ウェブ解析ツールやスポーツデータ解析サービスを提供するグラッドキューブは2月20日、モバイル・インターネットキャピタル(MIC)およびNTTドコモ・ベンチャーズを引受先とした第三者割当増資を実施し、総額1.5億円を調達したことを明らかにした。
グラッドキューブは2007年の設立。創業当初からリスティング広告の運用など、インターネット広告代理業を営んできた。そのデジタルマーケティングの経験を生かして2015年、サイト解析ツール「SiTest」をリリースした。
SiTestはA/Bテストツールとして誕生し、企業のウェブ担当者の課題を受け、機能を増強してきた。従来、ヒートマップ解析やショッピングカート分析など、サイトを分析するためのツールは各種あったが、ツールごとに契約し、画面もバラバラだった。ウェブ担当者はそれぞれの操作をイチから覚えなければならない。また、Google Analyticsや各種ツールでバラバラに表示される結果をまとめて、レポートを作成する手間もかかる。ヒートマップなどの画像を整理してExcelやPowerPointファイルにまとめるだけでも、相当の時間がかかっていた。
SiTestでは、こうしたウェブの分析機能をオールインワンで提供。さらにAIを搭載することで、レポートを自動作成する機能も追加された。また、ヒートマップが自動的に、アドバイス付きでダウンロードできるスマートレポートも提供している。
グラッドキューブ代表取締役CEOの金島弘樹氏によれば、SiTestは現在、30万サイトで採用されている。アジアではトップクラスの導入数となっているそうだ。
こうして広告運用に加え、サイト解析やサイトの最適化サービスを提供していく中で、グラッドキューブではメディアの最適化についても相談を受けるようになった。広告価値やブランディングの向上につなげるため広告配置の改善を行い、月間100万PVだったサイトを1年で1億PVに上げた例もあるという。
金島氏はこのころ「広告運用だけではいずれ、機械学習に置き換えられてしまうだろう」と考えていた。そこで、これらメディアの最適化でつかんだ知見を基に、メディア分野への進出を図った。「テーマとしては美容健康か、スポーツを検討していた」(金島氏)とのことだが、選択したジャンルはスポーツだった。
金島氏がスポーツメディアへの進出を選んだ理由のひとつが、市場規模だ。「スポーツ関連市場はGDPの3%の需要を占めると言われている。2012年時点では、スタジアム・アリーナとスポーツ用品販売などで約5兆円規模だった。それがオリンピックイヤーから5年後の2025年には、IoT活用やスポーツツーリズムなどの周辺産業も含めると、15兆円規模になると期待されている」(金島氏)
また、米国ではスポーツに関するアプリの普及も進み、データ解析サービスやスポーツニュースなどのメディアの勢いも盛んだが、日本では5年ほど遅れて、ようやくデータ解析が使われるようになってきた段階で、まだ発展の余地が大きい。金島氏は、広告運用やサイト解析で得た情報を生かして、2016年9月、スポーツ解析メディアの「SPAIA(スパイア)」をローンチした。
さらに金島氏は、SPAIAについて「今後、スポーツツーリズム、アスリートのセカンドキャリア支援、マーケットプレイス、アカデミックスポーツ、スポーツゲームなどにも利用を広げ、スポーツ解析の分野でのプラットフォーマーを目指す」と話している。
「金銭以上の価値が調達で得られると考える」
金島氏は「実はSiTestをリリースした2015年ごろから、連携できるVCを探していた」と言う。「その際に、単に投資だけでなく、事業主体があるコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)と連携したかった。これはグラッドキューブが提供する事業の価値を向上したかったから。これまでは折り合いが付くVCがなかなか見つからなかったが、今回はよい連携ができると期待している」(金島氏)
グラッドキューブは、広告運用事業を設立当初から続けていることは、先にも触れた。Google Premier Partner Awardsなどの各賞を受賞してきた実績も持っている。一方、今回の出資元であるNTTドコモ・ベンチャーズが属するNTTグループでも、解析システムやメディアの運用を行い、広告にも力を入れている。
金島氏は「今回の出資では、グラッドキューブの広告の質にも着目してもらっている。今後、広告、サイト解析、サイト最適化の部分でノウハウを共有していきたい。SiTestを活用し、媒体ごとに配信精度を高める仕掛けや、解析ツールの共同開発なども行っていければ」と話している。
広告解析の分野では「MICやNTTドコモ・ベンチャーズの既存投資先とのアライアンスも確度が高い、と評価されている」と金島氏は言う。
また、スポーツ解析メディアのSPAIAは、モバイルからの利用割合が85%を占め、さらに増加傾向にあるという。「スポーツメディアでは『DAZN(ダゾーン)』などもスマートデバイス対応が進んでいる。MICとの連携により、SPAIAもスマホシフトを狙っていく」(金島氏)
SPAIAについては「NTTドコモが提供するメディアとの間でも、データ解析と記事品質の向上の両事業でシナジーがある」と金島氏は考えている。「SPAIAのトラフィック、ユーザー数は伸びていて、手応えがある。広告掲載の依頼も増えて、影響力が出てきた。これはコンテンツの権利処理をきちんと行うなど、王道でメディア事業をやっていることへの評価と捉えている。今回の調達も踏まえて、次のステップへ行く時だ」(金島氏)
グラッドキューブでは、SPAIAでの記事配信体制の強化も検討しているようだ。「当初キュレーションでコンテンツを用意していた部分もあったが、現在は解析データなどを使って記事を制作し、独自配信する体制を整えつつある。例えば野球なら試合のリアルタイム速報で、AIを使って配球予想を出すコンテンツがあるが、その予測精度をより高める、といったこともやりたい。NTTドコモが運営するdメニューに記事を提供することや、独自配信も考えている」と金島氏は話している。「連携できること(の種類や内容)を考えると、金銭以上の価値が調達で得られると考えている」(金島氏)
写真中央:グラッドキューブ代表取締役 CEO 金島弘樹氏