VWが支援する全固体電池開発のQuantumScapeが特別買収目的会社経由で上場へ

Volkswagen Group(フォルクスワーゲングループ)が支援する全固体電池開発のQuantumScape(クァンタムスケープ)が、特別買収目的会社(SPAC)のKensington Capital Acquisition Corp(ケンジントン・キャピタル・アクイジション)との合併に同意した。電気自動車向けの全固体電池を商業化するのに必要な資本を調達するのが狙いだ。

合併によりQuantumScapeのディール後の市場価値は33億ドル(約3500億円)になる。

QuantumScapeは合併で7億ドル(約740億円)超を調達でき、ここには私募増資の5億ドル(約530億円)が含まれる。Fidelity Management & Research CompanyとJanus Transactionなどの機関投資家が引き受ける。合併会社名はQuantumScapeで、ニューヨーク証券取引所(NYSE)でティッカーシンボル「QS」で取引される。QuantumScapeのCEO、Jagdeep Singh(ジャグディープ・シン)氏によると、合併と私募増資でQuantumScapeの初の生産に必要な資金を賄う。多くの自動車メーカーが全固体電池を追究しているが、コストなどが同技術の商業化の障壁となっていた。

今日走行している電気自動車はリチウムイオン電池を搭載している。電池には2つの電極がある。片側にアノード(陰極)、反対側にカソード(陽極)だ。その間に電解液があり、充電したり放電したりするときに、電極間でイオンを動かして配達人のような働きをする。全固体電池は、リチウムイオン電池にある液体やジェル状の電解物ではなくソリッドなものを使っている。

ソリッドな電解物はエネルギー密度がより高く、小型軽量のバッテリーで長距離の走行を可能にする、と開発者は言う。全固体電池はまた熱管理面においても優れていて、発火のリスクを抑制し、今日の電気自動車にある冷却システムのようなものに頼らなくてもいい。

SPAC上場が今夏続々

従来のIPOという手段を避けてSPAC、あるいはブランクチェックカンパニー(具体的な事業計画を持たず、将来会社を買収することを目的に資金を集める会社)との合併を通じて上場することを選ぶベンチャー支援の企業が増えていて、QuantumScapeはその仲間入りをする。電気自動車関連でも EVメーカーのCanoo(カヌー)、Fisker Inc.(フィスカー)、Lordstown Motors(ローズタウン・モーターズ)、Nikola Corp(ニコラ)など、SPACを通じての上場を発表した企業がいくつかあり、QuantumScapeはそのグループにも入ることになる。

SPACを通じて上場したいくつかの企業と異なり、QuantumScapeはスタートアップではない。スタンフォード大学のスピンアウトである同社は全固体電池の開発と、このバッテリー技術を自動車産業向けに商業化するためにスケーラブルな製造工程をデザインするのに10年を費やした。

フォルクスワーゲンベンチャー

QuantumScapeは初期の頃から、Kleiner PerkinsやKhosla Venturesといった有名なベンチャー企業の関心と資金を引きつけてきた。ここに2012年、Volkswagenも加わった。同社は今年の2億ドル(約210億円)も含めこれまでに計3億ドル(約320億円)をQuantumScapeに投資している。

VolkswagenとQuantumScapeの関係の中心にあるのが、全固体電池技術の開発の加速と大量生産を目的に2018年に設立された合弁会社だ。両社は全固体電池の産業レベルの生産に向けた試験プラントを設置する計画を持っている。Volkswagenは6月に、試験工場は今年「具体化する」と述べていた。

QuantumScapeの役員会には著名な投資家や、電気自動車業界の専門家らが名を連ねる。中でも注意をひくのが、Tesla(テスラ)の前CTOでRedwood Materials(レッドウッド・マテリアルズ)の創業者、J.B. Straubel(J.B. ストラウベル)氏だ。同氏はQuantumScapeの全固体電池のデザインを「私が今までに見たリチウムベースのバッテリーシステムの中で最もエレガントなアーキテクチャだ」と形容した。

Kensingtonの会長兼CEOのJustin Mirro(ジャスティン・ミロー)氏もまた合弁会社の取締役会に加わる。

画像クレジット: quantumscape

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(翻訳:Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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