スタートアップの資金調達をお膳立てするエメラダ、投資型CFに続きレンディングサービスを開始

2017年11月にリリースした株式投資型クラウドファンディング(以下株式投資型CF)「エメラダ・エクイティ」を通じて、スタートアップの資金調達をサポートしてきたエメラダ。同社は5月23日、株式投資型CFに続く新たな資金調達プラットフォームとして、オンラインレンディングサービス「エメラダ・バンク」をリリースした。

エメラダ・バンクの初期運営には、城北信用金庫、第三銀行、東邦銀行、大和信用金庫といった地域金融機関、金融機関向けにシステムのコンサルティングなどを手掛ける電通国際情報サービスが参画。将来的に法人向け金融システムのマーケットプレイスを目指すという。

決算書からは見えないデータも活用、多くの企業に借入の選択肢を

エメラダ・バンクは、スタートアップや中小企業がオンライン上で500万円から5000万円までの借入ができるサービスだ。

決算書に加えて銀行口座の入出金情報やオンライン上の定性情報などを分析。決算書から見えない情報もしっかりと評価することで、新規借入をしやすい仕組みを作る。合わせて企業ごとの事業計画や資金繰り状況も踏まえて返済計画をパーソナライゼーションすることで、デットファイナンスという選択肢をより使いやすい形で提供するのが特徴だ。

「従来は決算書の内容で審査が通らなかった企業でも借入のチャンスが得られる。一方で借入できたものの返済の負担が大きく苦労する企業も多い。資金繰りが安定しているのでコツコツ返済する、大きな投資で一時的に収支が悪化するため初期の負担を減らすなど、企業ごとに柔軟な返済計画を提案していく」(エメラダ代表取締役社長兼CEOの澤村帝我氏)

借入までのフローは一部対面での面談が含まれるが、申請から一連のコミュニケーション、契約締結まで基本的にオンライン上で完結。借り手が何度もオフィスまで足を運ぶ必要もない。

またエメラダ・エクイティと連携し、会社の状況に合わせて借入と増資どちらが適しているのかを提案。実際に資金を調達するところまで、エメラダのサービス上でサポートする。

「情報を登録しておきさえすれば、借入ができるタイミングでお膳立てしたり、投資型CFの提案もできる。部分的にではあるが『オンライン上の外部CFO』のような形で、創業期や成長期の企業のファイナンス面をサポートしていきたい」(澤村氏)

主なユーザーとしているのは20〜40代のネットに精通している経営者や財務担当者。今すぐに資金が必要なわけではないが、少し先のタイミングで資金調達を検討しているスタートアップも、一度情報を登録しておけばエメラダ側で分析しサポートを受けることも可能だ。登録料は無料となっている。

銀行APIの開放でオンラインレンディングの可能性が広がる

近年、日本のFintech界隈で注目されているのが銀行のAPI公開だ。口座残高を調べるといった「参照系API」にしろ、外部サービスから銀行振込をするといった「更新系API」にしろ銀行APIの開放が進む。エメラダ・バンクもまさにそうだが、銀行口座の決済情報にアクセスして、入出金情報を取得・分析することもできるようになってきた。

もちろんどんな事業者でも自由にできるというわけではない。この点については「改正銀行法の中で企業の口座情報を取得する要件を金融庁が定義している。エメラダ・バンクについては金融庁とコミュニケーションを取りながら準備を進めてきた」(澤村氏)という。

もうひとつ、サービスを立ち上げるにあたって同社が取り組んでいたのが金融機関との連携だ。「既存の銀行が貸せていない企業に貸し出す」のがエメラダ・バンクの特徴でもあるが、基本的には銀行と連携して運営する必要があるというのが澤村氏の考え。

「法律面の議論もあるが、(サービスの特性上)コンプライアンス基準やセキュリティ基準を満たしているかどうかが重要。その点でリリースのタイミングで複数の金融機関と連携できていることは大きい」(澤村氏)

創業期から成長期まで、企業のファイナンスを支える

これまで約半年にわたって株式投資型クラウドファンディングを提供してきたエメラダだが、今後は2つのサービスを密に連携させ、各企業を長い期間に渡り継続して支援することを目指していくという。

「スタートアップを含め未上場企業ではビジネスを回すのにリソースが割かれ、財務があと回しになりやすい。この役割をエメラダが補完することで、手間をかけずとも上手くいくようにしたい。その意味でローンとエクイティはセット。創業期はエクイティ、少しずつ事業が軌道に乗り始めた移行期でデットも検討し、本格的な成長期にはよりいい条件でデットを提供する、など企業のフェーズやニーズに合わせて最適な資金調達手段を選べるプラットフォームを目指す」(澤村氏)

今後はそれぞれのフェーズに合わせた機能の拡充や、AIを使ったレコメンデーション機能などの開発にも取り組む予定だ。

エメラダは2016年10月の設立。野村證券、ゴールドマン・サックス証券を経て起業した澤村氏を中心に、金融機関出身のメンバーも多い。2017年4月にはD4Vなどから2億円を調達している。

スタートアップに新たな資金調達手段を提供する日本版AngelList「エメラダ・エクイティ」が本日ローンチ

スタートアップがビジネスを拡大するために資金を調達する場合、その対象はエンジェル投資家やベンチャーキャピタルとなるのが一般的だった。これはTechCrunchで日々紹介しているスタートアップの資金調達に関するニュースを見ても、そのような傾向にあることがわかる。

だが近年クラウドファンディングやICOのように、資金調達の手段も少しづつ広がってきた。本日エメラダがローンチした「エメラダ・エクイティ」もまさにそのひとつ。同社が4月に2億円を調達した際には「日本版AngelList」とも紹介したが、エメラダ・エクイティは株式投資型のクラウドファンディング(以下株式投資型CF)という形でスタートアップ企業と個人投資家を結ぶプラットフォームだ。

エメラダ・エクイティを活用することで、スタートアップはVCやエンジェル投資家に限らず国内の幅広い個人から資金を調達できる。検討開始から払込までが最短1ヶ月以内に完了するため、資金調達に時間をかけすぎず事業の成長にコミットできることもメリットだ。

投資家1人あたりの出資額は最大50万円まで、スタートアップの資金調達は1億円未満と金額には上限はあるが、投資家側も今までは投資する機会のなかったスタートアップ企業に投資できるチャンスにもなる。

出資を受けているスタートアップを対象とした株式投資型CF

株式投資型CF自体は日本でもいくつかでてきているが「すでにプロが出資しているスタートアップが対象」で、かつ「新株予約権を活用」したプラットフォームというのは新しい。

まずエメラダ・エクイティに参加できるのは将来的にエグジットを見据えているスタートアップのみだ。それもエンジェル投資家やVCなど、プロの投資家がすでに出資をしていることをひとつの基準としている。エメラダ共同創業者で代表取締役社長兼CEOの澤村帝我氏によるとシードからシリーズA前後のブリッジファイナンスという形をメインに想定していて、「プロの投資家の補完効果」を得たいスタートアップに活用して欲しいという。

要は投資家は出資企業に成功してもらいたいので、スタートアップは人の紹介やプロダクトのPRなど積極的なサポートを受けられる可能性があるということだ。投資家側もバックグラウンドチェックがあり、長期的な視点と熱量を持って投資先をサポートすることを望む人が主な対象。そのような個人にプロ投資家との「相乗り投資」の機会を提供することで、スタートアップコミュニティを盛り上げていくこともエメラダ・エクイティの狙いだ。

「アメリカでもすでに出資をうけている会社が株式投資型CFを活用する事例が増えている。個人投資家にとっても、誰も投資をしていない会社に投資をするというのは不安。成功するスタートアップはエンジェル投資家やVCが出資しているケースが多いので、そのような企業に様々な個人が投資をするというのがトレンドだ」(澤村氏)

また新株予約権を活用しているのもユニークなポイント。これについては澤村氏自身が野村証券やゴールドマン・サックス証券で資金調達の実務に携わった経験が影響しているそうだ。

「普通株式や優先株式を活用すると多数の個人が議決権を有してしまうので、総会対応や、その後の資金調達やM&Aを実行する際などに支障がでることもある。少ない人材で事業を立ち上げなければならないスタートアップにとって成長やエグジットの阻害になっては致命的だ。新株予約権であれば、投資家はエクイティとしてのリターンを得る機会がある一方で、日々の経営には関与することはなく、スムーズな意思決定体制を維持できる」(澤村氏)

新株予約権を活用することのメリットは管理負担の削減だけではない。バリュエーションの決定を次回調達時に先延ばし、株式持分の希薄化を適正水準に抑えるという効果もある。これは主にシード投資で用いられるコンバーティブル・ノート(転換社債)を改良したコンバーティブル・エクイティと呼ばれる手法だ。

エメラダには澤村氏の他にも証券会社で資金調達やM&Aの実務に携わったメンバーが集まる。エメラダ・エクイティの開発時には社内のメンバーに加え、スタートアップやエンジェル投資家、VC、証券会社の担当者など業界関係者と意見交換をしながら最適なスキームを検討したそうだ。

今後はM&Aアドバイザーとの連携やベンチャー・デットの供給等の施策も考えているとのことで、このようなサポート体制もエメラダ・エクイティの特徴といえるだろう。

1号案件はVCが支援するクラフトビール会社

エメラダ・エクイティについては数十社から検討したいという声が上がっているそうだが、その中で第1号案件としてプロジェクトを開始したのはクラフトビール「KAGUA(馨和)」を生産するFar Yeast Brewing(ファーイーストブルーイング)だ。渋谷で直営の飲食店「Far Yeast Tokyo ~Craft Beer & Bao」を経営していて、こちらに足を運んだことがあるという読者もいるかもしれない。

Far Yeast Brewingはメルカリの子会社となったザワットにも出資をしていたエンジェル投資家の江見淳氏が、香港に拠点を置くNet Capital Partnersを通じて出資している企業。生産量を拡大した後にIPOを見据えていて、今回はエメラダ・エクイティを通じて4000万円強の調達を目指す。

澤村氏によるとこのようなエンジェル投資家との関係性を特に重要視しているそう。エメラダ・エクイティの特徴が「すでにプロが出資しているスタートアップが掲載されたプラットフォーム」ということもあり、歴戦のエンジェル投資家に案件をつないでもらえるようなインセンティブ設計なども検討しているという。

アメリカではAngelListを筆頭にCircleUpFundersClubなどが株式投資型CFサービスを通じてスタートアップの資金調達を支えているが、日本でも同様のプラットフォームのニーズはあるのだろうか。

澤村氏は日本でエメラダ・エクイティを立ち上げることについて「米国のように各大手プラットフォームが年間数百億円単位で株式の発行を担う世界にはすぐにはならないだろう。だが日本の起業は急速に増えており、エクイティファイナンスの総額自体が増えているので、モメンタムは強い。一方で、まだまだスタートアップコミュニティに関与できていない層も多いので、広めていく上では最適なタイミングだと考えている。中長期の話だが、海外のスタートアップ等も誘致できればさらに活発化するだろう」と話してくれた。