量子コンピューティングの「民主化」を目指すAliroが2億9000万円を調達

量子コンピューティングはまだ黎明期だが、それにもかかわらず世界が新しいテクノロジーを活用できるように支援することを目指す、興味深いスタートアップ企業群が出現しつつある。Aliro Technologies(アリロ・テクノロジー)は、量子環境向けに開発者がより簡単にプログラムを書くことができるようにするプラットフォームを構築した、ハーバードのスタートアップである。「Write Once, Run Anywhere」(一度書けばどこでも実行できる)というのがスタートアップのモットーの1つだ。本日同スタートアップはステルス状態を抜け出し、事業を軌道に乗せるために、270万ドル(約2億9000万円)の初の資金調達を発表した。

このシードラウンドはFlybridge Capital Partnersが主導し、Crosslink VenturesおよびSamsung NEXT’s Q Fund(昨年サムスンが設立したファンド、量子コンピューティングやAIなどの新興分野を専門とする)も参加している。

Aliroは、量子コンピューティングの発展におけるまさに重要な瞬間に、市場に参入してようとしているのだ。

ベンダーたちは現在のバイナリベースのマシンでは処理できない種類の複雑な計算、例えば創薬や多変数予測などに対処できるような新しい量子ハードウェアの開発を続けている。同日(9月18日)にIBMが53量子ビットデバイスの計画を発表したばかりだ。しかしそうした動きの一方で、これまでに構築されてきたコンピューターたちは、広範な適用を阻む多くの重大な問題に直面していることが広く認識されている。

最近の興味深い進展は、ハードウェアの開発に歩調を合わせて出現した、そうした特定の問題に取り組むスタートアップである。これまでの量子マシンは、長時間使用するとエラーが起きやすいという事実を考えてほしい。先週私はQ-CTRLという名のスタートアップについて書いたが、同社はマシンに対してエラーが迫っていることを検知しクラッシュを回避するファームウェアを開発している。

Aliroが取り組んでいる特定の領域は、量子ハードウェアが依然として非常に断片化されているという事実に対処するものだ。各マシンには専用の言語と操作手法があり、中には最適化された目的を持つものもある。これは、より広い開発者の世界にとっては言うまでもなく、たとえスペシャリストが従事しようとしても困難な状況だ。

「私たちはハードウェアの黎明期にいて、量子コンピューターには標準化されたものがありません。たとえ同じテクノロジーに基くものでも、異なる量子ビット(量子活動の基本的な構成要素)と接続性を備えています。ちょうど1940年代のデジタルコンピューティングのような状況です」とCEOでチェアマンのJim Ricotta(ジム・リコッタ)氏は語る。ちなみにAliroは、ハーバード大学の計算材料科学の教授であるPrineha Narang(プリネハ・ナラン)氏と、まだ学部の学生であるMichael Cubeddu(マイケル・クベドゥ)氏とWill Finegan(ウィル・フィネガン)氏が共同で創業した。

「それはこれまでとは異なるスタイルのコンピューティングであるため、ソフトウェア開発者は量子回路に慣れていません」、そして量子回路にふさわしいのは「手続き型言語を使うものと同じやり方ではありません。従来の高性能コンピューティングから量子コンピューティングに至る道には、急勾配の坂があるのです」。

Aliroはステルスから抜け出したものの、同社のプラットフォームが実際にどのように機能するかについての詳細は具体的には示していないようだ。しかし基本的な考え方は、Aliroのプラットフォームが本質的には開発者が自分の知っている言語で作業して、解決したい問題を特定できるエンジンになるということだ。そして書かれたコードを評価し、コードをどの様に最適化して量子対応言語へと変換すればいいかの道筋を示す。さらにはそのタスクを処理するのに最適なマシンを提案するのだ。

この開発は、(少なくとも初期段階の)量子コンピューティングの開発で見られるであろう、興味深いやり方を示している。現在、量子コンピューターに取り組み開発しているいくつかの企業があるが、この種のマシンがやがて幅広く導入されるようになるのか、それともクラウドコンピューティングのように、必要に応じてアクセスを提供するSaaSスタイルの少数プロバイダーに留まるのかどうかには疑問の余地が残されている。そのようなモデルは、どれくらいのコンピューティングを個別のマシンの形で売り、どれくらいの量を大規模なクラウド業者へと扉を開くのか(Amazon、Google、そしてMicrosoftが普及には大きな役割を果たすことだろう)という状況とよく似たものになるだろう。

もちろんそうした疑問は、これから解決しなければならない問題を考えると、まだ理屈の上のものに過ぎない。しかし2025年までには量子コンピューティングは22億ドル(約2375億円)になるという予想もあり、進化は止まりそうにない。そしてそのような道筋が辿られるとするならば、Aliroのような中間業者が重要な役割を果たすことになるだろう。

「私はこの1年、Aliroチームと仕事をしてきましたが、量子コンピューティングソフトウェアにおける基盤的な会社を設立することを手伝える機会はこれ以上ない興奮でした」と発表の中で語るのは、Flybridgeのゼネラル・パートナーであるDavid Aronoff(デビッド・アロノフ)氏である。「革新的なアプローチと、一流の量子研究者、そして世界クラスの実績のあるエグゼクティブチームのユニークな組み合わせによって、Aliroはこのエキサイティングな新しい分野の手ごわいプレーヤーになりました」。

「Samsung NEXTは、世界が将来どのようなものになっていくかに着目し、それが実現できるように支援します」と発表の中で語るのは、Samsung NEXTのQ FundのAjay Singh(アジェイ・シン)氏だ。「私たちは、プリネハと彼女のチームによる、堂々たるバックグラウンドと量子コンピューティングの研究の広さに引きつけられました。私たちは、量子コンピューティングが古典的なコンピューティングと同じくらいアクセスしやすくなる変曲点の到来を、Aliroのユニークなソフトウェア製品がスピードアップすることによって、カテゴリー全体に革命がもたらされると信じています。これは、創薬、材料開発、または化学といったあらゆるものに影響を与える可能性があります。効率的な方法で量子回路を多様なハードウェアにマッピングするAliroの能力は、本当に斬新なもので、私たちは彼らと一緒にこの旅をできることに興奮しています」。

【訳注】「Write Once, Run Anywhere」(一度書けばどこでも実行できる)というのは、プログラミング言語Javaが登場したときにも使われたフレーズだ。

画像クレジット:Jon Simon/Feature Photo Service for IBM

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(翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

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