「ものづくりを支える“いい道具”を提供することで、世の中からもっと良いサービスが生まれる。そんな循環を作っていきたい。イメージとしては大工さんが仕事で使う道具のようなもの。(周りからは)見えづらいけど、ものづくりをしっかりと支える存在」——そう話すのは、チーム向けの情報共有ツール「Kibela(キベラ)」を提供するビットジャーニー代表取締役の井原正博氏だ。
同社は6月18日、元クックパッドの社長で現在はオウチーノやみんなのウェディングで取締役会長を務める穐田誉輝氏から約5500万円を調達したことを明らかにした。
クックパッドの組織作りを支えた情報発信の文化
井原氏はもともとヤフーやクックパッドで開発部長や技術部長を担っていた人物だ。
特にクックパッドにはエンジニアが7〜8人のタイミングでジョイン。「日本で1番、イケてるエンジニアが働きたいと思う会社」を目標に技術力の向上やエンジニアの採用に従事し、開発チームが40〜50人規模になるまでを支えた。同社ではその後、人事副部長や新規事業の立ち上げなども担当している。
そんな井原氏が自ら起業をして、社内情報共有サービスを開発するに至ったのは、クックパッドで使われていた社内ツール「Groupad」の影響が大きかったという。
「クックパッドではGroupadを通じてエンジニアに限らず社員みんなが積極的に情報発信をしていて、これが強い組織作りのひとつの源泉になっていた。あるメンバーの知見や経験、アイデアがほかのメンバーにもインプットされ、また新しいアイデアを生むきっかけになる。そんな良いサイクルが回っていたように思う」(井原氏)
自分が得たものを少しだけ頑張って社内へアウトプットすることで、他のメンバーの役に立てる。そんな効果があるのはもちろんだけど、実は発信者側にも大きなメリットがあるという。
「情報を発信すればするほど、周囲から『自分の得意なこと』を知ってもらえる。結果的に関連する情報や仕事が自分に集まり、さらに得意になり成果にもつながる。(この仕組みができれば)わかりやすく言えば、情報を発信することで給料もあがると考えている」(井原氏)
このような文化が他の組織にも広がっていけば、より良いものづくりが行われ、今よりもさらに良いサービスが増えていくのではないか。そんな思いからまずは井原氏1人でKibelaの開発を始めたそうだ。
そこから少しずつ体制を整え2016年5月にベータ版のティザーサイトを公開したところ、数百チームが登録。同年8月にベータ版を、2017年3月に正式版をリリースしている。
とにかく簡単でシンプルなインターフェースがウリ
少し背景が長くなってしまったけど、ここからはKibelaがどんなプロダクトなのかをもう少し詳しく紹介したい。
Kibelaは社内に蓄積しておきたいストック情報を発信、共有するためのツールだ。個人的なメモや考えを共有できるBlog(ブログ)と、複数人で情報の整理がしやすいWiki(ウィキ)の2種類のアウトプット方法を用意している。
発信の対象となるのは議事録や日報だけでなく、個人的な学びや気づきなど幅広い情報。部署ごとにグループをつくることで、情報が届く範囲をコントロールすることもできる。発信した情報が個人のプロフィールページにも蓄積されていくので、「各メンバーごとの得意分野や関心トピック」も周囲からわかりやすい。
チームの情報共有をサポートするサービスとしては、世界で広く使われている「Confluence(コンフルエンス)」のほか、国内発の「Qiita:Team」や「esa」などがある。
井原氏の話では世界のエンタープライズ向けのツールとしては現状Confluenceの一択であり、別の選択肢となれるようなサービスを目指したいということだった。サービスの特徴としては「技術的に何かしらの特許で支えられているわけではない」とした上で、今は使い勝手の違いが大きいという。
「前提として社員全員が使えないと意味がない。クックパッド出身者が多いということもあり、とにかく簡単で使いやすいインターフェースへのこだわりや、サービス開発に対する考え方は意外と真似できないのではないか。いかにUIを追加せずやりたいことができるかを追求する一方で、なんでもできるツールにはせず『こう使うといいのでは』という意思を込めている」(井原氏)
たとえばこういったツールでは一般的な機能のように思える、記事ごとのタグ機能はKibelaにはない。その理由は「探したい情報にたどり着きやすくするのが目的なのであれば、検索の精度をあげるなど別の手段もある。検索の場合はインターフェースを増やさずにすむので、よりシンプルに保てるから」(井原氏)だという。
試しに少し使ってみたのだけど、投稿画面も含め余計な機能が一切ないというか、他のツールではあるような機能も削ぎ落とされているように感じた。Confluence含め上述した3つのサービスは全て使ったことがあるが、確かに「それらにはない特別な機能がいくつもある」というわけではなさそうだ。
なおKibelaはユーザー数に応じて料金が変わる設計になっていて、5ユーザーまでは無料で使うことができる。
今後はエンタープライズ領域で拡大へ
現時点の導入企業はスタートアップ含めTech系の小規模なチームが多いというが、徐々に大きめの企業からの問い合わせが増えてきているという井原氏。これからの1年で売り方を固めつつ、より大規模な企業にも使われるサービスを目指していくという。
「今までコツコツと作ってきて、ようやくお金を払って使ってもらえるレベルになってきたのでここからアクセルを踏んでいく。(大規模な企業では)情報が属人的になってしまい、社内に共有するという文化がないところも多い。アウトプットをするのが日常的ではない人でも使いやすいサービスを通じて、情報共有の課題を解決していきたい」(井原氏)
ビットジャーニーでは今回調達した資金を通じて、開発やセールスなど人材採用を強化する方針。エンタープライズ向けの機能開発や事業推進、ネイティブアプリの開発などに取り組む。