アイディア発想の三原則【コンテンツづくりの三原則 第15回】

オウンドメディア運営において、コンテンツづくりは最大の肝です。「コンテンツづくりの三原則」では、毎月1つのコンテンツづくりのテーマや目的を取り上げ、そこに紐づく3つのトピックを深掘りしていきます。

第15回は「アイディア発想の三原則」。コンテンツを制作するにあたって意識しておきたい「偶然」「拡散」「収束」の三原則について解説します。

「偶然」から価値を見つける能力

私たちは、歴史上の先達たちの偉大な発明の恩恵にあずかって、快適な暮らしを送ることができています。しかし、そんな私たちに幸福をもたらす発明も、偶然の産物であることが少なくありません。

例えば、世界初の抗生物質のペニシリンは、細菌学者のくしゃみがきっかけでできたといわれています。ダイナマイトは、ニトログリセリンが漏れて梱包材に吸収されるのを、発明者のノーベルが見たのがきっかけ。バイアグラは血管を、弛緩させる狭心症の治療薬がきっかけです。また、QRコードは開発者の趣味の囲碁をヒントに生まれました。
人類史には、ほかにも偶然や失敗から生まれた発明品が数多くあります。トランジスタもブランデーもシャンパンも万年筆もコカ・コーラもポスト・イットも、すべて偶然の産物というのが定説です。

つまり、偉大な発明は、どこから降ってくるかは誰にもわからないのです。アイディアの発想も同様です。探求するテーマで行き詰まったときこそ、まったく違う世界へ飛躍してみると、新しい価値が発見されることがあるのです。

このような偶然が生み出したものを、価値あるものと気づく能力のことをセレンディピティといいます。セレンディピティとは、素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見したりする能力を指します。これは、「セレンディップの三人の王子たち」という、童話の逸話から作られた言葉です。

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では、すばらしいアイディアを発想するためには、偶然に頼るしか方法はないのでしょうか。いいえ、セレンディピティとは、「偶然を活かす能力」なので、決して運任せという意味ではありません。セレンディピティは、飛躍の発想を積み重ねていくうちに身につく洞察力なのです。

日本の化学者である白川英樹氏が、2000年にノーベル化学賞を受賞したとき、その授賞式で選考委員長が「セレンディップの三人の王子たち」の話を引用して、偶然の発見がすばらしい発明を生んだのだとたたえました。

発明王のエジソンは、「私はこれまで、偶然のひらめきで、価値ある発明をしたことなど一度もない」と語っています。しかし、そんなエジソンも、白熱電球を完成させたきっかけは、偶然机の上にあった日本製の竹の扇子だったことは有名なエピソードです。もちろん、竹をフィラメントとして使うに至るまで、何度も失敗を重ねています。

Vintage Edison light bulbs on dark background with empty space for text.

近年ではほかにも、2002年にノーベル化学賞を受賞した島津製作所の田中耕一氏、2014年にノーベル物理学賞を受賞した名古屋大学の天野浩氏など、いずれも偶然の産物で画期的な発見・開発を成し遂げています。

散歩で見つける偶然

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アイディアを考えるとき、会社のデスクや会議室でパソコンとにらめっこをして考えていても、アイディアがわき出てくるとは限りません。最近は、コロナ禍で自宅に閉じこもっている方も多いかもしれません。そんなときは外に出て散歩したり、お気に入りのカフェでコーヒーでも飲みながら思考を巡らしたりすることをおすすめします。
できれば、パソコンはオフィスや自宅に残して、ノートと鉛筆だけを手に出掛けてみるといいでしょう。あくまでものんびりゆっくりリラックスして。そうすることで、いつもと違う風景が見えてくるに違いありません。

小説「大いなる遺産」で知られるイギリスの文豪チャールズ・ディケンズは、毎日決まって午後2時から3時間歩いたといわれています。ディケンズにとって散歩は、作家として大きな意味を持っていたそうです。ひとつは、ネタ集めとして街の様子を観察するため。そしてもうひとつは、執筆で行き詰まったときのストレス発散。そうやって、頭の鍛錬と心身のリフレッシュを図っていたのです。

ほかにも哲学者のカント、フロイト、キルケゴール、ルソー、音楽家のベートーベンやチャイコフスキー、科学者のダーウィン、アインシュタインなど、歴史上にはそうそうたる偉人たちが散歩を日課としていました。
ルソーは散歩をしながら浮かんだ思索をもとに、名著「孤独な散歩者の夢想」を書いたほどです。散歩を趣味とする知の巨匠たちが歴史上で多いのは、散歩が彼らにとって常にインスピレーションの源になったからなのかもしれません。

もちろん、街を歩くことだけが散歩ではありません。カントは散歩好きで有名でしたが、夕食は必ず誰かを招いて、会話を楽しんでいたそうです。それも、仕事の話は決してしなかったといいます。

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カントの肖像

アイディアのヒントを探るためには、図書館や書店を巡るのもいいでしょう。インターネットではある程度、検索キーワードをもとに目的をもって調べることが多いと思いますが、図書館や書店で無目的に本や雑誌を眺めていると、偶然の発見に出会うことがあります。
特に、書店は店舗によってその分類もさまざまなので、常に新しい発見があります。図書館や書店は、偶然から価値のあるものを発見するセレンディピティを磨く絶好の場なのです。

古書のある空間

カントが食事は必ず誰かとしていたように、異分野のいろいろな人と出会って刺激を受けるのが大好きな人たちは皆、新鮮な情報や考え方を仕入れ、「企画力=人を巻き込んで対話する力」を鍛える習慣があったようです。

「なぜ、私たちはコンテンツを制作するのか?」という原点に立ち返ってみましょう。私たちはユーザーの役に立ち、楽しんでもらうコンテンツを作るために企画を考えます。デスクにかじりついてパソコンとにらめっこをしていても、楽しく、刺激的な会話は生まれないのです。

アイディアを大量に出して「拡散」する

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「最も使えるアイディアは脱線したり、行き先が見えない会議から生まれたりするものです」

アマゾンの創業者で、2021年第3四半期にCEOを退任し、取締役会長となることを発表したジェフ・ベゾス氏はかつて、このような言葉を述べました。
アマゾンでは会議において、PowerPointで作成された箇条書き資料の使用が禁止されていることで有名ですが、このような会議に対する考え方が、同社を世界随一の企業に成長させた源なのかもしれません。孤高の天才といわれるベゾス氏でさえ、誰よりも会議による多くの人のアイディアを尊重しているのです。

アイディア出しを軸とした会議、いわゆるブレインストーミング(ブレスト)で軸となるのは、拡散と収束です。
拡散では「量」を求めます。最初はとにかく、議題とまったく関係なさそうなバカバカしいアイディアで構いません。とんでもなく、絶対実現できない荒唐無稽なアイディアで良いのです。これによって、予定調和的な想定内の正論から抜け出すことが可能になります。

ブレインストーミングを考案した、アレックス・F・オズボーン氏は、ブレインストーミングを効果的にするためのルールとして、下記の4つを挙げています。

<オズボーン氏によるブレインストーミングの4つのルール>

  • 判断を遅延せよ(Defer judgment.)
  • 量を求めよ(Strive for quantity.)
  • 突飛なアイディアを探せ(Seek wild ideas.)
  • 人のアイディアから連想し発展させる(Build on other ideas.)

拡散したアイディアは、すぐにコンテンツとして具現化しなくても気にする必要はありません。
また、飛躍や脱線を否定してはいけません。なぜなら飛躍や脱線は、最終的にたどり着くコンテンツを生むためのカンフル剤だからです。くすぶっている火に注ぐ油なのです。

拡散に必要な心理的安全性

最も効果的にアイディアを拡散するためには、「心理的安全性」が必要だといわれます。心理的安全性とは、チームメンバーに非難される不安を感じることなく、安心して自身の意見を伝えることができる状態のことです。
心理的安全性とは、1999年にハーバード・ビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授が論文で発表した概念で、その高さを示す「3つのサイン」として、下記の要素を提示しています。

<心理的安全性の高さを示す3つのサイン>

  • ポジティブな発言が多い
  • 日頃から成功だけでなく、ミスや問題についても話をする
  • 職場に笑いとユーモアがある

近年では、Googleがこれを自社で実証して、2015年に発表した「効率的なチーム」の5つの条件のひとつに組み込まれたことで有名になりました。

<Googleによる効率的なチームの5つの条件>

  • 心理的安全性
  • 相互信頼
  • 構造と明確さ
  • 仕事の意味
  • インパクト

アイディアを拡散するための具体的な方法

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アイディアを拡散するための具体的な方法には、「連想ゲーム」や「マインドマップ」「マンダラチャート」などがあります。

・連想ゲーム
かつて、「連想ゲーム」という昭和を代表するNHKの人気番組がありました。あるヒントとなる単語から連想して、解答の単語を当てるというとてもシンプルな番組です。
例えば、「赤い」「丸い」「青森」というヒントから「リンゴ」という単語を導くというように、正解の単語をたくさん当てたチームが勝ちというゲームです。昨今では、バラエティ番組の定番に「大喜利」「モノボケ」などがありますが、これも連想ゲームの一種といえるでしょう。楽しみながらやわらかい発想を鍛えるには、とてもいい手法です。

・マインドマップ
トニー・ブザン氏が提唱した、思考の表現方法であるマインドマップ。拡散の中でも、思考を整理しながら発想を広げていくのが特徴です。頭の中で考えていることを脳内に近い形に描き出すことで、記憶の整理や発想がしやすなります。表現したい概念の中心となるキーワードやイメージを中央に置き、そこから放射状にキーワードやイメージを広げてつなげていきます。

・マンダラチャート
マンダラチャートは、3×3の9マスの枠で構成される目標達成のためのフレームワークです。1979年に株式会社クローバ経営研究所代表(当時)の松村寧雄氏が考案しました。事業計画や企画作成、勉強、スポーツの練習など、あらゆるシーンに応用できるため、ビジネスに限らず広く活用されています。マンダラチャートも、マインドマップと同様に思考プロセスを可視化できるため、拡散しながらも支離滅裂になることを避け、論理的な思考展開が期待できます。

アイディアの拡散の目的は、自分以外の視点や切り口から刺激を受けることで、イメージを膨らませることにあります。
拡散は、集団の中で生まれるさまざまな視点や切り口を刺激にして、個人の創造性を育むための手法です。そして、思いもよらない発想が個人の中で生まれ、さらにその発想から、別の切り口の新しいアイディアが生まれるという、エコサイクルを作るためのものなのです。

量から質に「収束」する

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拡散が「量」を前提にアイディアを膨らます作業に対して、収束では「質」を求めます。収束は、大量のアイディアを整理しながら、結論に持っていく時間です。拡散で盛り上がっても、企画書にまとめようとすると意外とつまらなかったり、まとめるのが難しかったりすることがあります。それは、アイディアが散らかったまま、つまり収束の作業がないがしろになってしまっているためです。

前述のオズボーン氏は、収束のために下記の5つのルールを設けています。

<オズボーン氏による収束の5つのルール>

  • 肯定的であれ。アイディアの良いところに目を向けよ(Be affirmative.)
  • 配慮せよ。粗い判断をせず、すべてのアイディアを公平に検討せよ(Be deliberate.)
  • 目標をチェックせよ(Check your objectives.)
  • アイディアを改良せよ(Improve ideas.)
  • 目新しさをよく考慮せよ(Consider novelty.)

アイディアを収束させるための具体的な方法

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アイディアを収束させるための具体的な方法には、「KJ法」や「セブンクロス法」「5W1H法」などがあります。

・KJ法
KJ法は、文化人類学者の川喜田二郎氏が、データをまとめるために考案した手法です。拡散で出し尽くしたアイディアをカードや付箋に記し、グループ分けしたり、比較したり、ストーリー化したり、評価したり、反証したりして、実際に使えるアイディアにまとめていきます。学校の講義や企業の研修、ワークショップのような共同での作業にもよく用いられます。

・セブンクロス法
セブンクロス法は、アメリカのビジネス・コンサルタントのカール・グレゴリー氏によって考案された方法で、メンバーが課題解決のために共通理解するときなどに有効とされます。
ブレインストーミングで出てきたアイディアを整理して優先順位をつけ、まず何をすべきかを明らかにします。

<セブンクロス法の方法>

1. ブレインストーミングで出てきたアイディアを付箋やカードに書いていく

2. それらを大きく7つに分類する

3. 7つの項目を重要度順に1から並べる(横)

4. 各項目の中で重要度順に並べる(縦)

セブンクロス法のメリットのひとつは、出てきたアイディアの全体像が一目で把握できることです。全体像が把握できると見落としがなくなり、出てきた意見を無駄なく考慮できます。
さらに、重要項目が左上に集中していることで、何を優先しなければならないかが視覚的にもわかりやすいこともメリットといえます。この方法でまとめることで、話し合いがスムーズに行えるでしょう。

・5W1H法
5W1H法は、アイディアを5W1Hの項目に分類し、整理していく方法です。
一般的に、ビジネスアイディアの検討における5W1Hは、下記のようになります。

<ビジネスアイディアを出すための5W1H>

  • Who(誰に:ターゲット)
  • Why(なぜ、何のために:購買動機)
  • When(いつ:販売・提供時間、時期、期間)
  • Where(どこで:販売チャネル・ルート)
  • What(何を:商品・サービス、技術、価値)
  • How(どうやって:販売・提供方法、戦略)

5W1H法は、コンテンツのアイディアを探索、検討する初期のアイディア検討時よりも、ビジネスモデルとして企画していく段階で使うべき整理法といえます。

優れた芸術家は模倣し、偉大な芸術家は盗む

以上、アイディア発想のために必要な、「偶然」「拡散」「収束」の三原則についてご紹介しました。

アイディアは、一人で時間をかけて考えれば出てくるというものではありません。20世紀最大の天才画家ピカソは、「優れた芸術家は模倣し、偉大な芸術家は盗む」という格言を残しています。どんなに天才と呼ばれる人でも、偶然をチャンスに変え、多くの人の知恵を借り、論理的にまとめるプロセスを経て、初めてすばらしいアイディアにたどり着いているのです。

また、ビジネスの場でアイディアを拡散・収束させるときは、1回の会議時間内で、必ず結論を出すことを目標にすることが大切です。
時間を決めずにいいアイディアが出るまでという意識でダラダラやっても、あまりいい結果は期待できません。タイムキーパーを決め、緊張感を維持するほうが必ず良いアイディアが出るものです。アイディアを出しきれなかった場合は、次回の会議であらためて続きをやるようにしましょう。

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