私は2012年の秋にFoundersuiteの設立に取り掛かり、2013年の早い段階で、MVP(Minimally Viable Product: 最低限の利用可能な製品)をリリースした。このMVPを立ち上げる前に、私は最高財務責任者/取締役/事業開発担当者として、スタートアップのコンサルティングに10年間に渡って携わってきた。そのため、初めてのスタートアップのCEOが、どのようなものになるのか、ある程度、理解しているつもりであった。
しかし、実際には何も分かっていなかった。以下に、私が思い描いていた期待と大きくかけ離れていた8つの現実を挙げていく。
1. 顧客のニーズの特定は、製品とマーケットをフィットさせる闘いのほんの一部である
私はリーンスタートアップモデルを好み、我が社は、「人々が求めるものを作る」ことに力を入れている。しかし、顧客のニーズを特定し、ニーズに対するソリューションを作り出す取り組みは、スタートアップの仕事のほんの一部に過ぎない。その他にも、利用への大量の小さな抵抗と障害を排除する作業が存在し、この作業自体、果てしなく続く。
例えば、Foundersuiteでは、Investor CRMを、投資家の会話を記録するツールとしてリリースした — これは、事実上、資金調達の「混沌とした状況に秩序」をもたらすツールと言える。Investor CRMは、AngelList、LinkedIn、Google Calendar等のAPIを用いて構築された良質なツールであり、ユーザーが初めに登録した際は、多数の前向きなフィードバックが寄せられた。しかし、継続的な利用に関しては、沈滞気味であった。
1-1の電話調査を行うまで、多数の利用の「障害」に私達は気づかなかった — 例えば、大勢のユーザーは、エクセルでターゲットのインベスターを既にリストアップしていた。そのため、インポート機能が必要であった。また、CRMは空の状態であり、何をすればいいのか分からない、と言う声もあった。そこで、間もなく、CRMを投資家の「スターターパック」で事前に埋める予定である。これは継続的な取り組みではあるが、幸いにも、大きなハードルや抵抗を排除する度に、利用が大幅に増える。すぐに満足感を得られる点は大きい。
2. (少なくとも最初は)誰にも注目してもらえない
「優れた製品は市場を作り出す」と言う偏った考えを持つ起業家は多い。これは嘘っぱちだ。MailboxやPebbleのような、生まれながらにして既にバイラル化した製品は幾つか存在する。しかし、これは極端な例外であり、標準から大きくかけ離れている。大半のスタートアップは、たとえ優れた製品であっても、注目してもらうために、必死でアピールしなければならない。数年前、Xobniの設立者達が、この点を巧みに表現していた: 「誰もその浅はかなスタートアップのことなんか気にしていない。」
もちろん、自分達は特別だと考えていた。すぐにバイラル化させることが出来ると信じていた。Foundersuiteは、スタートアップ用のソフトウェアを作る会社だ — 注目に値するはずである。リリースした瞬間に、爆発的な勢いでユーザーを獲得していくはずだ…
Launch.coでデビューを飾り、VentureBeatで取り上げられると、割と多くのスタートアップに利用してもらえた。しかし、急激な成長は一時的なものであり、大半のスタートアップと同様に、がむしゃらに仕事をこなさなければいけなくなった — 事業を徐々に拡大し、宣伝を強化し、ポール・グラハムが提唱する拡大することが出来ない取り組みに励む必要があった。
私達の場合、インキュベータ、シェアオフィス、ハッカソン等と配信提携を結ぶ必要があった。これは、人と人が触れ合う、長期的な販売関係を築く取り組みであるものの(平均で、契約を結ぶまでに、2-3ヶ月かかる)、今後の成長の強固な基盤になる取り組みだと私達は確信していた。
3. 初期のエバンジェリストは後のエバンジェリストよりも2倍– いや3倍の価値がある
Airbnbのブライアン・チェスキーCEOが、「100万人が割と好むモノよりも、100人が愛するモノを作る方が良い」と言う名言を残している。これは素晴らしいアドバイスである。しかし、私達は、早い段階で「支持者」を増やすことに、十分に時間と労力をつぎ込まず、代わりに、ページビュー等の価値のない基準ばかりに気を取られていた。
なぜ、このような初期の熱狂的なユーザーは、そこまで重要なのだろうか?理由の多くは明らかだ: 他の人達に紹介する傾向があり(タダで宣伝してくれる)、製品に関する有益なフィードバックを与えてくれるためだ。しかし、初期のファンの価値が3倍に値する真の理由は、敗北を喫する度に(意外と頻繁に発生する)、その前向きな言葉によって、前に進み続けることが出来るためだ。きっと、この世には、フィードバックの妖精が存在し、前向きな、勇気を与える言葉を発するタイミングを教えているのだろう。
今度スタートアップを立ち上げる際は、業務時間の75%を初期のエバンジェリストとの交流に当て、知り合いになり、満足させる取り組みを本気で行う。現在、遅れを取り戻そうと必死でもがいている。
4. 興味を持たない人もいる
辛い現実に向き合う必要がある。自分自身/会社/製品を好きになってもらいたい人達の大半は、単純に好きにならない。 コンサルタントをしていた頃は、クライアントとの親密な関係を楽しみ、新たな問い合わせの75%以上を一貫して契約に結び付けていたため(恐らく、既に適格な会社が、推薦されていたことが要因)、この現実に私はショックを覚えた。
しかし、コンサルティングビジネスの売り込みと、SaaS製品の売り込みは、大きく異なり、失敗/拒否のレベルに慣れるまでに、割と時間がかかった。Foundersuiteでは、提携/事業開発の取り組みにおいて、25 – 30%の確率で成功させるのが、やっとである。もっと分かりやすく言うと、配信契約の締結を求める際、10回のうち7回が、失敗に終わる(全く反応がないことの方が多い)。
私は、契約を勝ち取ることに固執する傾向があるため、最初のうちは、慣れるのが大変だった。何度も挫けそうになった。事実、提携に関する話し合いを数ヵ月に渡って行ってきたパロアルト市のインキュベータがいた(しかも、前向きな話をしていた)が、突然反応がなくなり、奈落の底へと落とされたような気分を味わった。
粘り強さは、起業家にとって、重要な資質だと理解しているものの、ある時点で、契約が実現しないことを自覚しなければならない。要するに、「契約に固執する姿勢」が会社全体に害を与えることがないように注意する必要がある。
5. 満杯の販売ファンネルは万能薬
4番目の問題に対しては、販売、または、事業開発のファンネルの上部を、顧客候補で溢れる状態を維持することが最も効果があると私は学んだ。つまり、多ければ多いほど良い。事業開発の取り組みをデートのように考えるようになった。デートと同じように、顧客候補/パートナーはとても多く、一生のうちにアタックすることが可能な人数は限られている。つまり、興味を持ってもらえない相手を追いかけるのはやめて、すぐに次の相手の説得に取り掛かるべきである。踏ん切りをつけると、再び向こうの方からアプローチしてくることもある(嬉しいサプライズ)。
6. 製品を売るな — ユーザーが製品を使って出来ることを売れ
これは、スティーブ・ジョブズの受け売りであり、毎日、頭の中に叩き込んでいる教訓である。この名言には、様々な位置づけとニュアンスがある: 機能ではなく、メリットを売り込め、「何」や「どのように」ではなく、「なぜ」を売れ。
アシュトン・カッチャーが主演した映画、Jobsの意欲を引き出すセリフに全て集約されている:「誰でも優れた製品を作ることは出来るのかもしれません。しかし、自分が売っている製品の方がさらに優れていることを消費者に納得してもらう必要があります。我々はコンピュータを売っているのではありません。我々が売っているのは、コンピュータを使って出来ることを売っているのです。これは、心を動かすツールです。そして、紳士淑女の皆さん、このツールに限界はありません。なぜなら、人は、何かをさらに活用することが出来ると、そして、どんな夢だって実現することが出来ると、これからも信じていくからです。そこに到達するために、Macが皆さんの背中を押すのです。」これだけで十分だ。
7. 「ソートリーダー」はスーパーモデルのような存在 — 味方になってもらえれば百人力、しかし…
Foundersuiteの当初のマーケティング計画では、クリス・ディクソンが「ボーリング戦略」と呼ぶ戦略を少し変えたアプローチを基盤としていた — テクノロジー業界のインフルエンサーとソートリーダー(新たな考えを示すことが出来る人達)に製品を利用してもらえれば、多くのスタートアップが、先例に従う、と言うものだ。理論的には素晴らしい戦略だが、ポール・グラハム等の人物に製品を試してもらい、使ってもらい、そして、認めてもらうのは、本をオプラ・ウィンフリーに紹介してもらうほど成功する確率は低い。 要するに、実現する可能性はゼロに近い。確かに、私達は、TechStars、Launchrock、そして、Startup Weekend等の優れたサイトと提携を結ぶことに成功したが、それまでには、数ヶ月間に渡って、しつこく呼び掛け、お願いし、求め続けたプロセスがあった。ソートリーダーには、このような要請が大量に寄せられており、ホワイトノイズでしかない。
そのため、騒ぎに加わるのではなく、ノイズが遥かに少ないスタートアップのエコシステムの領域で、接触を始めることにした。私達は、アトランタ、ピッツバーグ、インディアナ、ハンガリー、そして、オーストラリア等の場所で、インキュベータ、ハッカソン、そして、シェアオフィスに声を掛け始めたのであった。数十、いや、数百もの地域で、スタートアップ用の生産性向上ツールを必要とする起業コミュニティが存在する。私達の製品を求めるニーズは本物であり、利用するスタートアップが右肩上がりに増えていった。「極上のパートナー」を追う取り組みは、スキップした方が良いことを私は学んだ — スーパーモデルとデートするようなものだ。お金も時間もかかり、実際にデートしてもらっても、苦労するだけである。その代わりに、実際に自分のことを求めている相手に狙いを絞るべきである。
8. 製品の開発は思っていた以上にスゴく楽しい
今後生まれ変わったら、プロダクトマネージャーになりたい。元々いたプロダクトマネージャーが自ら製品を立ち上げるために退社したため、強制的にプロダクトマネジャーの職務も兼任することになるまで、この仕事の面白さが分からなかった。
アイデア -> プロトタイプ -> フィードバック -> 繰り返し -> 利益の回収を行うプロセスを見事に完了させる取り組みには、やりがいがあり、満足感を得られることに気がついたのであった。病みつきになったと言っても過言ではない。スロットマシンで勝つのと同じような喜びを得られるのだ。
9. 嬉しいサプライズがある
ここまで読んで頂けたのなら、私が得た教訓のほとんどが、失敗を受け入れる、あるいは、障害や拒否を乗り越える点に関連していることに気づいたはずだ。しかし、嬉しい教訓もあった — (時折、赤の他人から)気持ちが晴れ晴れするようなサプライズを得られることがある。この記事を作成している最中に、Foundersuiteのユーザーから、Startup WeekendのOrganizerに対して、Facebookでべた褒めのレビュー/提案を行ったことを伝えるEメールが届いたばかりだ。
つまりは、自分の意思で、トータルで、数百、数千の起業家、そして、顧客候補に接触する力を持つ人達に売り込んでくれたのだ。感動した。しかし、それほど稀ではない…好奇心をそそる取り組みを、適切なモチベーションを抱いて実施していれば(私達の場合は、起業家の方々が成功するお手伝いをする)、ユーザーに支えてもらえる。この関係は、素晴らしいの一言に尽きる。
それでは、皆さんの幸運を祈りながら、ここでペンを置くことにする。最後まで読んで頂いたことに、感謝の意を表したい。
この記事は、FounderSuite.comのネイサン・ベコードによるゲスト投稿である。
この記事は、OnStartupsに掲載された「Expectations vs. Reality: 8 Lessons From The First Year As CEO」を翻訳した内容です。