ベイエリアの黒人テックリーダーが人種差別的不公正に向けた行動を呼び掛け

人種差別主義者の警官による暴力という、米国の塞がらない傷口に多くの注目を集めた抗議の1週間が嵐のように過ぎた。そして、企業の創業者、人権活動家、投資家などを含む黒人リーダーの連合が、テック業界の黒人に、黒人の生活を脅かし続けている組織的な圧力に対抗する行動を起こそうと呼び掛けた。

Black Tech for Black Lives」(黒人の命のための黒人のテクノロジー)と名付けられたこの運動は、「より公正な世界築くために最前線で働いているリーダーたちの支援」を目指した、具体的で実行可能な行動を集約するものだ。サンフランシスコ湾岸地区(ベイエリア)のテクノロジー産業の中心地で、警察改革、地方選挙、テック業界により多くの有能な黒人を採用し支持するといった具体的な指針と目標を掲げて活動するコミュニティーリーダーたちの地位を高めることを誓約している。

またその誓約には、警官の過剰な暴行により8分間以上にわたり首を押さえ付けられ死亡した一般市民、George Floyd(ジョージ・フロイド)氏の名誉(NewYork Times記事)についても訴えている。この事件は全国的な運動の引き金となり、50のすべての州での警察の蛮行に抗議する歴史的なデモ行動に結びついた。

この誓約に署名した主要人物には、ReadySetのCEOであるY-Vonne Hutchinson(イボンヌ・ハッチソン)氏(未訳記事)、Black and Brown FoundersZebras UniteのAniyia Williams(アニヤ・ウィリアムズ)氏、FastlyのMaurice Wilkins(モーリス・ウィルキンス)氏(未訳記事)、 Just CitiesTechEquity CollaborativeのDarrell Jones III(ダレル・ジョーンズ3世)氏などが含まれている。 発表では、悲嘆に暮れるこの時期の、テック業界に対する、そして今回の事件につながる人種差別主義者による暴力という長い歴史に対する、彼らに共通する特有の観点が示された。

テック業界は共犯者です。テック業界の黒人として私たちは、黒人への身体的暴力に対抗できる特別な立場と条件を有しています。私たちは、この苦痛を身近に感じられる立場にありながら、最悪の身体的暴力をほとんど回避してきました。しかし、私たちも衝撃を受けています。職場や外の社会で、私たちの訴えはほとんど聞き入れられず、精神と心に傷を負っています。

彼らは、すべての人に対して、次の5つの目標のうちひとつでも協力してほしいと訴えている。

  1. 警察の公正化を求める研究所であるCenter for Policing Equityや公民擁護団体Color of Changeなどの団体を支持して、ジョージ・フロイド氏、Ahmaud Arbery(アーマド・アーベリー)氏、Breonna Taylor(ブレノア・テイラー)氏、Tony McDade(トニー・マクデール)氏を殺害した人物の速やかな起訴に向けて行動する。
  2. メッセージの発信、または人権団体のElla Baker Center for Human Rights、オークランドの警察の説明責任を求める連合Coalition for Police Accountability、ソーシャルメディアや公共の場での人種の特定に反対する団体SF Interrupting Racial Profilingなどへのボランティアや寄付を通じて、警察の改革と説明責任を求める。
  3. ベイエリアの警察署長や警察組合のリーダーたちに圧力をかける。
  4. 黒人従業員の雇用、黒人企業創設者への投資を行い、黒人の昇進、指導、金銭的援助によって成功への支援を約束する。
  5. さまざまな人種を支援し、人種的および社会的公正化に尽力した人権擁護の実績を持つ人たちを、市長、市議会議員、地方検事などの市の要職に選挙で送り込む。
  6. 行動の呼びかけの全文と支援団体へのリンクは、Black Tech for Black Livesのサイトにある。

この誓約の署名者は150人を超えて増加している。Y CombinatorのMichael Seibel(マイケル・シーベル)氏、Backstage CapitalのArlan Hamilton(アーラン・ハミルトン)氏、Erica Joy(エリカ・ジョイ)氏、Bärí A. Williams(バリ・A・ウィリアムズ)氏、元オバマ財団のCTO、Leslie Miley(レスリー・マイリー)氏、Kapor Capitalのパートナー、 Ulili Onovakpuri(ウルイ・オノバクプリ)氏、We Read TooのKaya Thomas(ケイヤ・トーマス)氏、Wayne Sutton(ウェイン・サットン)氏、PitchBlackの創設者Stephen Green(スティーブン・グリーン)氏、The Human Utilityの創設者Tiffani Ashley Bell(ティファニー・アシュレ−・ベル)氏、TechEquity Collaborativeの共同創設者Catherine Bracy(キャサリン・ブレイシー)氏、そしてTechCrunchからはMegan Rose Dickey(ミーガン・ローズ・ディッキー)も署名した。

「今回の事件で明らかになったのは、もう元には戻れないということです。黒人の命も、黒人の将来も、どちらも重要であることを団結して確認しましょう」と団体は書いている。

この運動では、抑圧された人たちの擁護に消極的な立場を取り「共犯者」になってしまわないよう(Indigenousactio記事)、白人にも行動を促した。たとえそれが、法律を超えて組織的な黒人差別に立ち向かうことを意味するとしても、平等と公正のための積極的なアプローチを呼び起こす活動の枠組みに参加を呼び掛けている。

TechCrunchの取材に対して、ジョーンズ氏は誓約の背景について、そして今の警察の不公正な行動と組織的黒人差別に対する抗議の波が本物であり、過去の全国的運動に比べても、国家的な苦痛を恒久的な変革へつなげる可能性があると信じる理由を聞かせてくれた。

「今のアメリカの黒人運動の状況は、ファーガソン氏のときの黒人運動の状況に比べて、明らかに切実です。それは新型コロナウイルスと時期的に重なったことが大きい」とジョーンズ氏はTechCrunchに話した。

「失業率のレベルを見ても、コミュニティーでの新型コロナウイルスによる健康被害の程度が不均衡な状況(NPR記事)を見ても、事業の損失の大きさの違い(PBS記事)を見ても、さらには官民パートナーシップやその他同様の取り組みから資金を供給される事業の配分の差を見ても、すべての分野において、いまだに私たちは、不当に不利な立場にあります」。

パンデミックにより数百万人の米国人が経済的な打撃を被るや、突如として無条件のベーシックインカムが大きな話題になったように、新型コロナ禍は組織的差別によってアメリカ黒人の健康転帰に重大な影響が出ているという議論(NewYork Times記事)も加速させているとジョーンズ氏は考えている。

こうした議論が進めば、連邦政府の「ある程度信頼できる、理性的で慈悲深いリーダーの不在」が、地方で起きている変化(本当の改革が起きている)に大きな注目が集まるようになるとジョーンズ氏は言う。

「全国の人々がこぞって議論に参加するようになれば、全国的なリーダーの不在は埋められるでしょう。しかし、この状況を変える上でみんなができる最大のことは、まさに今、自分が住んでいるその場所を変えることなのだと、みんなに理解して欲しい。少なくとも、意識して欲しいのです」とジョーンズ氏は話していた。

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画像クレジット:Photo by Mark Makela/Getty Images / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

なぜ今、テック業界は女性問題に力を入れるべきなのか――声をあげはじめた被害者たち

テック業界における性差別はこれまで公然の秘密のように扱われてきたが、ここ数年の間に私たちは転換期を迎えたようで、声をあげる女性の数は増えつつある。

最近では、6人の女性がVCのJustin Caldbeckからセクハラを受けたと暴露した。そのうち3人は報復を恐れて名前を伏せたが、残りの3人は実名を公開しており、この傾向は強まりつつあるように見える。

彼女たちによれば、Caldbeckは女性の太ももをテーブルの下で掴んだり、プレゼンしていた女性に対して続きをホテルの部屋で行うように誘ったり、性的なメッセージを送ったりといったセクハラ行為におよんでいたという。さらに、彼の不適切な言動はBinary Capital(ファウンディング・マネージング・パートナーだった彼は、同社から「無期限の休職」を言い渡された)時代よりも前から続いていたようだ。

実名を公開した女性のひとりであるNiniane Wangは、Medium上のポストに「7年間ものあいだJustinの行為を暴露しようとしていた」が、Caldbeckが記者を脅していたため、この話をなかなか公にできなかったと記している。

それでは、なぜ最近セクハラ問題についてオープンに語る女性が現れはじめたのだろうか?

なぜ今なのか?

Susan FowlerはUberの文化を根底から変えたと言われている。彼女以前だと、Ellen Paoが女性差別を理由にKleiner Perkinsを訴えた。結果的に彼女は敗訴したが、この事件がテック業界の女性問題に関する議論に火をつけたと言われている。最近ではトランプ大統領やBill Cosbyの女性問題を受けて、世界中で500万人もの女性や支持者がウィメンズ・マーチに参加し、アメリカではベトナム戦争反対運動以来、最大規模のデモとなった。「女性の権利は人権」というメッセージを伝えるために行われたこのデモで、どれだけ多くの人がこの運動を支持しているかということが明らかになり、真実を伝えようとしている人たちにとっては大きな励みとなった。

上記のような出来事や、力を持った男性であればセクハラ行為も隠蔽できてしまう現状に嫌気がさした女性たちの存在を考えると、今や女性は声をあげるのを恐れなくなったばかりか、声をあげなければいけないと感じるようになったということがハッキリとわかる。

スターなら皆なんでもやらせてくれる

「股間を掴め」で終わるこの有名な言葉は、当時はまだ大統領候補だったドナルド・トランプのものだ。2005年のBilly Bushとの会話から抜き出されたこの言葉は、選挙活動中の民主・共和両党に大きな衝撃を与えた。これをロッカールームトーク(公の場では話せないような下品な内輪話)と片付ける人もいるが、未だにこの発言(やその他の問題発言)を受け入れられない人もいる。

インターネットは、女性を餌食にするような男性を人目にさらす上で有用なツールになりえる。Caldbeckの記事がそれを物語っている。Uberの件も、Fowlerが女性蔑視で男性中心の企業文化に関する暴露記事を公開したことで大きな問題となった。どうやらUberは以前から数々の問題(一連の訴訟や業績の傾き、海外市場での問題など)を抱えていたようだが、Fowlerが2月中旬に公開した「Uberでの極めて奇妙な1年間について」のポストがCEOのTravis Kalanickら幹部の失脚を含む、同社の大改革のきっかけとなった。

しかし未だに、女性が声をあげるにはかなりの勇気が必要だ。インターネット上では、声をあげた被害者が逆に非難されることもよくある。実名や顔を公開することで、発言の妥当性を疑うような質問や嫌がらせ(「そのとき何を着ていたんですか?」「そんな遅くに二人っきりにならなければよかったのに」等)を受ける可能性は高くなりさえする。

さらに、セクハラや性的暴行は立証しづらい問題だ。Bill Cosbyの裁判を見てみればその様子がよくわかる。30人もの女性が彼を同じ罪で訴え、Cosbyが暴行を繰り返していたことも公然の秘密であったにもかかわらず、評決不能で裁判はやり直しになった。

自分の不幸な経験について公に語るというだけでも十分に恐ろしいことなのだろう。Caldbeckの被害者3人も個人情報を明かしていない。真剣に取り合ってもらえないばかりか、投資や職業など自分の人生に関わる重要事項をコントロールできる立場にある人からひどい仕打ちを受けていると、女性たちも自分たちは重要ではないのだと思いこんでしまう。

しかし、テック業界にも望みはある。Cosbyやトランプは報いを受けなかったものの、シリコンバレーでもこれまでとは違う結果が出始めている(少なくともここ数か月では)。

まだまだ続く長い道のり

最近とあるVCのイベントに参加し、新しくそのVCに加わったパートナーのひとりに、直近の数か月でどのくらいの数のプレゼンを見たか尋ねた。「大体50件くらいですかね」と答えた彼に対し、他の人が「その中に女性は何人いますか」と続けて質問した。彼は少し考えてから、ひとりだと答えた。たったひとりだと!

その理由は「女性は起業家精神に欠ける」や「女性は素晴らしいアイディアを持っていない」といったことではない。女性が声を奪われ、ファウンダーではなくデート相手のように扱われることで、社会全体に不利益が生じている。女性への脅しが繰り返されていなければ、どれだけ素晴らしいビジネスが誕生していたかと考えると悲しい気持ちになる。

幸いなことに、今では女性が沈黙を破り「公然の秘密」について声をあげはじめた。しかし、女性が真実を伝えられるようになったからといって全てが解決するわけではない。

問題認識は改善のための第一ステップなのだ。Uberの取締役会も心から企業文化を変えなければならないと認めている。しかし、そこからアクションが生まれなければ何の意味もない。Uberは本当に変わることができるのだろうか? その答えはまだ見えないが、少なくとも彼らは企業文化の改革に向けた第一歩を踏み出したようだ。その一方で、UberやBinary Capitalの誰かだけが悪いわけではない。彼らは問題が明らかになっただけなのだ。つまり、本当に女性問題を解決するには、シリコンバレー全体が変わっていかなければならない。

では、なぜ今なのかというと、いつであろうと私たちは男性の支持者と共に(大きな)声をあげ続けなければいけないのだ。そうすれば、もしかしたら時代錯誤な男性も自分の行いが間違っていたことに気づき、彼らが人目にさらされるようになるかもしれない。

※もしもVCやテック業界で権力を持つ人からのセクハラ行為で悩んでいる人がいたら、sarah(ドット)buhr(アットマーク)techcrunch(ドット)comまで、もしくはSignalでご連絡ください。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter