抗生物質をプログラム可能なウィルスで置き換えることを狙うスタートアップFelix

現在、世界は戦争状態だ。しかも、これは普通の戦争ではない。それは顕微鏡を用いることによってようやく見ることができる小さな生物との戦いであり、もし私たちがそれを止めなければ、数十年のうちに莫大な数の人びとが死ぬだろう。いや、私がここで話しているのは、現在全員の関心を引きつけている新型コロナウイルス(COVID-19)のことではない。私が話しているのは抗生物質耐性菌のことだ。

事実として、昨年は世界で70万人の人々が細菌感染症で亡くなっている。そのうちの3万5000人が米国人だ。国連の報告によれば、私たちが何もしなければ、この数字は2050年までには毎年1000万人まで膨れ上がるだろうと言われている。

何が問題なのだろう?それは、病院もしくは、家畜ならびに農業慣行における抗生物質の過剰使用だ。私たちは悪い細菌を皆殺しにしようと、長期間大量の薬を使ってきたが、それが殺すことができたのは、悪い最近の大部分であって、全部ではなかった。そして、映画ジュラシックパークの中でイアン・マルコム博士役のジェフ・ゴールドブラムが口にする、あの有名なセリフのように「生命は、必ず道を見つける」のだ。

そこに登場したのが、最新のY CombinatorバッチのバイオテックスタートアップであるFelix。同社は細菌感染症を寄せつけないための新しいアプローチを推進している 、ウイルスの利用だ。

ペトリ皿上で細菌を殺すファージ

新型コロナウイルスに対する広範な懸念が広がるこの時期に、たとえどんなウイルスであったとしても、それを良い視点から眺めようとするのは奇妙に思える。だが共同創業者のRobert McBride(ロバート・マクブライド)氏によれば、Felixの基幹技術は、同社のウイルスが細菌の特定の部分を狙うようにできるのだという。これは悪い細菌を殺すだけではなく、細菌が進化して再び耐性を獲得する能力を奪うことができる。

しかし、ウイルスを使用して細菌を殺すというアイデアは 必ずしも新しいものではない。細菌に「感染」するウイルスであるバクテリオファージは、1915年に英国の研究者によって発見された。1940年代にはイーライリリー・アンド・カンパニーによって、米国内での商用ファージセラピー(バクテリオファージを用いた治療)が開始されている。だがちょうどその頃に、抗生物質が登場したために、西洋の科学者たちがその治療法をさらに探求することはなかったようだ。

だが、標準的な薬物モデルが現在の状況に対して効果的に機能しておらず、提供されている新しいソリューションがあまりにも少ないという事実を前にして、マクブライド氏は彼の会社がファージセラピーを治療の最前線に戻すことができると考えている。

すでにFelixは、そのアプローチを実証するために10人の初期グループに対してソリューションをテストしている。

ファージセラピーを使って、嚢胞性線維症患者のElla Balasa(エラ・バラサ)氏の支援を行うFelixの研究者

「私たちは希少疾病を対象としていて、既に私たちの治療法が人間の体内で働くことは知っているので、従来の抗生物質よりも短い時間と少ないコストで治療法を開発することができるのです」とマクブライド氏はTechCrunchに語った。「私たちは、細菌を従来の抗生物質に再感作するようにする私たちのアプローチが、治療の第一選択になる可能性があるということを主張しています」。

Felixは、嚢胞性線維症に苦しむ患者に対する細菌感染症治療をまずは展開する予定だ。なぜならこの病気の患者の多くは、肺感染症と戦うために、ほぼ一定量の抗生物質投与を続ける必要があるからだ。

次のステップは、30人の患者を対象とした小規模な臨床試験を実施することだ。その後、FDAの承認を求める前に、通常の研究開発モデルが進むように、より大規模な治験を実施する。だが、マクブライド氏は、抗生物質耐性菌による今後の猛攻撃に対抗するために、彼のウイルスソリューションの有効性が早期に認められることを望んでいる。

「抗生物質耐性菌の問題が、現在大きくひたすら悪化しつつあることはわかっています」とマクブライド氏は語る。「私たちはこの問題に対するエレガントな技術的ソリューションを持っていて、私たちの治療法がうまくいくことを知っているのです。私たちは、細菌感染症によって年間1000万人以上が死ぬことがない、明るい未来のために、貢献したいと考えています」。

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(翻訳:sako)