4年越しの夢の実現へーー電力小売向け基幹システムのパネイルが約19億円調達

電力小売事業者向けの基幹システム「Panair Cloud(パネイルクラウド)」を展開するパネイルは6月25日、Ad Hack Ventures、インキュベイトファンドなどから総額19億3000万円を調達したと発表した。これにより、同社の累計資金調達額は31億1000万円となる。

今回のラウンドに参加した投資家は以下の通り:

  • Ad Hack Ventures
  • インキュベイトファンド
  • SMBCベンチャーキャピタル
  • NCBキャピタル
  • 七十七キャピタル
  • 千葉功太郎氏
  • DG Daiwa Ventures
  • 山口キャピタル
  • 横浜キャピタル
  • りそなキャピタル
  • YJキャピタル

パネイルは、2016年4月に実施された電力小売全面自由化によって急増した電力小売業者向けに基幹システムを提供するスタートアップ。同社はこの基幹システムの開発のほか、北は札幌から南は福岡まで、全国7ヶ所に電力小売会社をグループ子会社として抱え、みずから電力を供給するプレイヤーとしても活動している。

パネイルが提供するPanair Cloudは、これまで人力で行なっていた作業をコンピューターや人工知能が行うことで大幅な業務効率化を実現したクラウドベースの基幹システム。顧客管理や需給管理など、電力小売事業に関わる一連の業務を一気通貫して行うことができる。Panair Cloudについては以前もTechCrunch Japanで紹介しているので、こちらの記事も参考にして頂きたい(当時のサービス名は「Odin」)。

でも、パネイルはこれまで長い間そのPanair Cloudを外部に提供してこなかった。いや、できなかったという方が正しいだろう。

「これがずっとやりたかった」

パネイルは2012年12月の創業で、当時は太陽光発電を始めたい一般消費者と施工業者をつなげるマッチングサービスを提供していた。しかし、その事業は結局上手くいかずピボットせざるを得なくなった。2014年頃のことだ。そして、代表取締役の名越達彦氏が次に目をつけたのが、自由化を控え注目の真っ只中にあった電力小売事業だった。

電力という生活インフラを扱う電力小売事業では、そのビジネスの根幹を支える基幹システムの導入は必須だ。しかし、大手ITベンダーが提供する基幹システムは導入費用だけでも数億円かかる代物。これでは、せっかく電力小売自由化が実施されて新規参入が促進されたとしても、資本を持たない企業にとっては参入障壁が大きすぎる。それに、それらの基幹システムは自動化された部分が少なく、多くの人の手を必要とするものだった。

そこで、パネイルはRPA(ロボットによる自動化)技術を駆使したクラウドベースの基幹システムを自社でゼロから開発し、それを小売業者に販売することを目指す。開発費も他社と比べて「数十分の1」(名越氏)に抑え、より安価なソリューションを提供できるはずだった。

しかし、この基幹システムの販売事業も上手くいかなかった。電力小売事業者にとっては、生活インフラを扱うからこそ、実績もないスタートアップの基幹システムを導入する気にはならなかったのだ。実績を作らなければ売れない。でも売れないから実績も作れなかった。

そこで名越氏は、みずからが電力会社となり運用実績を作ることを決心する。そうして立ち上げられたのが前述した全国7ヶ所にある電力子会社だ。「自分の祖母にでも受け入れられやすい名前を」(名越氏)ということで、各電力会社の名前は「札幌電力」や「東海電力」など、あたかも創業100年級の企業のような名前にして、地道に電力の小売を続けてきた。

この地道な努力は2018年4月に実を結ぶ。同社は東京電力エナジーパートナーと共同でジョイントベンチャーのPinTを設立。この新会社は、パネイルの基幹システムを導入して電力やガスの供給を行う企業。ジョイントベンチャーではあるが、パネイルにとってこれが自社システムを外部に提供する初めての事例となった。同年5月にはPanair Cloudの外部向けソリューションである「Panair Energy Automation」も発表している。

「僕たちはこれがずっとやりたかった」と名越氏は話す。パネイルが今回大型調達を実施したのも、外部へのソリューション提供をさらに加速するためだ。同社は今後も電力小売業者とともにPinTのようなジョイントベンチャーを立ち上げ、レベニューシェアすることによって収益基盤を拡大する方針。PinTの場合、資本金8億円のうち3億2000万円(40%)はパネイルが出資しており、これを続けていくにはお金がかかる。だからこそ、同社はここでアクセルを踏んで大型調達に踏み切ったというわけだ。

名越氏は取材のなかで、「僕たちは当初、お金がなくて人が雇えなかった。人が雇えなければ技術でなんとかしよう、ということで進化を続けていったのがPanair Cloudだ」と話した。驚くべきことに、全国7ヶ所の電力会社を含むパネイルグループの総従業員数はわずかに50名ほど。この人数でも全国的な電力小売を行えるほど、Panir Cloudによる業務効率化の効果は大きい。ピボットから約4年。Panair Cloudは苦労の末にやっと実った果実だ。

クラウド・人工知能を搭載した電力小売供給基幹システム「Odin」、運営元が11.8億円の資金調達

%e3%82%b9%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%83%e3%83%88-2017-02-28-18-20-44

2016年4月にスタートした電力自由化。これまでは地域で決められた電力会社としか契約できなかったが、いまでは契約先や料金プランを自由に選べるようになった。そのような背景から、大手通信キャリアを筆頭に電力サービスの提供に乗り出すなど小売電気事業者の数も少しずつ増えてきている。

そんな中、小売電気事業者を対象にしたサービスも誕生している。電力小売供給基幹システム「Odin(オーディン)」を展開するパネイルは2月28日、インキュベイトファンドSMBCベンチャーキャピタル大和企業投資DGインキュベーションドーガン・ベータ広島ベンチャーキャピタルみずほキャピタルYJキャピタルを引受先とする総額11.8億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

電力小売供給業務の効率化を目指す

電力小売供給基幹システムと言っても、ピンと来ない人がほとんどだろう。Odinは小売電気事業者を対象に、顧客管理や需給管理、請求管理といった電力小売業務に必要な機能を一括で提供することで、電力小売供給業務の効率化を目指すというもの。

パネイル代表取締役の名越達彦氏によると、電力自由化の開始以降、小売電気事業者の数は増え続けており、現在(2017年2月28日時点)では300社を超えているという。市場環境は大きく変化しているものの、これまで10社が独占していた領域とあってアナログな部分は多く残る。

例えば、顧客の契約状況や問い合わせ状況を一元管理できずにいたし、何より発電量と顧客の消費電力量のバランスを人の目で常に管理しなければならず、とても非効率だった。Odinはこうした問題をクラウドコンピューティング環境と人工知能を活用し、顧客管理機能、需給管理機能、請求管理機能を提供することで課題を解消。電力小売供給業務の効率化を目指している。

main

CRM機能内包することで顧客情報を一元管理でき、請求書の作成、送付も全自動で行うことができる。また特筆すべきは日本初(2016年4月時点)のRubyベースで構築されていること。電力の30分確定使用量データを自動で取り込め、リアルタイムに処理できるという。

同社が提供している人工知能(AI)を活用した電力の需給予測エンジン「Odin Gungnir(オーディン グングニル)」と組み合わせれば、人を使わずとも電力の需給管理が行えるようになる。

sub1

今後、パネイルは調達した資金をもとに、需給予測の精度向上などOdinの開発強化を行っていくとしている。