Facebook共同創業者サベリン氏が語る「シリコンバレー後のイノベーション戦略」

Eduardo Saverin(エドゥアルド・サベリン)氏が16年前、ハーバード大在学中に同学の学生たち4人と共同でFacebook(フェイスブック)を創業したことを、人々が忘れることはない(そのうちの1人が今でも同社を経営している)。

しかし、サベリン氏は、2009年にフェイスブックの所有株式を持ってシンガポールへ移住する前から、スタートアップへの投資に注目していた。そして、2015年からは、Bain Capital(ベイン・キャピタル)の元コンサルタント兼元副社長で友人でもあるRaj Ganguly(ラジ・ガングリ)氏と共同で創業したB Capital(ビー・キャピタル)での投資活動に集中的に取り組んでいる。

やるべきことはたくさんある。サベリン氏とガングリ氏は現在、3人のジェネラルパートナーと共に、4つのオフィスと2つのファンドで合計10億ドル(約1100億円)以上を扱っている。ちなみにこの2つのファンドはどちらも、経営コンサルタント大手のBoston Consulting Group(ボストン・コンサルティング・グループ、BCG)と提携している。実は、ビー・キャピタルは、BCGとの関係が深いこともあって、創業当時から、興味深いスタートアップやトレンドを世界中から探し出すことを経営理念としている。これは創業5年の企業としては異例のことだ。例えば、東南アジアで配達サービスを提供するNinjaVan(ニンジャ・バン)、ロサンゼルスを拠点とするスクーター会社のBird(バード)、ワシントン州のベルビューを拠点とする契約管理ソフトウェアメーカーのIcertis(アイサーティス)など、そのポートフォリオを少し見てみただけでも、どれほど広い範囲に網を投じているかがよくわかる。

TechCrunchは今年2月、ガングリ氏にビー・キャピタルのアプローチについて詳しく話を聞く機会があった。さらに先週、同社が中南米を拠点とするスタートアップ(Yalochat(ヤロチャット))への最初の投資契約を締結したことがきっかけで、サベリン氏にインタビューする機会があり、ビー・キャピタルの今後の成長について同氏がどう考えているか、詳しく話を聞くことができた。以下がインタビューの内容だ(長さの関係で一部編集してある)。

TechCrunch(以下、「TC」):ご出身はブラジルですね。

サベリン氏:はい、生まれも育ちもブラジルのサンパウロです。その後、欧米(最初はフロリダ州、続いて進学を機にボストン)に移住しました。現在はアジアに移住して10年以上になります。

TC:中南米企業に投資するのは今回のヤロチャットが初めてだということに驚きました。間違っているかもしれませんが、中南米で時間を過ごし、人脈を築いたことがきっかけになったのですか。

サベリン氏:良いことには時間がかかります。私の場合、エコシステムを理解しないと投資準備ができません。ビー・キャピタルは、本当の意味でグローバルな方法で長期的に投資したいと考えています。そして、1つの国や地域で創業して実績を積み、それを足掛かりとして世界へと拡大するという、ボーダーレスな世界での成長ビジョンを持つ起業家を探しています。ヤロチャット(メキシコシティを拠点とする会話型オンラインショッピングアプリ)の場合、中南米発のビジネスですが、すでにアジアに進出しています。そして、確実に世界の別の地域にも拡大していけるビジネスだと思います。米国企業や中国企業が世界展開する話は有名ですね。ならば中南米企業やアフリカ企業にも世界展開は可能だ、というのが当社の考えです。

私自身も中南米出身で、米国に移住したことがあり、現在はアジアに住んでいます。この経験を通して、世界は同じではないと気づかされました。ビー・キャピタルは会社として「グローバル・ファースト」の方針を持ってはいますが、すべての国や地域が同じだと考えているわけではありません。それぞれの地域における物事の動き方とビジネスの進め方を学び、それに順応し、スキルを磨いて熟達していく必要があります。それが当社の経営理念です。そのため、世界のどこでもすぐに投資を始める、ということはしてきませんでした。

TC:先日ガングリ氏にインタビューさせていただいたとき、ビー・キャピタルは米国内では投資先を探していないのに、現在の投資先の1つに、シリコンバレーにビジネス開発マネジャーと少数のスタッフを置いているスタートアップがあるとお聞きしました。ガングリ氏によると「より高い評価を得るため」とのことでしたが、他の共同創業者も同じようにしているのですか。そもそも、そのようなことは必要なのでしょうか。

サベリン氏:シリコンバレー後のイノベーション戦略については、社内でもよく話題になります。しかしそれは、シリコンバレーを無視すべきであるという意味ではありません。ただ、シリコンバレーは長年にわたりイノベーションの聖地として必要以上にあがめられてきたと思います。起業家にとって非常に重要で、今後も大きな役割を担い続けるシリコンバレーを無視することなんてできません。そのため、ビー・キャピタルはシリコンバレーから完全に目を背けることはしません。ただ、いつまでもシリコンバレーが頂点に君臨し続けるわけではないことを認識することが重要だと考えています。これは、シリコンバレーが衰退していくという意味ではなく、世界の他の場所が台頭してくるという意味です。

シリコンバレーにオフィスを置くべきかどうかという点についてですが、特定のビジネスにとって必要なのであれば絶対にそうすべきです。シリコンバレーは巨大なイネーブラーですが、同時に難しい面もあります。例えば、人材を探している場合、シリコンバレーでは潤沢な資金を持つ企業との奪い合いになります。これは当社が投資している欧州企業の実例ですが、自律運転技術を開発するその企業が人材を探す場合に、欧州とシリコンバレーではどちらが目的を達成しやすいか、かかる費用はどれくらいか、ということを比較検討し、ビジネスを動かすのに必要なボトムラインについて考えると、当然のことながらエンジニア系人材の大部分は創業地である欧州に置くべきだという結論に達します。しかし、この企業はシリコンバレーにオフィスを置いています。その理由は、才能やスキルセットを持つ人材に対して影響力を持つ非常にユニークなエンジェル投資家がシリコンバレーにいるからだと思います。

TC:ビー・キャピタルはかなり大きな会社ですが、巨大な企業というわけではありません。世界中にいる創業者とどのようにスムーズにやり取りするのですか。例えば、ビー・キャピタルは欧州にも中南米にもオフィスを置いていません。この状況は今後変わる予定ですか。

サベリン氏:確かにビー・キャピタルは(欧州にも中南米にも)いわゆる専任スタッフを置いていませんが、それは、パートナーシップベースのアプローチを取っているためです。例えば、当社の主要パートナーの1つであるBCGは中南米各地にオフィスがあり、地元に密着しています。そこから投資案件を紹介されたケースも多々あります。

もっと広い意味で言うと、投資先が見つかる方法はさまざまです。当社と付き合いのある創業者が知り合いの創業者や投資家を当社に紹介し、そこから投資案件が生まれる場合もあります。

TC:ヤロチャットに関心を持った理由は何ですか。

サベリン氏:ヤロチャットはメッセージング業界だけでなく、大企業のイネーブラーになることを目指している企業で、それはビー・キャピタルが真剣に注目してきたモデルでもありました。アジアには、メッセージングアプリと会話型オンラインショッピングのおかげで大企業が今までにない方法で消費者と関わることができるようになっている事例がたくさんあります。このパターンを、メッセージングアプリの利用者が多い世界の他の地域や、中南米の経済国でも展開できないかと考えるようになりました。

例えばブラジルの場合、フェイスブックの利用者数がインド、米国に次いで世界第3位という、巨大なソーシャルメディア市場があります。非常に大きなメッセージングアプリ市場があるということです。

TC:中南米以外で会話型オンライショッピングアプリ事業に投資したことはありますか。

サベリン氏:いいえ、ありません。1つのカテゴリーにつき1社に投資して、その企業が世界展開できるように支援するのがビー・キャピタルの方針です。

TC:でも、ビー・キャピタルは、それぞれの市場の特性が大きく異なるという理由で、2社のスクーター企業(米国のバードとインドのBounce(バウンス))に投資していますね。これは例外ですか。ローカル企業に投資する方が合理的な場合もあるのでしょうか。

サベリン氏:この例に限って言うと、新しいモビリティソリューションのイネーブラーについて社内で話し合っていたときに、インドが抱える問題と必要とされるソリューションは、バードが先進国で解決している問題とは大きく異なると考えました。バードはほぼ世界全域に展開できる企業だと思いますし、グローバルに展開できる能力があることをすでに証明しています。しかしインドのバウンスの場合は少し異なる方程式が必要になりました。なぜならバウンスは非常に低コストのサービスを提供することで公共の交通機関になることを目指しており、それを、数十年にわたって使用され、その有用性が証明されてきたなじみ深いVespas(ヴェスパ)や二輪車タイプのスクーターを使って実現しようとしています。バードとバウンスは、提供するサービスの価格が大きく異なるまったく別のタイプの企業であり、これ以上なく補完し合える関係にあると私は考えています。

TC:ビーキャピタルはインドとインドネシアで数多くのフィンテック企業に投資していますが、銀行・金融サービスがまったく、もしくは十分に受けられない人がインドやインドネシアのように大勢いる中南米ではフィンテックへの投資にさらに力を入れる計画のようですね。このような好機を捉えるために、BCGとの関係はどの程度重要だと思われますか。

サベリン氏:ビー・キャピタル社内に大きなチームを置く予定ですが、イネーブラーとなるのは、当社のスタートアップが他社と関係を築けるように助けてくれる、BCGをはじめとするパートナー企業との関係です。考えてみると、ここ数十年間は消費者インターネットを普及させることに注意が向けられてきた時代でした。次の数十年は従来型の巨大な業界をどのようにデジタル改革していくか、という時代になると思います。フェイスブックやGoogle(グーグル)がはじめに取り組んだ業界、つまり広告業界よりもはるかに大きい業界です。医療、金融サービス、物流、技術イノベーションなどの大型業界に比べれば、広告業界がGDPに占める割合はほんのわずかです。

起業家は、自分が起業する分野に属する大企業と提携せず、大企業ならではの流通網、規制ノウハウ、資本力を活用せずに起業することを考えるべきでしょうか。確かに、物事を進めるスピードは、スタートアップと大企業とでは大きく異なります。しかし、ビー・キャピタルは、業界間の翻訳エンジン、パートナーシップエンジンとなって、ウィンウィンの関係を構築することを目指しています。

これは、学生が寮の部屋にこもって「イノベーションのさらに先を目指し」、世界的大企業を追い抜くという話ではなく、多くの場合は「大企業の資産や流通網、規制対策の実績を活用した方が速いスピードで目的を達成できるだろうか」と考える、という話です。ビー・キャピタルはイノベーションを引き起こそうと努めていますが、ディスラプション(創造的破壊)だけではなく、もっとポジティブでニュートラルな改革を引き起こすことを考えています。それが成功へのヒントになるかもしれません。ただし、語り継がれるようなサクセスストーリーがいつも生まれるわけではありません。でも、イノベーションが(消費者インターネットではなく)従来型の大型業界を変革していく様子が見られるようになれば、それが成功への重要な鍵となるでしょう。

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(翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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