ミラティブの次の一手はアバター×カラオケ配信、新機能「エモカラ」公開

2019年2月にさらなる事業拡大に向けて軍資金として30億円超えの資金調達を実施したミラティブ。調達資金の使い道としてアバター機能「エモモ」の機能開発や新規事業の立ち上げなども予告していた同社の、新しい取り組みが明らかになった。

アバターを用いて“顔出しせずに”カラオケ配信ができる新機能「エモカラ」だ。

まずは実際に見てもらった方が早いと思うので、以下の動画をチェックしてみてほしい(※途中からカラオケが流れるので再生時は音量にご注意いただきたい)。

このエモカラは本日5月22日よりライブ配信プラットフォーム「Mirrativ(ミラティブ)」内で公開された新機能。配信者はアバター機能であるエモモを通じて、好きな楽曲のカラオケ配信ができるようになる。

配信者の歌に合わせてアバターが動くと共に画面上に歌詞が表示される仕組みになっていて、視聴者は通常の配信と同様にギフトを送ることが可能だ。

エモカラ用の音源はJOYSOUNDが提供。リリース時点では5500曲がエモカラで歌えるという。

グローバルで注目集める「ライブ配信×カラオケ」領域

ミラティブが次の一手としてエモカラを選んだのはなぜか。

同社代表取締役の赤川隼一氏は(1)既存ユーザーの行動(2)マーケット(3)コンセプトという3つの軸から、その背景を明かした。

まず1つ目に既存のMirrativユーザーの行動だ。赤川氏によると初期の頃から一部のユーザーがカラオケに近い遊び方をしていたそう。たとえば配信中に他のユーザーと電話を繋いでアカペラでのど自慢大会のようなことをしたり、弾き語りをしたり。

ミラティブでは基本的なスタンスとして、ユーザーの行動を観察した上で望まれているものを作っていくことを重視してきたため、そんな使われ方を見て「ライブ配信と歌の掛け算」の可能性を感じていたという。

それに関連するのが2つ目のマーケットの話。というのもライブ配信×歌(カラオケ)領域は近年グローバルで盛り上がっている領域だからだ。

たとえば2018年に米国でIPOを果たしたテンセント・ミュージックの売上の7割は配信プラットフォームが創出していて、その中核をカラオケアプリの「全民k歌(WeSing)」が担う。4月にTwitchが初めて公開したゲーム「Twitch Sings」もカラオケとライブストリーミングを掛け合わせたようなものだった。

日本国内でも「LINE LIVE」や「SHOWROOM」を始め、ライブ配信プラットフォームのカラオケ機能の導入が進んでいる。

またカラオケアプリ単体で見ても「Smule」が様々な国でアプリランキングの上位にランクイン。日本では「nana」のようなアプリをカラオケ的に使って楽しむユーザーもいる。

これらの状況からライブ配信とカラオケの相性の良さはもちろん「カラオケに使えるアプリケーション自体にニーズがあり、マーケットポテンシャルも大きい」というのが赤川氏の見立てだ。

「マーケットに関してはVTuberの流れを見ていても、去年の夏頃から歌関連のVTuberが増えてきた。バーチャルシンガーの『YuNi』などだけでなく、人気VTuberもライブ活動に取り組み始めている。バーチャルと歌の組み合わせは初音ミクの流れを組んだものでもあり、そこの相性も良いと感じていた」(赤川氏)

歌は得意でも容姿に自信がない人が輝ける場所へ

そして3つ目がMirrativのテーマにも直結するコンセプトに関することだ。2月に取材した際にも赤川氏は同サービスの重要なテーマとして「人類の可能性を解放すること」を挙げ、アバターなどの仕組みを通じてその後押しをしていきたいと話していた。

今回のアバター×カラオケには、その観点でも大きなやりがいを感じたという。

エモカラの画面(曲「君はロックを聴かない」、作詞:あいみょん)

「世の中には歌には自信があるけど、自分の容姿には自信がないという人はたくさんいる。その人たちがエモカラを使うと『美形でイケボで歌が上手くて、超すごい』、そんな流れも作れる。ここが自分自身で1番テンションが上がっているポイント。純粋に才能にフォーカスして、その人が持っている可能性を追い求めていくことは、特にアバター機能をリリースして以降の醍醐味の1つ」(赤川氏)

これはアバターを介することの大きな特徴と言えるだろう。「セルフィー型のカラオケ配信の場合はどこまで行っても容姿の壁にぶち当たる」(赤川氏)が、アバターならその壁を壊せる可能性があるからだ。

「まさに自分もそうだが、若い時にバンドを組んで本気でミュージシャンを目指して後、現在は企業勤めをしているような人もたくさんいるはず。その中には週末の夜にカラオケに行って、思う存分弾けることを楽しみにしている人も多い。それは魂を解放している瞬間であり、同じような体験をサービス上でも提供できるのではと考えている」(赤川氏)

既存のカラオケだけでは満たせないニーズにアプローチ

アバターとカラオケの融合に以前から注目をしていたのは、エモカラのプロジェクトマネージャーである河原崎ひろむ氏も同様だ。

「(Mirrativを含む)配信サービスの根本的なサービスの価値を高めるには、配信内容に手を入れていく必要がある。世の中にある配信コンテンツの中で良い性質を持っているものは何か探していく中で、真っ先に思い浮かんだものの1つがカラオケだった」(河原崎氏)

たとえば一般の配信者にとって雑談をメインとしたライブ配信はトークスキルが必要となり、配信のハードルが上がる。顔を出して配信する場合はなおさらだ。

一方でMirrativが初期から力を入れてきたゲーム実況やカラオケは、それを楽しんでいるだけでも間が持ちやすい。「そもそも配信することの目的がゲームやカラオケ自体に向かっているのがポイント。純粋にそれが楽しいから、その様子を流している構造」(河原崎氏)であり、視聴者も喋りが苦手な配信者のコンテンツであっても楽しむことができる。

「既存のカラオケにはまだまだ切り込める余地が残っている。みんなで店舗に集まる必要があるし、歌があまり得意ではなければネガティブな気持ちになることもある。また複数人で行くと自分が歌える時間が限定される場合も多い。それはそれで楽しいが、単純にたくさん歌いたい時や思いっきり歌ってストレスを解消したい場合など、今までのカラオケ店だけでは満たせないニーズもある」(河原崎氏)

ひとりカラオケ専門店が広がってきていることからも、それを求めている人が一定数存在することがわかる。ただ近隣にそのような店舗がなかったり、もしくはヒトカラに抵抗がある人もいるだろう。

もちろん少しでもいい音響施設で歌いたい時や近隣を気にせず大声で叫びたい時など、店舗の方が適しているケースもある。たとえばマンションなどでエモカラに熱中しすぎた場合、視聴者は喜んでくれてもご近所から苦情がくるかもしれない。

その辺りは用途に渡って棲み分けていく形になりそうだけれど、エモカラでは「アバターを用いたスマホ配信」という形で、既存のカラオケとは異なる新しい選択肢を提供していきたいという。

アバターやライブ配信との掛け合わせでエンタメ市場をアップデート

写真右からエモカラのプロジェクトマネージャーを務める河原崎ひろむ氏、ミラティブ代表取締役の赤川隼一氏

河原崎氏の話では、今回の正式リリースに先駆けて一部のユーザーにテスト版を使ってもらっていたそう。最低限の機能のみを備えたプロトタイプでのテストリリースだったが、まさに1人カラオケが好きな人や、歌いたいけど顔出しはしたくない人などから反響が大きかったという。

通常のカラオケに近い感覚で「毎日はやらないけれど定期的に戻ってきて配信する」といった使い方をされた結果、継続率などのKPIが通常の配信よりも上昇する効果もあったようだ。

今後はユーザーの反応を見ながら曲数の追加や機能拡張も検討していく計画。既存ユーザーがより楽しめるだけでなく「今までいなかったような人たちが集まるきっかけとなることも期待している」(赤川氏)という。

「〇〇×アバター、〇〇×ライブ配信という形で、今後いろいろなエンターテインメント領域を塗り替えるチャンスがあると思っている。今回のエモカラをその1歩目として、これからも新たなチャレンジを続けていきたい」(赤川氏)

スマホ1台でVTuberのように生配信、ライブ配信アプリ「Mirrativ」にアバター機能「エモモ」登場

今年に入ってバーチャルYouTuber(VTuber)の盛り上がりがすごい。

つい先日には大手芸能事務所のワタナベエンターテインメントにVTuberが所属するというニュースが話題になっていたけど、ユーザーローカルが公開しているランキングを見ていても、次々と新しいタレントが生まれ多くのファンを獲得していることがわかる。

IT業界界隈でもグリーがVTuber特化型のライブエンターテインメント事業を手がける新会社を、サイバーエージェントがVTuberに特化したプロダクションを設立するなど関連する動きが加速。以前紹介した「ホロライブ」を提供するカバーを始め、この領域で事業の拡大を目指すスタートアップも増えてきている。

VTuberが活気付いた背景には、テクノロジーの進化によって誰でもキャラクターになりきって動画やライブ配信ができるような環境が整ってきたこともあるだろう。自分の分身とも言えるアバターを使うことができれば、顔出しに抵抗がある人でも参加できるようになるし、普段の自分とは違ったキャラクターを演じやすくなる。

かなり前置きが長くなってしまったけれど、8月1日よりライブ配信プラットフォーム「Mirrativ」に追加された新機能「エモモ」はまさにそのような世界観のサービスだ。

スマホ1台でVTuberのように独自のアバターを作成し、生配信やゲーム実況ができることが特徴。まずはβ版として一部のユーザーから限定的に公開する。

アバターの作成からライブ配信やゲーム実況まで完結

Mirrativについてはこれまでも何度か紹介している通り、自分のスマホ画面を共有しながらライブ配信ができるプラットフォームだ。特にゲーム実況で使われているケースが多く、スマホゲームの配信者数では日本一の規模(2018年7月時点、ミラティブ調べ)になるという。

今回リリースしたエモモ(現時点ではiOS版のみ)はこのMirrativ上で使えるアバター機能という位置付け。Mirrativで配信できるスマホ端末が1台あれば、作成したキャラクターを声に合わせて動かしながら生配信することが可能。アバターの目や口、輪郭、髪型、髪や肌の色、洋服は自由に着せ替えられ、設定した喜怒哀楽の感情に応じて表情や動きも変化する。

iPhoneXや外部ツール等の特殊機材は不要。カメラ機能も使用しないため、自分の姿を配信に映すことなくキャラクターになりきれる。

すでにインカメラ等を使ってVTuber風に自分をキャラクターとして表示するサービスは存在するが、カスタマイズの自由度があり生配信まで完結する点、そしてゲーム実況と融合する点がユニークなポイントだ。

現段階でエモモを通じてできるのは、上述したことに加えてゲーム実況時に視聴者の画面上で配信者のキャラクターを表示すること。ミラティブ代表取締役社長の赤川隼一氏の話では、今後ユーザーの反応を見ながら「ボイスチェンジャー機能や、運営側で用意したモデルだけでなく自分で作ったものなどを持ち込めるような仕組みも検討していく」という。

同機能はまずMirrativのまいにち配信者(7日以上連続で15分以上配信している配信者)に向けて提供し、徐々に他のユーザーにも開放する予定だ。

独自の身体やアイデンティティを持つことで会話が豊かに

今回Mirrativにアバター機能を取り入れた背景には、多数の配信者が顔出しをせずゲーム実況をしていること、そして共通の好きなゲームを通じて繋がったユーザーの間で多くの雑談配信が生まれていることがある。

「海外のゲーム実況や韓国のMirrativユーザーの配信を見ていると顔出しをするのが多い一方、日本のユーザーは真逆で顔出しを好まない。エモモのイメージとしてはそこにTwitterのアイコンのようなサムネイルを提供するような感覚。ユーザーが独自の身体やアイデンティティを持つことで双方のことをもっと身近に感じ、コミュニケーションが豊かになるのではないかと考えた」(赤川氏)

赤川氏によると数ヶ月前からMirrativを使ってファンとコミュニケーションをとるVTuberが自然発生に出始めていたそう。実際にVTuberのゲーム実況を見てみると、実況中はキャラクターの顔が画面に写っていないにも関わらず配信が盛り上がっている様子を目の当たりにした。

「見ている人が配信者の声から顔や身体まで想像できるのであれば、仮に配信者が写っていなくてもその人のコンテンツとして消費される。これはバーチャルYouTuberに限った話ではなく、もっと普遍的なもの。Mirrativユーザーの体験をもっと良くできると腹落ちしたのでエモモの開発を決めた」(赤川氏)

ゲーム視聴時の様子。画面下にキャラクター(エモモ )が表示される

自分独自のキャラクターを作成できれば、顔出しをしないゲーム実況文化を豊かにするだけではなく、“なりたい自分”を表現しやすくもなる。赤川氏自身もディー・エヌ・エー(DeNA)で執行役員を務めていた際に「執行役員ぽく振る舞わないといけない、(SNSなどでも)うかつな発言ができない」といった考えが頭にあったそうだ。

もちろんそれも必要なことではあるけれど、現実のしがらみから解放されて好きなものを好きと言える空間もまた、個々人の人生を良くしていくためには必要だというのが赤川氏の考えであり、Mirrativを作っている理由でもある。エモモはこの空間をアップデートする上で重要な機能になるという。

ちなみにエモモという名前について見覚えがある人もいるだろう。もともとDeNA内で運営していたMirrativの事業を承継するため、赤川氏が設立していた会社の社名がエモモだった(現在はミラティブに変更)。

「Mirrativ自体がリアルタイムで人と人が話すことで熱量が伝わりどんどん仲良くなるサービスで、ユーザーの感情みたいなものを増幅させる装置として機能している。それを踏まえるとアバター機能によって身体を持つことはこの感情をさらに加速する行為であり、よくよく考えるとエモモという言葉にもハマるかもしれないと思った」(赤川氏)

社名を決めた当時からこのアバター機能を見据えていたわけではなく、メンバーからの提案で決まったそう。最初はないだろうと思っていたが、次第に「意外とエモモかもしれない」という思いが強くなっていったようだ(なおエモモはEmotional Modelingを略したものでもあるとのこと)。

スマホゲーム実況とアバターで世界へ

このエモモをひとつのフックとして、ミラティブではさらなるグローバル展開も見据えている。

「ちょうど先日韓国で初めて韓国語のバーチャルYouTuberが出てきたが、本質的に自分以外の何かに変身したいという欲求は人類の根元の欲求であり、グローバルでもポテンシャルはあると考えている。正しいサービスを作って正しく展開すれば、日本人が大勝ちできるチャンスのある領域だ」(赤川氏)

赤川氏の話ではライブストリーミングに関して先進国と言える中国ではゲーム実況だけがぐんぐん伸び続けているそう。5月にはライブ配信サービス「YY」の子会社でテンセントも出資していた「Huya(虎牙)」がニューヨーク証券取引所に上場するなど、ゲーム実況はグローバルにおいてホットな市場になっている。

スマホにフォーカスしたゲーム実況に取り組むスタートアップは海外で出てきているものの、大きく成功するには至らずまだ空いている分野だというのが赤川氏の見解。日本で活発な「バーチャルキャラクター」という概念を組み合わせることで、ユニークな存在にもなりうるという。

「自分としてはDeNA時代にソーシャルゲームのグローバル展開を本気でやって惨敗した経験がある。Mirrativはもう1回グローバルで挑戦する価値とその可能性がある事業。世界で受け入れられるようなプロダクト、機能を作り込んでいきたい」(赤川氏)