AIでホームケア製品、食品・飲料、化粧品といった消費財の研究開発を支援するTuring Labsが約18.8億円調達

デスクワークの従業員にとってリモートワークはいまやニューノーマルとなり、これまでに多くのテック企業がこの変化に対応した事業を急ピッチで拡大させてきた。しかしご紹介するTuring Labs(チューリング・ラボ)というスタートアップは、同様の課題に対応しているものの、デスクワークではなく研究所で働く人々のために取り組むという異質なものである。同社は成長にともない、今回1650万ドル(約18億8000万円)の資金調達を達成した。

今回のシリーズAラウンドはInsight Partners(インサイト・パートナーズ)が主導し、これまでの支援者であるMoment Ventures(モーメント・ベンチャーズ)、Y Combinator(Turing Labsは2020年のコホートに参加)、そして新たな個人投資家であるMedialia(メディアリア)のCEO兼共同設立者のBorge Hald(ボルヘイ・ハルド)氏も参加している。今回の調達資金は研究開発の加速、エンジニアリングチームの拡大、事業の拡大、さらなる市場開拓を図るために活用される予定だ。

Turing Labsのプラットフォームは、研究所が新製品を作るプロセスを高速化するのを支援するというものである。消費財メーカーと協力し、ホームケア製品、食品・飲料、化粧品などのための新製法を考案するために、同社の技術が活用されている。AIを用いて新製品のためのさまざまな成分の組み合わせをシミュレーションし、実際の技術者が組み立てるより小さなサブセットを決定するのだが、今回の投資は採用や事業開発の他、同社独自の研究開発の継続のため活用される予定だという(プラットフォームにより多くの機能を追加することで、例えばパッケージや加工食品の代替材料などにも拡張していく予定)。

Turing LabsをAjith Govind(アジト・ゴビンド)氏と共同で設立したCEOのManmit Shrimali(マンミット・シュリマーリ)氏は「当初は製法に重点を置いていましたが、現在は成分やパッケージなどデジタルでシミュレーションや最適化が可能なものであれば何でも対象としています」とインタビューの中で話しており、また研究開発のあり方の変化にもチャンスが潜んでいると伝えている。「以前はプロセスの90%が手作業でしたが、現在は90%がデジタル化されています」。

また、新たなカテゴリーに進出する機会も増えているとシュリマーリ氏は話している。例えば、肉や乳製品に代わる植物由来の食品が増えていることから、まったく新しい食品をAIを活用して開発するという道が開かれているのである。

Turing Labsはすでに誰もがよく知る世界最大級の消費財メーカー数社と提携しているが、その企業名は公表されていない。今後はこのリストを拡大するとともに、すでにTuringを利用している企業との連携も進めていく予定だという。

以前Turingを紹介したときにも述べたのだが、CPG(消費者向け包装品)の世界において研究開発室は非常に重要な役割を果たしている。

製品が最終的に生産に移されるまでに、研究室では製品が開発され、テストされ、顧客、マーケティング、予算および製造部門などからの意見を受けて調整されて、その後またテストや調整が行われ、という具合に気の遠くなるような過程がある。同社が提携している大手クライアントの1社では、テストだけで4億ドル(約455億円)近くを費やしているという。

新型コロナウイルスが出現する以前から研究開発部門は大きなプレッシャーにさらされていた。予算が削減される一方で、責任を負わなければならない要求や変数の数は増えるばかりである。研究開発部門は、消費者に興味を持ってもらえるような新製品(または多くの場合、製品の増強)をスケジュール通りに生産することが求められている。膨大な量の意味不明な成分を含んだ商品については、環境や健康に関する新たな懸念から、大衆向け商品の成分をいかに簡素化し、改善するかを考えなければならなくなった。また、小規模な消費者直販ブランドが消費者の新たなテイストに合った競争力のある製品をいち早く市場に投入し、大手の競合他社を打ち負かしているのも事実である。製法の組み合わせを検討するというのは、他のすべての変数を含めて時間とコストのかかるプロセスなのである。

パンデミックがこの問題をさらに複雑にし、企業は研究所などの物理的環境で過ごす時間を減らすための方法を考えなければならなくなった。

こうしたさまざまな課題をAIで解決しようというのがTuring Labのアプローチである。複雑な計算を機械が代わりに行い、人間のチームが行うよりも速く処理するというようなよくあるアプローチとは異なり、同社はそのコンセプトを製品の製造や改良面に適用してステップを削減することにより、技術者が行うべきことを最小限にしようとしているのだ。理論的には、これによって人間が新しいイノベーションに集中することができるようになるのだが、他のAIイノベーションと同様、Turing Labsのプラットフォームが最終的にどの程度賢くなり、技術者を全プロセスから完全に切り離すことができるようになるか否かはまだ誰も知る由もない。

Insight PartnersのマネージングディレクターであるJosh Fredberg(ジョシュ・フレッドバーグ)氏は「原材料の内容を含む消費者の嗜好が急速に変化していることに加え、競争力のある独立系ブランドが多く出現していることから、CPG企業は新製品をより早く開発し、既存のポートフォリオを進化させる必要に迫られています」と声明中で伝えている。「Turing Labsは開発プロセスを自動化して結果を予測することを可能にし、CPG企業が革新的な製品をより早く市場に投入できるよう支援します。Turing LabsはCPGの組織全体で市場発見と製品開発をシステム化、高速化する能力を持っており、その能力は業界でも傑出しています。Turing Labsのチームが成長を続ける中で、ともに協力していけることを楽しみにしています」。

画像クレジット:Luis Ascui / Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)