米国の巨大企業が、うんざりするような運転免許証の発行手続きを簡単にしてくれるかもしれない。その兆しを、インドでちらりと覗き見ることができる。
インドのヒマラヤ山脈の麓に位置するウッタラーカンド州の州都デヘラードゥーンでは、ここ数週間、運転免許証を取得した何百人もの人たちは、試験の際に隣に教官を乗せることがなかった。
代わりに、彼らの車にはスマートフォンが取り付けられ、そこではHAMSが実行されていた。HAMSとは、Microsoft Research(マイクロソフトリサーチ)のチームが開発したAIプロジェクトだ。HAMSは、スマートフォンのフロントとリアのカメラ、その他のセンサーを使って運転者(とその目の動き)と前方の道路をモニターする。マイクロソフトリサーチによると、運転試験中の縦列駐車やロータリーでの見極めなど、車の軌道を正確にトラッキングできるよう、HAMSをカスタマイズしたという。
このAI技術は「例えば試験中に車を停止してしまったり、規定回数を超えて前後に進路変更を繰り返すといった運転者の行動を判断できる」とチームは話している。さらに「車線変更の前にミラーで確認したかどうか」といったこともわかるという。
インド行政職ウッタラーカンド州政府秘書官のShri Shailesh Bagauli(シリ・シャイレッシュ・バガウリ)氏は、デヘラードゥーン州交通局の運転免許証試験にHAMSを導入したことは「効率的で世界をリードするサービスをウッタラーカンドの住民に提供するという、交通局の目標に大きく近づくものです。路上の安全にAIを利用する先駆けと慣れたことに、私たちは誇りを持っています」と語っている。
HAMSは、Harnessing AutoMobiles for Safety(安全のための自動車制御)の頭文語だが、そもそも路上での運転者と運転の安全を向上させるために開発されたものだ。「運転者の訓練と試験は、その目標の基盤となります。そのためこのプロジェクトは、運転試験での運転者の評価という方向に傾くのは自然なことです」とチームは話す。
運転免許試験の自動化は、少しずつ世界に広がっているが、試験場の道に沿って支柱を立ててカメラを設置するなど、大掛かりなインフラ整備が必要とされている。マイクロソフトのチームによれば、HAMSなら車内の映像も含め、試験の監視態勢を向上させながらも自動化のコストを削減できるという。
一部の調査(PDF)によると、インドでは運転免許証の交付を申請した人のうちの相当数が、面倒を嫌って試験を受けにすら来ていないという。「HAMS技術を使用した自動化により、審査官の負担が軽減されるばかりか、受験者にとってプロセスをわかりやすく透明化することができます」と、2016年にHAMSプロジェクトを立ち上げたマイクロソフトリサーチ・インドの副担当責任者Venkat Padmanabhan(ベンカット・パドマンアブハム)氏は話していた。
インドがこのプロジェクトの実験場となったことは、特段驚くことではない。米国の技術系企業はインドでの存在感を高めつつあり、成長著しい市場のひとつとして、さまざまな挑戦がそこで展開されている。
マイクロソフト、グーグル、アマゾンは、インドを実験場として、現地市場のためのソリューションを開発している。そのなかには、他国に展開されたものもある。マイクロソフトもすでに、インドで農家の収穫量を高める技術や、失明予防の技術を病院と共同で開発している。昨年は、アポロ病院と共同で、心臓疾患のリスク予測のためにカスタマイズしたAIを使ったAPIをインドで構築した。
また昨年、マイクロソフトは伝説的なクリケット選手Anil Kumble(アニル・クンブル)氏と共同で、子どもたちのバッティングフォームの分析に役立つトラッキング装置を開発した。さらにマイクロソフトは、保険会社ICICI Lombardと共同で、損害賠償請求や保険の更新の手続きを支援するAIシステムを開発している。
グーグルも、インド向けのサービスやツールを幅広く開発している。昨年は、現地の言語で書かれた小説を簡単にウェブ上で公開できるパブリッシャー向けのツールを立ち上げた。今年も、このAndroidを開発した企業は、洪水予測ツールの改良版を発表している。そしてもちろん、YouTube GoやGoogle Stationといった人気アプリをインド専用サービスとしてスタートさせている。
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(翻訳:金井哲夫)