EUがAppleに対する1.5兆円超の罰金命令を棄却した判決を上訴

アップルとヨーロッパ間の税金問題は終わりが見えない。米国時間9月27日、欧州委員会(EU)はアップルとアイルランドに対する国家支援と税金に関する150億ドル(約1兆5800億円)の罰金命令を無効とする2020年7月の裁定(未訳記事)を上訴する意向を発表(EUリリース)し、2016年8月の原判決を破棄した。一般裁判所は「多数の法的過ちを犯した」と主張した。

つまりこれは、上訴の上訴だ。

欧州委員会の Margrethe Vestager(マルグレーテ・ベステアー)競争担当委員は声明で「同委員会は税控除を1社に与えライバルには与えない行為は『欧州連合における公正な競争を阻み、国家支援法に反すると考えているため、この行動を起こしたと』」説明した。

本訴訟が進行すれば、最高裁判所に相当する欧州司法裁判所で扱われる。かつて「第一審裁判所」と呼ばれていた一般裁判所の判決に対する上訴はここで裁かれる。声明の全文は文末に掲載した。

アップルはすでに自身の声明を発表しており、上訴内容をこれから調べるとともに、2020年7月の決定が最終であると考えていると(当然ながら)語った。

「一般裁判所は7月の委員会の訴訟断定的に棄却しており、事実はそれ以降変化していない。本件は当社がいくら税金を支払うかではなく、どこで支払う必要があるかの問題である」と広報担当者は言った。「当社は委員会の訴状を受け取り次第内容を確認するが、それは一般裁判所の事実に基づく結論を変えるものではなく、当社が事業を営む他の場所と同じく、アイルランド法を常に遵守していることは一般裁判所の裁定が証明されている」。

この発表は、世界で最も利益を上げている世界最大の企業を巡る数年にわたって進行中の税金物語が、これからも続くことを意味している。

この件は、新型コロナウイルスの感染拡大のために世界経済が縮小している最中に起きた。感染拡大は欧州諸国、とりわけ自宅待機などの措置によって職を失った個人や事業への公的支援に苦悩する国や地域に大きな打撃を与えている。そうした状況の中、税収を得て公正な競争を保証することは極めて緊急な課題だ。

国家援助訴訟を棄却した判決は、税優遇の大きい地域で高い利益を上げてきた巨大多国籍企業から税金を回収しようとしたヨーロッパの取組みに大きな打撃を与えると見られている。

この裁定で裁判所は、「欧州委員会は第107条(1)TFEU(EU機能条約)における利益があったことの立証に必要な法的基準を示すことができなかった」とした。

アップルの基本的論点は常に「ヨーロッパの事業所は実際に利益を上げている場所ではないので、なぜそこで得た収益に税金を払う必要があるのか」というものだ。

同社は2016年の原審判決の後、罰金支払いに必要な資金を第三者預託口座に蓄え始めたが、支払いは始めてはいない。TechCrunchはアップルにコメントを求めている。

欧州委員会の声明は以下のとおりだ。

本委員会は欧州司法裁判所に対し、2020年7月の一般裁判所による、アイルランドが選択的税優遇を通じてアップルに違法な国家援助を与えたとした2016年8月の委員会決定を棄却した判決を上訴することを決定した。

この一般裁判所判決は本委員会による税金対策における国家支援規則の適用に関して、重大な法的問題を引き起こしている。また本委員会は一般裁判所の判決には複数の法的誤りが認められると考えている。このため本委員会はこの問題を欧州司法裁判所に提訴する。

大小を問わずあらゆる企業が相応の税金を支払うことは、委員会の最優先課題である。一般裁判所は繰り返し、加盟諸国は独自の税法を決定する権限を持つが、そのためにはEU法に従う必要があり、国家支援法もその1つであることを確認している。もし加盟国が特定の多国籍企業に対してライバルの得られない税優遇を与えたなら、欧州連合における適切なの競争を阻み、国家支援法に反する。

我々は企業が相応の税金を支払うことを保証するために、あらゆる手段を使い続ける。さもなければ、国庫および国民は投資に必要な資金を奪われることになり、現在その資金はヨーロッパ経済の復活を支援するためにいっそう緊急に必要とされている。まだこの先必要な仕事は残っており、デジタル企業を含め、あらゆる企業が合法的に義務化されている税金を相応に支払うことを確実にすることがその一つだ。

画像クレジット:Emmanuel Dunand / AFP / Getty Images

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook