全国に植えられたソメイヨシノをゲノム解析、ルーツは上野公園の4本

全国に植えられたソメイヨシノをゲノム解析、ルーツは上野公園の4本

上野恩賜公園の小松宮彰仁親王像の周囲に植栽されているサクラ。数字は管理番号を表す

かずさDNA研究所は、19都府県に植えられたソメイヨシノ46本の葉からゲノムDNAを抽出し、DNA配列を解析したところ、そのルーツが上野恩賜公園に植えられている4本である可能性を突き止めた。また、先祖型にもっとも近かったのは、現在原木候補とされている個体とは別の個体であることもわかった。

かずさDNA研究所は、全国16の大学、高校、研究機関と共同で、この研究を行った。東京の染井村(東京都豊島区)で生まれたとされるソメイヨシノは自家受粉ができないため、接ぎ木にで増やされ全国に植えられた、いわばクローンであるため、共通のゲノム配列を持つ。

しかしすべてがまったく同じではなく、繁殖の間の突然変異により塩基が1つだけ変異する一塩基変異が生じている。この変異を辿れば、ソメイヨシノの系譜がわかると考えた同研究所は、全国の46個体について調査を行った。それには、上野恩賜公園の小松宮彰仁親王像の周りに植えられた、ソメイヨシノの原木候補を含む4本をはじめ、そのほか、日本最長寿とされる弘前公園の個体、アメリカのワシントンD.C.から里帰りした個体なども含まれる。

ゲノム解析を行ったソメイヨシノの分布

解析の結果、684の一塩基変異が見つかり、そのうち71個の変異は複数の個体に共通していた。これをもとに遺伝子が類似する遺伝子クラスターに分類したところ、全国のソメイヨシノは大きく2つのグループ(グループIとグループII)に分けることができた。さらに、グループIは5つのクローン系統(Ia〜Ie)に分類された。上野恩賜公園の4本は、それぞれが異なるクローン系統に属していた。つまりこの4本が親木となり、接ぎ木されて全国に広がったと考えられる。ただし、もっとも先祖型に近かったのはグループIaで、これに属する個体は原木候補とされていた管理番号136の個体ではなく、管理番号133の個体であった。

ゲノム変異に基づいて分類した「ソメイヨシノ」のグループ

ゲノム変異に基づいて分類した「ソメイヨシノ」のグループ

ソメイヨシノは、エドヒガンとオオシマザクラの交配種だが、人工的に作られたのか、自然交配によるものなのかはわかっていない。ゲノムに残る痕跡をさらに検討することで、その誕生の歴史を探ることができるという。また、この体細胞変異を追跡する技術を使えば、果樹などの登録品種の流出問題に関して、流出経路の特定ができる可能性もあると、かずさDNA研究所では話している。

ソメイヨシノの遺伝子発現をPCR法で解析し正確な開花予測を実現、サクラと同じバラ科のナシやモモにも応用可能

ソメイヨシノの遺伝子発現をPCR法で解析し正確な開花予測を実現、サクラと同じバラ科のナシやモモにも応用可能

ソメイヨシノの萌芽から開花の時期に発現する遺伝子群とその発現量の変化(発表論文データより)。各グラフの縦軸は遺伝子の発現量に相当する。萌芽から開花までに働く様々な遺伝子の発現変動を全体像としてまとめたことで、正確な開花日予測が可能となった

かずさDNA研究所は2月18日、ソメイヨシノの遺伝子発現に基づく開花予測技術を開発したと発表した。ハンディータイプの解析装置を用いたリアルタイムPCR法により、開花前に特徴的に発現量が増加する遺伝子を捉え、正確に開花日を予測できる。これは、かずさDNA研究所(白澤健太氏)、島根大学(江角智也准教授)、京都府立大学(板井章浩教授)による共同研究。サクラと同じバラ科のナシやモモをはじめとする、様々な果樹の開花予測に応用できるという。

ソメイヨシノの開花予測は、現在は「温度変換日数法」によって行われている。冬に休眠した花芽が「休眠打破」により成長を開始した日から、特別な公式によって弾き出された日数を経過すると開花するという予測方法だが、それでは桜前線のように、大きな範囲での予測となる。そこで研究グループは、気温の上昇にともない発現する開花に関連した遺伝子を特定し、発現量をモニターできれば、各地のお花見スポットやソメイヨシノ1本1本の開花日予測が正確に行えるようになると考えた。

ソメイヨシノは、エドヒガンとオオシマザクラを掛け合わて作られた品種のため、2つのゲノム(2倍体)を持つなどゲノム構成が複雑で、これまで解析が難しかったのだが、同研究グループでは2019年にソメイヨシノのゲノム配列の解読を成功させ、新たな開花予測手法の開発に取り組んできた。

その結果、開花1カ月前までに器官発達に関わる遺伝子が働き、開花2〜3週間前までに細胞壁の構築・伸展または分解に関する遺伝子、糖の代謝や必要な物質の輸送に関する遺伝子が順番に働き始め、さらに、おしべやめしべの発達に関する遺伝子が働くことがわかった。どれもが、花器官の組織や細胞の劇的な肥大、花柄(かへい)の成長などの形態変化に関係するものだ。そこから、開花前10〜20日、また0〜10日前に特徴的に発現する遺伝子を選び出し、ハンディータイプの解析装置を用いたリアルタイムPCR(Polymerase Chain Reaction)法によりその発現量を測定し、開花日を予測できるようにした。リアルタイムPCR法とは、DNA断片を増幅するためのサーマルサイクラーと、DNA量をモニターするための分光蛍光光度計を一体化した専用の装置を用いて、DNA断片の増幅量をリアルタイムでモニターし解析する方法。新型コロナウイルスの陽性確認PCRにも用いられている。

今回発表の技術は、サクラと同じバラ科のナシやモモなどの果樹にも応用が可能とのこと。開花後の受粉の管理などを計画的に行う必要のあるこれらの果樹は、気候変動により難しくなっている開花予測の精度を高めることで、安定して高品質な果実を得られるようになると、研究グループは話している。