウォーキングとエクササイズとモチベーションのために行ったことなのです」と彼は言った。「私たちはそれを電気自動車の分野に持ち込みたいのです」。
画像クレジット: Bryce Durbin
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(翻訳:sako)