米国の苦悩、新型コロナパンデミックが浮き彫りにしたデジタルデバイドへの対処法

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、多くのデジタル技術の使用を加速した。この春には、K-12校(日本の小中高に対応)や大学の大半は、オンライン学習に移行した。そこでは教師が授業をオンラインでリードし、生徒たちが課題を電子的に提出している。

世界経済フォーラムによれば、パンデミックにより2020年は世界12億人の生徒たちが「教室の外に出された」と推計されている。一方米国では、5500万人以上の(Eucation Week記事)K-12校生徒が対面指導を受けていない。

遠隔医療とビデオ会議の使用も、新型コロナウイルスの結果として、医療相談のための主要なプラットフォームとなっている。例えばForresterの分析(CNBC記事)によれば、「今年の一般的な医療訪問数は、当初3600万人と思われていた数を大幅に上回り2億人を超える」と予測されている。バーチャルコネクションにより、患者はどこにいても助言を得ることができ、幅広い医療専門知識を活用できる。

消費者が小さな小売店や大型デパートから離れるにつれて、eコマースが増えている。業界調査によれば(Yahoo! Finace記事)、「2020年5月のオンライン支出総額は、2019年5月から 77%増えて、825億ドル(約8兆6000億円)に達した」ことが判明した。消費者がオンライン注文と宅配の利便性を理解するにつれ、今後数カ月でその数字はますます増加するだろう。

だがこのパンデミックは、テクノロジーへのアクセスとその利用に対する劇的な不公平さを顕にした。オンライン教育、遠隔医療、オンラインショッピングに必要な高速ブロードバンドを誰もが持っているわけではない。連邦通信委員会(FCC)は、ブロードバンド格差の大部分を埋めるためには400億ドル(約4兆2000億円)かかるだろう(FCCリリース)と予測している。しかし、それでもなお多くの人びとには、動画をストリーミングして新しいサービス提供モードを利用させるノートブック、スマートフォン、あるいはデジタルデバイスが不足している。

一部の人がオンラインの世界外にいるというだけでなく、デジタルアクセスはさまざまなグループに対して不平等に分散している。Education Week(エデュケーション・ウィーク)の調査(Education Week投稿)によれば、低所得者の生徒が多い米国の学校にいる教師と管理者の64%が、生徒たちがテクノロジーの限界に直面していると行っている。それに比べて、低所得者の生徒数が少ない学校の場合は、その数字はわずか21%だった。問題は、単にブロードバンドではなく、生徒たちがオンラインリソースを利用できるようにする機器やデバイスへのアクセスなのだ。

ここにも相当な人種格差がある。あるマッキンゼーの分析によると、米国のK-12校のアフリカ系米国人生徒の40%、ヒスパニック系の生徒の30%が、新型コロナウイルス感染症による学校閉鎖の期間中、オンライン指導を受けることができなかった。白人の場合この数字は10%である。オンライン教育とデジタルサービスへのアクセスにおけるこれらの格差は、すでに存在している教育上の大きな不平等を広げるが、それらを新たな段階へと導く。長期間にわたってこのことが継続した場合、このような差別によって、私たちの最も恵まれない生徒たちは、進歩への大きな障壁と将来の所得喪失や経済停滞の障害に晒されることになる。さらに悲惨なことに、この格差を回復できなくなる転換点があるかもしれない。

これらのタイプの不平等は、深刻な社会的経済的影響を招き、解消不能の格差を生み出す容認し難い不正義なのだ。上記に挙げたものに類する状況が、所得格差を増大させ、社会グループ間の機会格差を広げ、そうした人たちを低賃金雇用、健康保険のない一時的雇用、または完全な失業へと追い込んでいく。デジタルスーパーハイウェイにアクセスすることができないと、オンライン教育、遠隔医療、eコマースの機会が制限され、雇用への応募、政府給付の申請、必要な健康情報や教材へのアクセスがほぼ不可能になる。

現在必要なのは、デジタルインフラストラクチャへの投資と人種、収入、地理に基づく不公平な差異を排除できるデジタルアクセスの改善だ。例えば連邦通信委員会(FCC)は、貧困層のインターネットへの電話接続を促進するために設計された現在の「ライフライン」プログラム(Brookings研究所投稿)を、拡張する必要がある。多くのプロバイダーは、電話とインターネットの利用を組み合わせているため、インターネットサービスを含めない電話サービスの補助金を提供する理由はない。Voice over Internet Protocol (VoIP) を利用できるため、サービスが行き届いていない人たちに電話とインターネット接続を簡単に提供することができる。

またFCCは、ホームスクーリングと遠隔学習を含むように、「E-rate」と呼ばれている「Schools and Libraries(学校と図書館)」プログラムを拡張する必要がある。多数の教育機関が閉鎖され、オンライン教育を通じて指導を提供している中で、FCCは新型コロナのパンデミックが生み出した「宿題の格差」を埋めるために、未消化の資金から何百万ドル(数億円)規模の支出を行わなければならない。これは、貧しい学生がオンラインリソースやビデオ会議施設にアクセスするのに役立つだろう。

「The Department of Agriculture’s Rural Utilities Service」(農村施設サービス局)は農村地域におけるブロードバンドサービスを改善しようとしているが、規制によって、現在保有する資金を低速ブロードバンドを改善するために使用することはできない。多くの人が、オンライン教育リソース、遠隔医療またはビデオストリーミングにアクセスするのに十分な速度を欠いている現在、その資金の利用規制にはほとんど意味がなく、居住者のインターネットサービスをアップグレードできるように規制を変更する必要がある。

教育分野では、州と地方自治体はオンライン学習へのアクセスにおける人種および収入に基く格差が、K-12校の仕組みの中で永続的に固定されないようにしなければならない。この問題に対処するには、しばしば提唱されているような、単に貧しい学生に無料のラップトップを配布するよりことよりも、はるかに多くのことが行われなければならない。むしろ、生徒がラップトップを生産的に使用できるようにするブロードバンドアクセスを提供できるような余裕を家庭に持たせるようにして、教師は遠隔学習と教育プログラムに対して十分に訓練され、21世紀の経済に必要なスキルが若者に伝えられるべきなのだ。

未来に進むにつれて、ブロードバンドは高速道路、橋梁、ダムがかつてそうであったように、社会的、経済的に重要なものになるだろう。20世紀と同様に、アクセスの改善には国家計画と官民部門での投資が必要だ。実際、デジタルアクセスはユニバーサルヘルスケアへのアクセスと同様に、基本的人権の1つとして考えられるべきだ。高速ブロードバンドがなくては、デジタル経済やオンライン学習システムに参加することができない。

私たちが最近出版したAI関連書籍で述べたように、米国はデジタルインフラストラクチャに資金を提供し、人種や地理的な格差を軽減し、普遍的な医療保険を促進し、デジタル経済に向けて労働者たちを準備させる国家計画を必要としている。国家に差し迫る重要な課題には、デジタルデバイドの解消、デジタル経済における反不公正ルールの拡大、より公平な税制政策による包括的経済の構築、次世代の労働者の訓練などが含まれている。

新しいデジタルサービスや金融取引にかかる税金は、これらの問題に対処するために実施する必要があるプログラムに対して、資金を提供する役に立つ。100年前に米国が工業化された際に、国家指導者は必要なサービスを支えるために所得税を導入した。同様にデジタル経済に移行する中で、必要な支出のために支払われる新しいタイプの税金が必要になる。アフリカ系米国人、ヒスパニック、移民、貧しい人々への機会を拒否している教育と医療へのアクセスに対する現在の不平等を許すことはできない。もし私たちの国家が、すべての米国人に力を与えることで私たちの可能性を最大限に引き出す国だとするならば、デジタル経済が成長するなかで、こうした個人を置き去りにすることは、現実的な選択肢ではない。

データは多くの新興テクノロジーの鍵である。新しいサービスの開発、デジタルイノベーションの評価、現在の製品の先行きに対処するためには、偏りのない情報を持つことが不可欠なのだ。現在のデジタルデータの多くは、本質的に独占されている。そのため技術革新を改善し、デジタルディバイド(情報格差)を解消し格差解消問題に対処する軽減策を開発する研究者たちの能力が制限されている。連邦政府は、商業目的や研究目的で(プライバシーが守られるように匿名化された上で)使用できるようにすべきデータの宝庫の上にあぐらをかいている(Center for Data Innovationレポート)。国勢調査データによって研究、経済開発、プログラム評価が可能になるのと同様に、デジタルデータへの幅広いアクセスを行わせることで新製品やサービスへの拍車がかかると同時に、公平性問題への対応にも役立つだろう。

新型コロナに悩まされ続けている国の中で、米国人の大きなグループへの機会を拒否し、彼らがデジタル革命の便益を共有することを不可能にしている不公平さを取り除いていくことが不可欠だ。ポストコロナウィルスの世界を展望する中で、誰もがオンラインの世界に参加して利益を得ることができる包括的な経済を構築することが不可欠なのだ。

新型コロナウイルスによって引き起こされた根本的な変化は、ワクチンが開発されウイルスの影響が時間の経過とともに消えて行った後でも、速度が鈍ることはない。2020年に新型コロナによって生み出された技術動向のほぼすべてが、この先進行していく状況の大きな部分を占めることになるだろう。コンピュータのストレージと処理能力の進化、5Gネットワーク、データ分析の利用拡大により、技術革新は今後数年間で確実に加速するだろう。

デジタル環境の外に私たちの仲間の市民の大きな部分を取り残してしまうことは、継続的な人種的不公平、社会的紛争、経済的窮乏そして政治的分裂の温床となる。不信、不満、怒りが、今後何十年もの間、米国の社会的景観を特徴付けるものであることが確実になってしまうだろう。過去4年間は、米国社会における大規模な不平等が露呈されてきた。米国民の中の意図的な政治的分断によるものだけでなく、米国の多くの悪質な不平等の要素を固定してしまうことが事実上確実なデジタルデバイドによっても、その不平等は悪化してきてきた。

これは技術の問題ではなく、リーダーシップに対する挑戦だ。リーダーがすべての米国人の最善の利益のために技術を振るう意志を示すことによって、この国家的危機を解決することができる。次の政権は、これらの問題に正面から対峙し、デバイドを取り除く能力を持たなければならない。逆に、適切な措置を講じることができなければ、私たちの最も脆弱な市民たちを、さらに4年以上ネグレクトと不平等のもとに置くことになるだろう。

高齢者をデジタル世界から置き去りにしてはいけない

5月は全米のOld American Month(米国人高齢者月間)だが、今年のテーマは「つながり、創造、貢献」だ。今日、高齢者とのつながりを阻害している大きな問題がある。それが、デジタルデバイドだ。

米国では、65歳以上の高齢者の3分の1がインターネットを使った経験がなく、半数は自宅にインターネット接続のための設備がないと言われている。インターネット利用している人たちの中でも、半数近くは新しいデジタル機器のセットアップに人の助けを必要としている。Twitter、Facebook、Googleといった巨大ハイテク企業のお膝元サンフランシスコにおいても、高齢者の40パーセントは初歩的なデジタルリテラシーすら持たず、そうした人たちの半数以上が、インターネットを使った経験がない。

デジタル技術の習得は、今や完全な社会参加には欠かせない鍵となっている。もし、高齢者にこのテクノロジーの利用法やトレーニングを提供できなければ、その人たちを社会から締め出すことになり、すでに問題化されている高齢者の孤立化や孤独を増長してしまうことになる。

非営利団体のLittle Brothers Friends of the Elderlyが率いるTech Alliesプログラムの一員として、高齢者に低価格のインターネットやタブレットやデジタルトレーニングを提供し、孤立高齢者に直接関わる活動を行なっている私は、定期的に高齢者の心情に触れている。

私は、62歳から98歳のTech Allies参加者のもとを、8週間のマンツーマンのテクノロジートレーニングの前後に訪問し、彼らの体験を話し合い、現在のテクノロジー事情を説明している。高齢者たちがインターネットの使い方を学ぼうという動機に関連して、1人の高齢者は私にこう話してくれた。「入り方を知らない建物の外に立たされている感じなんだよ」

インターネットの利用環境がなくテクノロジーの使い方を知らない別の女性は、こう話していた。「もうこの世界の一員ではなくなった感じ。社会のある一面に、どうしても参加できない。インターネットの流れの中にいないと、できないことがあるのよ」

テクノロジーを使うことで孤立を深める若者たちとは対照的に、インターネットで可能になるコミュニケーションやつながりは、家族から離れて自宅で独居している人や、若いころに心理的な支えとなっていた愛する家族を失った人たちには特別な価値がある。高齢者も、メッセージプラットフォーム、ビデオチャット、ソーシャルメディアなどを使えば、物理的に訪問することなく、友人や家族とつながることができるのだ。

高齢者は、インターネット上で自分の健康状態を共有できる支援グループと出会うことができる。また、ニュース、ブログ、ストリーミングサービス、電子メールなどを使えば、昔のように自由に出歩けなくなった人でも、外の世界とつながることができる。ある高齢者はこう話していた。「ヘルパーの手を借りなければ簡単には動けない。それにヘルパーが来るのは1日に2時間程度だ。だから(タブレットは)最高の相棒だよ。他の人たちとつなげてくれるからね」。

写真提供:Getty Images

特に高齢者にとって、社会からの孤立は深刻な問題だ。高齢者の孤独は、うつ病循環器疾患機能低下、さらには死を招く。テクノロジーは、こうした危険性の低減を助けることができる。しかしそのためには、このデジタル世界にアクセスできる技術を高齢者に学んでもらわなければならない。

そのギャップは埋められる。私たちの調査によれば、Tech Alliesによって、高齢者はテクノロジーの利用率を大幅に高め、主要なスキルに自信を持つようになった。既存のコミュニティを基盤とする組織にテクノロジートレーニングを組み込むこうしたプログラムは、もっと拡大させるべきだろう。地方、州、さらに国家レベルの経済的支援も充実させ、ハイテク企業や投資家も巻き込む必要がある。昨年1年間だけでデジタルヘルスケア業界が調達した80億ドル(約8857億円)の投資の数分の1だけで、私たちは高齢者のためのツールを作り、使い勝手を改善し、トレーニングの実施、ブロードバンドやデバイスへのアクセスを劇的に拡大できた。

ハイテク企業からの支援には、いろいろな形が考えられる。デバイスを寄付する活動だけに留まらず、高齢者向けのデバイスの開発も必要だ(手が震える人にはスワイプは難しい)。インターネットに不慣れな高齢者専用の技術サポートも必要だろう(キャッシュにクッキーにクラウドに、大変な話だ!)。

さらに、ComcastやAT&Tといったブロードバンド回線事業者は、安価な利用プランの契約を簡便化して、利用資格をもっと緩和すべきだ。そうした努力が的確に高齢者の要求に応えられるように、プロバイダーや高齢者支援を行う各地の団体と協力し合うことも大切だ。

テクノロジーに興味を示さない高齢者が少なくないことも事実だ。そうした中には、デジタルツールを使いたいという気持ちがまったくない人もいるが、それ以外の人たちは、テクノロジーへの恐怖心やスキルの欠如が根底にあって敬遠しているにすぎない。その場合は適正なトレーニングを行えば、恐怖心を取り除き、興味を抱かせることが可能だ。とくに、インターネットの安全教育には最新の注意を払わなければならない。高齢者はインターネットの詐欺に騙されやすく、個人情報を危険にさらしてしまうリスクが高い。だがそれも、高齢者のために特別に組み立てたデジタルリテラシートレーニングを提供することで、安全にインターネットの世界を楽しんでもらえるようになる。

今後数十年で世代が交代したところで、デジタル多様性が重要でなくなることはない。テクノロジーの進化は止まらない。新たなデジタル革新が起きるごとに、若い人たちですら付いてゆくのが難しくなる。

高齢者にデバイス、ブロードバンド、デジタルトレーニングを提供するための投資を大幅に拡大すれば、テクノロジーは高齢者の孤立を解消する強力なツールになり得る。そして、社会につながり、創造し、貢献する力を与えられるようになる。ある高齢者はこう言っていた。「追いついて、世界に加わるときが来たよ」。

【編集部注】
Jessica Fields
ズッカーバーグ・サンフランシスコ総合病院(Zuckerberg San Francisco General Hospital)で、社会的弱者のためのUCSFセンターの調査分析者およびプログラムマネージャーを務める。The OpEd Projectの共同研究者。

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(翻訳:金井哲夫)